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海を走る者、海を壊す者 その③

 

 驩兜(かんとう)と呼ばれるドラコル王国内に8体存在する龍種の内の1体と接敵した勇者一行。


 龍種との邂逅に、脈絡はいらない。

 ただ理不尽に、ただ不条理に、ただ不都合に、ただ不親切に、ただ不平等にその姿を現し、無情と無益と無謀と無駄と無理を押し付けてくるのが龍種という存在だった。


 それを体現してくれるかのように、驩兜(かんとう)は海の上を走行していた船を一本の触手───否、触腕で持ち上げて、逃げれなくした状態で海に叩きつけるように落とした。


 驩兜(かんとう)は紛れもなくドラコル王国の中で最強に値するべき存在であり、出した被害もトップクラスであるが、その「最強」という称号が驩兜(かんとう)を慢心させ油断させる理由にはならない。

 だから、逃げ場をなくすために船を10本ある触腕の1つで掴み取り、その胴体と他の足を巧みに操って、海に叩き落された後に、運良く助かったとしても逃げれないようにした。


 ───が。その用意周到さが───正確に言うのであれば、その用意周到さが生んだモラトリアムこそが、驩兜(かんとう)のエサを───勇者一行を生かす道になってしまった。


 上空20mはくだらない高さから落下する舟船。

 超巨大なツタンカーメンマスクが海から現れ、その金色のマスクから少しピンクに染まっているようにも見える何本ものタコ足がうねっているのを見れば、誰だってその存在に気付くだろう。

 だが、その存在に気付いたところで太刀打ちはできないのだ。いや、誰も立ち向かおうとは思わず我先にとその場から逃亡していくだろう。


 助けは来ない。そんな状況で、落下する舟船。

 このまま何もできずにゲームオーバーか、そう思われたその時だった。


「蓮也、行けぇ!」

「〈世界氷結(アブソリュート・)の理(コンプライアンス)〉」


 かつて、砂漠で出会った武者───これまた驩兜(かんとう)と同じ龍種である『砂漠の亡霊』三苗の猛攻を止めるために使用された、蓮也の持つ唯一のAランク魔法。


 碧い海が、碧い空が、凍る。

 落下していく船を中心に氷の大陸が生み出され、天高く聳える氷柱に巻き込まれるようんしいて船の動きが止まる。


 船の真下には、海が凍って完成した半径100mほどの円形のバトルフィールドが完成していたのだ。


「おい、『無敗列伝』。この怪物の倒し方は?」

「知らねぇよ。誰も倒したことねぇんだから」

「攻略サイトでも読んで練習しておけ、役立たずめ」

「攻略サイトが何か知らねぇけど、最ッ悪な罵倒をされた気がする!」


 全身全霊のAランク魔法を放ったがために失神した蓮也の首根っこを掴む愛香と、既に剣を引き抜いている『無敗列伝』がそんな会話をする。


「愛香!船がどうなって───ってうお!」

 船の天地が傾き、移動さえもままならない状態で康太は愛香の方へ近付いたが、外に落ちてしまいそうになる。『無敗列伝』が、なんとか支えたために落下は免れたものの、この船の上に滞在し続けるのはかなり危険な状態だった。


「勇者のお前らはできてんのか?戦う準備」

「俺はしてきた。他の皆も、直に来る」

「そうか、ならお前らは先に下の氷の足場にでも行ってろ」

「命令するな。最初から、そのつもりだ」


 愛香はそう口にすると、我先にと氷の地面の方へと飛び降りていく。通常であれば、確実に骨が折れて、落下死する可能性だってある高さ。

 だが、何の恐怖も躊躇いも無しに飛び込めるところが愛香だろう。


「勝負しろ、驩兜(かんとう)!今夜はイカ焼きパーティーだ!」

 そう口にして、紐なしバンジーを終えて氷の大地の上に着地する愛香。怪我はなく、氷にキレイなヒビが入った。だが、割れることはない。もちろん、首根っこを掴まれていた蓮也も無事だ。

 一体、どこまでこの氷が生成されているかはわからないが、それなりに深くまでは続いていそうだった。


 愛香が着地すると同時、氷柱を伝うようにして多くのメンバーが降りてくる。

 そして、勇者達10人が降りてきたと同時───


「「「───ッ!」」」

 地面が震撼し、氷の大地の中心にあった氷柱が、『無敗列伝』や船員を乗せた状態で吹き飛んでく。


「おい、マジかよッ!」

「ハッハッハ!見事なホームランだな。今年の千葉ロッテマリーンズも悪くない」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」


 船ごと氷柱が吹き飛ばされることに驚く康太に、破顔する愛香にそれをツッコミを入れる美玲。


「あれだけ大きな氷柱でさえ一発なら、俺達は一度でも当たったら即死だろうな」

「そうだね、大盾でガードできそうにない...」

 愛香達の横で、驩兜(かんとう)と相対して正確に見極めようとしている誠と真胡の2人。


「───準備はバッチリよ。早く、行きましょう?」

 歌穂が、そう口にして背負っている斧を両手で握ったその時、誰の雄叫びもなく勝負が開始したのだった。


「どうやら、この氷の大陸がデカすぎて驩兜(かんとう)は思うように身動きができないらしい。倒すのならば、今がチャンスだ」

 愛香は、あまり暴れることを見せない驩兜(かんとう)に対して、そんな感想を持つ。


 それと同時、一本の触腕が10人の立つ───正確には、蓮也は失神して真胡に背負われているので、9人の立つ地面に迫ってきたのであった。



 ───こうして勇者一行と驩兜(かんとう)の、神話に残る激戦が幕を開けたのであった。

海だから千葉ロッテマリーンズにしただけで、俺は野球わからないです。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
驩兜、エグいな。 しかし超巨大なツタンカーメンマスクか。 十年以上前にエジプト旅行したけど、 革命が起きて、ピラミッド見逃したオレが通りますよ。 にしても龍種のバリエーションが豊富ですな。
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