海を走る者、海を壊す者 その①
───翌日。
「それじゃ、王都プージョンには立ち寄らずに、全望の街アールに直行する。それで、いいな?」
「あぁ、俺達はそれで構わない」
『無敗列伝』の発言に、康太がそう納得の意を示す。
そして、勇者一行と『無敗列伝』の11人がナール海岸へと移動すると、汽笛の音が鳴り響き海の上を滑るように走ってくるのは、巨大な鉄の塊───船であった。
「あれは...」
「どうだ、驚いたか?俺の船『ティータニック』だ。あの船は早いからな。1日もありゃ、もう商業都市アールに到着だ」
自慢げに、豪華客船並の大きさのティータニック号の自慢をする『無敗列伝』。
「ティータニックって、タイタニックじゃね?」
「氷山にぶつかって沈むな...」
「お前ら、何を言う!あの船はな、絶対に沈まない船って銘打たれてるこの世にある最高級の船だ!5年前に買って、何度か乗ってるがどんな魔獣に攻撃されようがビクリともしたことはねぇ!」
「操船ミスをするんじゃ...」
「失礼な!俺は貧乏じゃねぇ、プロを雇ってるわ!一体、『ティータニック』になんの恨みがあるんだよ!」
「いやぁ...あまりにも沈みそうな名前だから...」
『無敗列伝』の持つティータニック号が、沈むのではないかという不信感を持つ勇者達一行。だが、その不安は杞憂に終わる。なぜなら───
「『無敗列伝』様ー!すみません、あまりにも大きすぎて座礁してしまいましたー!」
沈むよりも先に、ティータニック号は座礁し使い物にならなくなってしまったのだから。
***
「クソッ!どうして、どうして...」
座礁してしまった高級船、買った値段の1/10にも満たないお金でティータニック号を売り、得たお金で11人が乗れる船とを購入した『無敗列伝』。
泣きそうなのを堪えながら、彼はティータニック号の運転を任せるつもりだった船員の運転する、新たな船に乗り込み、出発の時を待っていた。
「なんだか、『無敗列伝』が可哀想に思えてきたな」
「ここ3日間で、なんか人生の全てを失ってるような気がする...」
悲嘆に暮れる『無敗列伝』のことを遠巻きに見ているのは、誠と美玲の2人。『無敗列伝』のことを「可哀想だ」とは思えども、なんて声をかければいいのかわからずに、ただこうして遠くで見ることしかできなかったのだ。
思えば、『死に損ないの6人』というメンバーでなくなり、何もしていないのにもかかわらず『総主教』に冒涜者認定をさせられて、豪華船であるティータニック号を座礁して売る羽目になった。
そして、その2/3が勇者に巻き込まれる形でなってしまったことだから、申し訳ないという気持ちはあって当然だろう。
「あの男は放っておいて、妾達は作戦会議と行くぞ。康太が呼んでおる」
『無敗列伝』にも聴こえるであろう声で、そんなことを口にするのは愛香であった。
康太は、この2日間の航海を終えた後に商業都市アールでどうするか───という話をしようとしているのだ。
愛香に作戦会議に誘われた2人は、ペコリと『無敗列伝』に一礼した後に、康太のいる船の一室へと向かった。
「アイツらの慰めの言葉が欲しいわけじゃねぇが、もうちょっといい対応はあっただろ、座礁したんだぞ?船がァ...」
悔しそうにそんなことを口にする『無敗列伝』。
そんな言葉を置いて、甲高い汽笛を鳴らした船は出発していったのだった。
***
船が動き出して早くも10分。
魔法で海の上を進んでいく船に乗りながら、机を囲むのは勇者達10人であった。その机の上にはプージョンで買った地図と、それぞれが用意したジュースの入ったコップが置かれていた。
「それじゃ、話し合いを開始しよう。まず、船長さんに聴いたところ、この船が商業都市アールに───正確には、停泊予定の港がある絶崖アイントゥに到着するのは明日の夕方らしい。だから、到着したらもうアイントゥの港町で1日宿泊して、翌日1日かけて商業都市アールに向かうつもりだ。ここまではオッケー?」
康太のその説明に、全員が頷いた。
「それで、問題は商業都市アールで何をするか。『無敗列伝』の説明を聴くに、この世の全てが買えるらしいけれど...そこで栄の情報が買えるなら、俺はそれに賭けてみる必要はあると思う。皆はどう思う?」
「妾も、それに賛成だ。利用できるものは利用していくに越したことはない」
「俺もそれに同感だ。やたらめったらに探すよりも、買った情報の方がすぐに見つかりそうだ」
康太の意見に、愛香と誠の2人も同意を示す。
「よし、じゃあ同意を得れたことだし、商業都市アールを存分に利用させてもらうことにしよう。それで、情報を手に入れたら別行動してる健吾や智恵達との合流をしてから動くか、合流せずに先に動くか、どうする?」
「それは合流したほうがいいだろう。栄の目撃情報が皆無だということは、どこかに囚われている可能性も高い。その場合、栄を捕らえている何かを戦闘することになるだろう。それであれば、戦力が多いほうがいいはずだ」
「そうだね。じゃあ、これまで通り健吾達と合流していく方向性で行こう」
そう口にして、話し合いを終える康太。
そのまま、その日1日は何も問題なく船に揺られてドラコル王国の海を移動していくのだった。