Dracol Genesis その⑦
執拗に追いかけてくる『総主教』から逃げ惑う康太達10人と邂逅したのは、1人の男性。
現在、昨日まではこの世界のトップ6と称される『死に損ないの6人』に選出されていたが、『水晶』の占いを利用したことによりレベル84に下がったため、そこから外された男───『無敗列伝』の名を関するアルグレイブ・トゥーロードは、勇者が絶体絶命のこの状況に鉢合わせたのだった。
「───お前はッ!」
『総主教』も、『無敗列伝』のことは知っているのか、街角から姿を表した彼に驚きを口にする。
「最悪だ、勇者に出会っちまった...早速、アドバイスの1つが水の泡じゃねぇか...」
的中率100%の占い師である『水晶』から「勇者に出会わない」か「大きな戦いの前に『顕現する神の食指』を殺す」のどちらかを実行しなければ「大きな戦いで死ぬ」と占われてしまった『無敗列伝』。
勇者に出会わないために、今日引きこもる準備をしていたら、こうして勇者とバッタリ出会ってしまったのだ。
今、勇者はムーヌから逃げ出そうとしているのだから1時間もすればとこの都市からいなくなる。
だから、この時この場所にさえいなければ出会うことは無かったのにもかかわらず、出会ってしまうのが運の全く無い男『無敗列伝』であった。
「───アナタも、『総主教』の仲間?」
戦闘にいた真胡が目を細めながら『無敗列伝』のことを見てそんなことを口にする。
「いや、ちげぇ!俺は『総主教』の味方ではねぇ。ただ町ブラしてた一般人だよ!」
「『無敗列伝』。アナタは一般人ではないでしょう。アナタは『死に損ないの6人』にまで選ばれたこの国の人間の最強格!」
「あぁ...それなんだがよ、もう昨日付けで辞めたんだわ」
「───は?」
「引退引退。『水晶』の占いを利用したら死ぬって言われたからよ。具体的な解決方法を聞いて、勇者に出会うな───って言われたんだがよ、どうだか失敗なようだ」
「───『水晶』...」
『総主教』が『水晶』のことをどう思っているか知らないし、康太達にとっては『水晶』ばかりか、目の前にいる『無敗列伝』だって何者かわかっていない。
だが、『総主教』の驚きと発言から考えて、この『無敗列伝』がこの国でもかなりの強者なことはわかるだろう。
だから、康太は考える。この場を乗り越える方法を───。
「やっと来たか、『無敗列伝』!随分と遅かったな、俺達の代わりにあのゴーレムと憎き『総主教』を倒してくれ!」
「「「───は!?」」」
康太の発言に、美鈴が、『無敗列伝』が、『総主教』が驚きの言葉を口にする。
「いやいやいや、勇者サン!何言っちゃってんの!?俺達初対面じゃねぇか!」
「まさか勇者め...『無敗列伝』をも協力者に組み込んでいたとは!ここで倒すのが難しくなりそうね...」
「ちょっと待って!?何『総主教』様も信じ込んじまってるの!?」
「皆!目の前の『無敗列伝』は強敵だが、一致団結すれば勝てる!神のことを信じて臆せず進め!冒涜者には、制裁を!」
「「「冒涜者には、制裁を!」」」
「おい、嘘だろォォォォォ!!!」
修道女達はそう口をそろえて、槍を天高く掲げる。そして、『無敗列伝』を含めた康太達11人を再度追い始めたのだった。
一同はすぐに立ち上がり、『総主教』を乗せているゴーレムとは反対の方向へ走っていく。
「『無敗列伝』!今日で貴様の無敗伝説はお終いだ!」
「なんで、なんで俺が巻き込まれなきゃいけねぇんだよぉぉ!」
康太の思いついた発言が、上手くいったのはたまたまなのか、それとも『無敗列伝』の運のなさが露呈したのか。きっと、後者であるだろう。
『無敗列伝』の運のなさは、時に他の人が持つ豪運さえも跳ね飛ばし、『無敗列伝』に対して苦難を持ちかけてくる。
今回の受難だって、その一つに過ぎないだろう。
このまま立ち止まっていれば、『無敗列伝』はゴーレム押しつぶされて修道女の波に飲まれてしまうのは確定しているので、康太達と一緒に逃げるしかないのだ。
「あークソ!仕方ねぇ、お前ら俺に付いてこい!」
そう口にして先頭を走る『無敗列伝』。きっと、康太の発言により生み出された誤解は『総主教』の中で解けることなく、このまま進んでいくだろう。
康太達は、『無敗列伝』を仲間にして逃げ延びた。ゴーレムの通れないような路地を通り、ドグマをなんとか撒いてから宗教都市ムーヌの外に飛び出したのであった。
「ここまでくれば一安心だろ...」
気付けば、2時間以上全速力で走り続けていたからか多くのメンバーはヘロヘロだった。
この中では一番運動能力がある誠でさえも、その息を切らしていた。
だが、『無敗列伝』は軽鎧を身に着けていながらに息が切れたような感じはしていない。
「───はぁ...はぁ...すみません。巻き込んでしまって。俺達は国王陛下に勇者として選ばれた20人の内の半分です。とりあえず俺だけ。名前は康太と言います。アナタは?」
『総主教』とその手先から逃げ延び、ナール海岸の砂浜に足をつける康太は、自らが巻き込んでしまった『無敗列伝』にその名を聞く。
「俺の名前はアルグレイブ・トゥーロード。人呼んで『無敗列伝』だ。ったく、見ず知らずの俺のことを巻き込みやがってよ。お前らに協力してやったんだから、お前らも俺に協力しろよ」
海に夕日が沈む中で、『無敗列伝』の二つ名を持つアルグレイブ・トゥーロードは、改めて康太達の前でそう自己紹介をしたのだった。
海は、風に揺れていた。