Dracol Genesis その⑥
巨大なゴーレムに乗り、康太達10人を追いかけるようにしてやってくるのは『総主教』ウェヌス・クラバス・ホーキンス。
ゴーレムの後方には軍隊のように列を成して進んでくる槍を持った大量の修道女の姿が、ゴーレムの前方には切り込み隊長としてやってきていた元勇者のドグマの姿があった。
康太達10人は、ドラコル教の総本山でもあるムーヌ大聖堂の外に出て、ムーヌの都市に出たけれども、『総主教』は追いかけてくるのをやめない。
都市の中を、巨大なゴーレムに乗り「皆さん、道を開けてください。よろしくお願いします」などと声をかけながら、走っていったのだった。
なんらかの魔法によるものなのか、都市には「冒涜者である勇者一行が逃亡しています。危険ですのでできる限り外に出ないでください」などという放送が響いていた。
「食らえッ!」
「───ッ!」
そう口にして双剣を振るってくるドグマに、最後尾の愛香はなんとか槍で攻撃を受け止める。
愛香が皆を追いかけるように最後尾を走っているのもあるが、先程の叛逆にも問題があるのか、執拗に狙われているのか嫌そうな顔をする。
喧騒に包まれた都市を駆けながら、チェイスしてくる『総主教』達から逃げる。
攻撃してくるドグマに苛立ちを覚え、愛香は体を180度回転させて立ち止まった。
「───ッ!愛香!?」
それを横目で捉えた康太は、その場で急ブレーキをかけて立ち止まる。
「康太!貴様は先に行っていろ、ドグマを追い払うだけだ!」
「───了解した!誠、愛香の援護を!」
「了解」
康太は、弓使いの誠にそう指示を出して、もしもの時のカバーを任せる。
「立ち止まって皆を逃がすとは、英雄気取りか?」
「気取りではない、英雄だ」
お互いにそう言葉を交えた後に、技を披露し合う。
「〈紅蓮薙ぎ〉」
「〈叕頭斬り〉」
ドグマが、左右両方の手に持たれている剣で〈双頭斬り〉を使用し、技名は〈叕頭斬り〉となる。
だが、それよりも先にリーチの長い愛香の持つ槍が、炎を撒き散らしながら薙ぐようにして横に大きく振るったため、ドグマの体に巻かれている包帯に火が移る。
「───ッ!〈打水〉」
ドグマは、咄嗟に体に火が付いていることに気が付き、Cランク魔法である〈打水〉を使用し、火が付いている部分にバスケットボール大の水の玉をぶつけた。
───と、走行している間に愛香と誠の2人は、他の勇者達のいる方向へ逃げてしまっていた。
「クソ、ちょこまかと...」
逃げる愛香を追おうとするが、周囲には撒き散らされた炎が残っていた。この炎があっては、都市にも迷惑がかかってしまう。
「ドグマ!進みなさい!この火は、後方の部隊に消させます!」
「───了解しましたッ!」
戸惑うドグマに、そんな声をかけて先に進むことを指示するのはウェヌス。
そんな彼女を乗せたゴーレムは、火のことなど全く気にもとめずにドシンドシンと石が敷き詰められたムーヌの市街地を歩いていく。ドグマも、跳躍して炎を避けて先に進んでいた。
ゴーレムの後方にいた槍を持った修道女の部隊が、水魔法を行使してその火を消したのだった。
───そんな、愛香が振りまいた火の粉の対応に追われている中、逃げ惑う勇者達はと言うと。
「2人共、戻ってこれてよかった」
「当たり前だ。はぐれるわけがないだろう」
心配する康太に対し、そう言い返すのは愛香であった。
だけど、心配してくれた康太に対する罵詈雑言───というものは存在していなかった。
これは、愛香が康太に対して心を入れ替えた───と言われると、きっと違うのだろう。
愛香は今、追ってきている『総主教』達ドラコル教の一派を最も嫌っているので、相対的にクラスメイトである康太達に対して優しく接しているだけだと思う。
愛香が気付かぬ内に持っていて、自覚してしまった叶わぬ恋心を向ける相手は、ただ1人に定まっているのである。そう簡単に、想い人がコロコロと変わるような意志の弱い女ではない。
「このまま南下すれば、宗教都市ムーヌの外に出ることはできるだろう...その後はどうする?」
「さぁ、決めてない。でもウェヌスが知らないってことはムーヌをくまなく探しても見つかる希望は薄そうだ。栄の情報を交渉の材料に出さなかったことからしても、知ってるとは考えにくい」
ウェヌスは言い合っているあの場で、栄の名前を一度だって出さなかった。それはきっと、交渉の材料にならない、自分達の持っていない情報だったからだろう。
そうなると、ウェヌスが管理しているこの宗教都市に栄がいるとは考えにくい。
だから、この宗教都市ムーヌを抜け出してしまってもいい───ということになるだろう。
「じゃあ...このまま東へ移動して、海岸線を伝って健吾や智恵達との待ち合わせ場所である商業都市アールに向かうって感じでいいかな?」
「あぁ、そうだろうな」
康太と誠の2人が、そんなこんなで話し合いを行っていた。すると───
「炎を撒き散らしやがって!」
次第に、康太達10人に追いついてきたのは、ドグマ。そのすぐ後ろには、ゴーレムの姿もあった。
「マジか、追いつかれたッ!」
康太が後ろを見ながら走っていたその時───
「うわぁ!」
「うお!」
先頭を走っていた真胡が何者かにぶつかり、後ろに転倒したために団子状になって走っていた他の9人もドミノ倒しのように後ろに転倒していく。
「痛た...すまんな───って、ゴーレムに追われてる?ってことは……」
真胡とぶつかった中年は、軽鎧を付けていて、体感がしっかりしているのか転ばなかったが、皆の後方にいるゴーレムを見て何かを察す。
「───マジかよ、勇者に出会っちまった...やっぱ俺、最ッ高にツイてねぇ...」
そう口にしたのは、つい昨日まで『死に損ないの6人』に選ばれていたドラコル王国が誇る猛者の1人であり『無敗列伝』の2つ名を持つ、的中率100%の占い師である『水晶』に「勇者に出会わない」か「大きな戦いの前に『顕現する神の食指』を殺す」のどちらかを実行しなければ「大きな戦いで死ぬ」と占われてしまった生まれたその日から運が無さすぎるのにも関わらずここまで無敗を貫き通していた男、アルグレイブ・トゥーロードであった。
『水晶』の占いは「〇〇をしたら××になります」だったり「〇〇をしなければ××になってしまいます」という形式で、「〇〇」を実行して実際に「××」になる確率と、「〇〇」を実行せず「××」にならなかった確率が100%ということです。
……それにしても、アルグレイブ・トゥーロードの口上が長い。