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Dracol Genesis その⑤

 

「───冒涜者には、制裁を」


 冷徹で冷酷で冷静で冷淡で冷血の『総主教』ウェヌス・クラバス・ホーキンスは、冷笑や冷嘲を口にすること無く冷眼を愛香の方へ向けてそんなことを口にする。


 そして、ウェヌスの左右に一列に並んでいた修道女は、どこからともなく槍を取り出したのだった。

 ウェヌスが、愛香に向ける視線は先程のような熱烈で熱血で熱望するようなものではなく、もう完全に冷めきっていた。

 今のウェヌスを表すとしたら「冷」と言う漢字が最も似合うだろう。


 それでも「(れい)」を失して度を超えた発言をした愛香に、こうして「(れい)」を見せつけるのには、ウェヌスなりの礼なのだろう。


「───ほう、妾と勝負するのか?槍で三苗と互角に戦った妾と勝負をするのか?」

「勝負?何を勘違いしているのですか?今から行われるのは、そんな崇高なものじゃありません。アナタは今から、捕縛されて奴隷として永遠に働かされるのですよ」


 眉の一つだって動かさずに、そんなことを口にするウェヌス。その双眸はしっかりと愛香を捉えており、合図さえ出せばもう左右の修道女は動きそうだった。


 でも、まだ動かしていないのはまだ愛香に猶予を与えているのか。それとも───


「───お待たせいたしました、『総主教』様」

「「───ッ!」」


 その時、どこからともなく現れたのは薄汚れた包帯を首から下に巻いた巨大な火傷痕のある人物が現れる。その男性の両手には、それぞれ1本ずつ剣が握られており、強いのは明白だった。


「ソイツは───」

「アナタ達と同じ異世界からやってきた元勇者で、名前はドグマ。今は、暗殺者(ヒットマン)としての仕事を請け負ってもらっているの。それじゃ、皆。冒涜者には制裁を」

「「「冒涜者には制裁を」」」


「逃げるぞ、皆!」

 その言葉と同時、襲いかかってきたウェヌス率いる修道女部隊と元勇者のドグマに対して背を向けて逃げようとその体を動かすのは康太であった。


「愛香も逃げる!それで文句はないな!」

「もちろんだ!こんな大聖堂、1秒だって長くはいたくはない!」

 そう口にして、逃亡を選択する康太達10人。だが───


「行かせるものかッ!」

 逃げようとする康太に向けて双剣を振るうのは、周囲の槍を持った多くの修道女よりも素早いドグマであった。康太は、なんとか自らの剣を引き抜いてガードしたけれども、よろけてしまう。


「まだまだ、力不足だな」

 よろけた康太という、ドグマにとって攻撃を行う絶好の機会を、ドグマは見逃すほど甘くはなかった。

 ドグマの利き手である右手に持つ剣を振り上げて、康太のことを袈裟斬りしようとする。が───


「〈速射〉」

「───ッ!」

 振り上げられた右腕を狙い、矢を放つのは誠。

 ドグマは、そのガードを行わなければならなかったので、一瞬攻撃が遅れる。


「ありがとう、誠!」

「ああ」

 その一瞬で、よろけていた康太は窮地から脱して他の皆と合流する。そしてそのまま、10人は大聖堂の外へと脱出を試みるのであった───


「行きなさい、ゴーレム!」

「───って、うわあああ!」

 戦闘を走る梨花。大聖堂の外に出た時に目にしたのは、体に植物を生やした巨人。

 泥や粘土でできているであろう体から、緑の葉っぱを生やしてその7mは優に超えそうな巨体を動かしたのであった。


「これだけの戦力を用意していたとは!」

 驚き足が動かなくなる梨花の隣に颯爽と移動し、背負っていた槍を手にして振り下ろされたゴーレムの巨大な腕にぶつけて受け止める。


「道を作る!とっとと進め!」

「あ、ありがとう!」

 そう口にして、愛香が槍の先端の一点ででゴーレムの腕を受け止めている間に、他の9人はゴーレムの横を素通りしていく。

 全員が通ったのを確認したら、愛香も直ちにその場から後方に飛んで離れた。


 愛香が離れた数瞬後には、地面を震わす攻撃があった。きっと、受け止めていなかったら一瞬で押し潰されて地面のシミになっていただろう。


「まだ何が潜んでいるかわからない!戦闘を走る人はいつでも攻撃できるようにしてくれ!」

「え、えぇぇ!?」

 ドグマの相手をしたために、後方を走る康太からそう指示が出されて梨花が少し困ったような声を出す。


 梨花も、イレンドゥ砂漠で各種スコーピオンとの戦闘経験はあった。でも、イレンドゥ砂漠は広大で死角というものがない。だから、奇襲はこれまで無かったのだ。


「大丈夫、初撃は私がガードする!」

 そう口にして、梨花と同じ先頭に躍り出たのは大盾を持つ真胡であった。


「康太!このままどうするの?」

「進んでくれ!宗教都市ムーヌは危険だ、脱出するぞ!」

「了解!」

 先頭を走る真胡に、後方を走る康太は指示を出す。このまま、『総主教』ウェヌスの権威が届かない宗教都市ムーヌの外まで脱出するようだった。


 これはゲームだから、宿にはアイテムを何も残していない。このまま逃亡したところで、何の問題もないのだ。


「逃がしませんよ、冒涜者!」

 ドシンドシンと地面を揺らしながら、康太達10人の方へと走ってくるのはゴーレムと、その肩にいつの間にか乗っていたウェヌスであった。

 その足元にはドグマの姿もあり、その奥には修道女が列を成して槍を天高く掲げながら攻めてきていた。


 まるで軍隊の行進のようにして追ってくる『総主教』一行から、康太達は逃げ切れることができるのか。


 ───もうすぐ、康太達は神話が動く大きな邂逅を果たす。


 その為にも、追ってくる『総主教』から逃げ続けなければならない。

元勇者という設定ですが、ドグマはNPCです。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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