Dracol Genesis その②
神にその超越した力を与えられたため、敗北ととどまるところを知らない8体の龍種は、魔獣を従えてドラコル王国を跳梁跋扈していた。
「泣く子と地頭と龍種には勝てぬ」や、「地震雷火事龍種」ということわざが生み出されて、「龍種」という存在を災害と同じく見ることが増えてきたその時、ドラコル王国には神が再臨なさった。
天からゆっくりと舞い降りていく姿は、多くの絵画に小説に音楽に彫刻にダンスに演劇に表現されているが、実際に見た人は少ないとされている。
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「注釈ではありますが、神が再臨した場所とされているのが、丁度ここ。ムーヌ大聖堂でございます。この出来事は、今から約800年程前の出来事ですね」
そう口にして、語り継がれ、ドラコル王国史としてどんどん増えていっている神話にそう細くをしてくれる『総主教』ウェヌス・クラバス・ホーキンス。
再度、神話はその口で紡がれる。
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神の再臨すると同時、神の持つ力でお創りなさったのが神の住処であった。
神が天に戻り睡りに付かれると同時に、神の住処は霧消してしまうのだが、神の住処は「神の再臨」より多くはないものの、多くの芸術作品として残っている。
再臨なさった神はこう口になさった。
『龍種を討伐せよ。彼らは、神への叛逆者であり簒奪者であり裏切り者である。龍種を倒し、活躍した者はこの私と結婚する権利を授けよう』
神の言葉は、直ちにドラコル王国全体に広まり、龍種を討伐するために多くの人物が神の前へと見参した。
神との結婚。
それは則ち、神と同等になる───要するに、神になるのと同義であった。
神という権威に憧れ、その名を神話に轟かせようとした多くの男性が、神の元へ集い、龍種との戦闘準備をした。
龍種は、この世に8体存在している。
北から時計回りに、共工・応龍・鯀・霊亀・驩兜・麒麟・三苗・鳳凰。
神は、その全ての討伐を人間に任せて、ドラコル王国中を巻き込んだ王国戦争が行われた。
だが、結果は惨敗。
一部健闘した者もいたのだが、多くの者は瞬くよりも先にその胴体と首とが離れ離れになってしまっていたようだ。
神が龍種の討伐を命じて尚、倒すことができずに帰ってきた。
龍種は8体いるため、8つの班に別れて攻略を望んだのだが、共工・応龍・鯀・驩兜・麒麟・三苗の6体と戦った人物が帰って来ることは1人だってなかった。
霊亀と鳳凰を相手にした数人だけが、なんとか帰路に付いたのだった。
その中の1人、アイソールド・ガラニュートが命辛辛鳳凰から逃げ切った後に、神に対してこんなことを口にする。
「あまりに、あまりに強すぎました。鳳凰は、何度斬っても再生するのです。いくら斬っても再生するんじゃ、私達には勝ち目がありません。殺すことは不可能だったのです。相手が死なないようじゃ、私達人間だけが散っていくのは死に損です。ですから、後世に伝えるために生きて帰ってきました」
アイソールド・ガラニュートの言葉を聴いて、デリア・クラバス・ホーキンスも同じく言葉を口にする。
「霊亀は何もが規格外でした。蟻に獅子が殺せぬよう、人間に山は殺せません。私達には勝ち目がありません。山を吹き飛ばせる力を持つのは、神であるアナタしかいないのです。ですから、後世に伝えるために生きて帰ってきました」
神は、2人のその言葉を聴いて、龍種を討伐しようと頑張り、命辛辛逃げ帰ってきた人間に何か褒美をやろうとお考えなさりました。
『龍種を殺すことはできませんでしたが、何か皆さんに褒美を与えましょう。結婚は難しいですが、何かそれと同義のものをどちらかに授けます』
その問いに、アイソールド・ガラニュートは「私は討伐できていないのですから結婚するつもりはございません」と断ったため、デリア・クラバス・ホーキンスが神と結婚することになった。
だが、神も龍種を討伐していない以上、人間を神にするわけにはいかないので、折衷案として「神の夫を意味する二つ名を授ける」ことになったのだった。
それにより、ホーキンス家には『総主教』という二つ名が授けられることになった。
そして、神の声がいつでも聞けて神の瞳を通して数多くある未来を見ることができるという『総主教』だけの特権も手に入れた。
一方の、アイソールド・ガラニュートには『剣聖』という二つ名が、生きて帰ってきた大魔道士グライドには『魔帝』という二つ名が授けられたのだった。
王国戦争は人間の大敗に終わったけれど、次なる龍種との戦いのために神から授けられたものは多かったのだった。
神は、最後に天に帰った。その時、神の住処は壊されてしまったが、すぐにそこに大聖堂を立てることが決定し、神を崇拝するドラコル教は最盛期を迎えることになるのであった。
***
「───と、王国戦争の話はこんな感じね」
「龍種に、惨敗してしまったんですか?」
「えぇ、そうよ。龍種は、この世界に似合わないほどに強すぎる。だから、誰も関わらないように暮らしていた。それなのに、プラム姫が龍種のトップである『古龍の王』に誘拐されてしまったから、関わらざるを得なくなった───って感じよ」
『古龍の王』は、どうしてプラム姫を誘拐したのだろうか。
その真意は、『古龍の王』以外知る由はないだろう。
「これで、ドラコル教の話はお終いにするわ。他に、何か質問はある?」
ウェヌスがそう口にすると、手を挙げるのは1人の女傑───森愛香であった。
「アナタ」
そう口にして、指されると愛香はこんなことを口にした。
「イレンドゥ砂漠で出会ったのだが、甲冑を身に着けた人型の猛者───その人物に心当たりは無いか?」
「───アナタ達、龍種である三苗と出会ったんですか!?」
愛香の報告と同時、ウェヌスの驚くような声が響く。
───気付けば、愛香のこの質問から勇者達の運命は動き出していた。