4月6日 その③
「ほぉう?カッコいいな。女の子に励まされて、頑張るのか...」
渡邊裕翔は口角を上げる。
「オレ、そういう主人公ぶっている奴の事が嫌いなんだよなぁ!だからよぉ...そう言う奴をボコボコにしてやんのが楽しいんだよ!」
「───ッ!」
俺の顔面にめり込んだのは、渡邊裕翔の拳だった。見えなかった。
眩みによって、判断が遅くなった。俺は見事に殴られた。
「かは」
渡邊裕翔の拳が、俺の顔面から離れると同時に、俺の口から溢れたのは数滴の赤い液体。そう、血だ。
口の中が切れたのだろうか。痛みという痛みは無かったが、確かに血は流れていた。
「これで終わりだ!」
腹部に、渡邊裕翔の拳が迫る。俺の意識は、今にでも飛びそうだった。
もう避けることはできない。渡邊裕翔の拳は、俺の鳩尾に直撃し───
なかった。
”ドサァ”
「───な」
俺の目に見えたのは、渡邊裕翔の上に倒れ込んでいた稜の姿であった。
「───稜?」
驚き。俺と渡邊裕翔の殴り合いに乱入したのは、稜だった。
「なん...」
「邪魔すんじゃねぇ!」
稜にも振るわれる渡邊裕翔の拳。だが、稜は退かずに渡邊裕翔の拳を殴って受けた。
「稜...これは...俺と裕翔の...」
「うるせぇ!俺は栄にポイントを託したんだ!栄のポイントは俺のポイントだぁぁ!」
稜は、渡邊裕翔に殴られ蹴られでも声をあげる。
「はぁ?そんなの知らねぇよ!なら、お前ら以外に見た人でもいたのかよ!」
「余が見ていた」
「───ッ!」
渡邊裕翔の殴る手が止まる。そう声をあげたのは、俺に賭けていた森宮皇斗だった。
「余が、見ていた。確かに山田稜は池本栄にポイントを全て譲渡していた」
そう淡々と告げる。
「な、なら!オレだって慶太からポイントを託して───」
「ギャンブルで勝ち奪ったのだろう?それは、託したとは言わん」
「───ッ!おい、慶太!」
「確かに...僕は賭けで負けてポイントを渡しました。ですが、託したわけではないです」
「───お前!」
「この戦いはノーカンでいい。勝敗は分けだ。だが、試合は最後まで行うぞ」
「───ひ」
森宮皇斗が冷酷にそう告げる。渡邊裕翔は小さく悲鳴を上げた。
「後、貴様は勘違いしているようだが...貴様は主人公じゃない。きっと、このデスゲームの主人公は池本栄だ」
「皆、オレに託してくれ!そうすれば、栄をボコボコにしてやるよ!だから、託してくれ!」
渡邊裕翔はそうやって、後ろにいた皆に声を出す。
「いいのか?みんな!ポイントを無くすんだぞ?」
「試合はノーカンらしいし...」
「別に、託す意味は無いかなって...」
後ろにいた中村康太と結城奏汰がそう言った。
「余は今から、栄の代わりに貴様を殴る...栄、お前にポイントを託すからな」
俺の目の前には「26→30」と表示される。そして、森宮皇斗の目の前には「40→36」と表示された。
「───歯、食いしばれよ?」
「───ひ」
その後は、言わずもがなだった。無差別に殴った裕翔はクラスメートから反感を買っていたのだ。
「見ていて不快だった」と言う者。「山本はお前に負けてポイントを失った」と言う者。「殴るのが楽しそうだった」という者。
ともかく、色々な人物が俺に4ポイントを託して渡邊裕翔を殴るためにボコボコにした。半ば、意識を失っていた俺は皆を止めることもできなかった。
「ク...ソ...負け...た...」
殴るために群がった群衆が離れると、倒れていたのはボコボコにされた渡邊裕翔だった。
「何が...友情...だよ...デスゲーム...だぞ?これは...」
渡邊裕翔はうめき声をあげつつも言葉を吐き出す。渡邊裕翔の首元は赤く腫れ上がっていた。きっと、痣になるだろう。結果、俺は42ポイントまで増えていた。
「ノーカンだが勝負は付いたな。もう1戦するのは醜いか?」
口を挟むのは森宮皇斗。
「いや...もう...1戦だ...正々堂々...1vs1の...殴り合いだぜ...」
渡邊裕翔はヨロヨロと震えながら立ち上がる。人を殴るどころか、歩くことさえもできない状況だ。
「栄...お前から来いよ...」
「───でも」
「勝負を言い始めたのは...お前だぞ?オレが落ちる前に...早く...」
「───わかったよ」
俺が放つのは、優しいパンチ。肩を叩く程度の力のパンチ。それで、俺は胸の当たりを狙った。もう、渡邊裕翔を失神させてあげたかった。きっと、彼は辛いだろうから。
「───優しすぎるな...栄は...いつか、お前は友情に...裏切られる...ぞ...」
”コツン”
”ドサァ”
俺を殴ろうとした渡邊裕翔は、俺の額に指を当てた後、失神して俺の方に倒れ込んだ。
「───勝った...」
「栄!」
俺に抱きついてきたのは、稜だった。渡邊裕翔を支えながら稜に抱きつかれた俺は、想像以上の重さにその場に倒れ込んでしまった。
「とりあえず、失神した裕翔と、殴られた誠と紬さんを保健室に!」
そう声をあげたのは、中村康太だった。
「栄、大丈夫か?」
「あ、あぁ...大丈夫だ...」
「そうか、ならよかった。保健室に行くか?」
「いや、大丈夫だよ」
「そうか...なら」
俺の目の前に「46→50」と表示される。そして、中村康太の目の前には「4→0」と表示された。
「え...」
「2試合目は、君の勝ちだっただろ?だから、ポイントを渡さないと」
「───いいの?」
「いいも悪いも、俺はもうゼロだから。返還は受け付けないよ」
そう言って、康太は渡邊裕翔を背負った。
「裕翔のポイントを奪うのは後でにしてくれないか?」
そう言って、渡邊裕翔を背負った康太は教室を出ていった。
「勝ったの?」
「あぁ、勝ったんだよ!よかったな、栄!」
「うん!よかっ───」
”パチパチパチパチ”
教室に入ってきたのは、マスコット先生だった。
「いやぁ、素晴らしい友情を見せてもらいました」
「全く、妾を教室に入れないとは死刑に値する───と思ったが、いい娯楽が見れた。赦そう」
後ろから入ってきたのは、まだ教室に来ていなかった津田信夫・橋本遥・森愛香・綿野沙紀4人。
「皆さん、席に座って下さい。保健室に行った生徒は把握しております。そして、池本栄君は渡邊裕翔君と渡邊裕翔に賭けた6人のポイントを受け取ってください」
「───え?」
俺の目の前に「50→126」と表示される。
「嘘...126ポイント?」
驚き。そして、渡邊裕翔自身と、柏木拓人・佐倉美沙・杉田雷人・橘川陽斗・中村康太・結城奏汰の6人のポイントを受け取った事を知る。もっとも、中村康太のポイントは受け取っていたのだが。
「そして、残りの予選参加者は14人となりました。皆さん、頑張ってくださいね!」
マスコット先生の口角が上がる。そして───
「4月6日、予選2日目!スタートです!」
マスコット先生の宣言とともに、2日目は幕を開けた。
残りの参加者とポイント(最初の数字は出席番号)
1秋元梨花 6pt
4池本栄 126pt
6宇佐見蒼 14pt
9菊池梨央 12pt
10小寺真由美 2pt
11斉藤紬 10pt
18津田信夫 24pt
19東堂真胡 6pt
22西村誠 10pt
24橋本遥 6pt
30村田智恵 14pt
31森愛香 32pt
32森宮皇斗 36pt
37綿野沙紀 2pt





