宗教都市ムーヌ その⑤
あけましておめでとうございます!
2025年もGenius Genesisをよろしくお願いします!
「皆さんの疑問をぶつけてください。なんでも答えますよ」
そう口にして、嘘を多分に含んだ笑顔を康太達に向けるのは、第62代『総主教』ウェヌス・クラバス・ホーキンス。
白い祭服に身を包み、荘厳なイメージを持たせる中で、その表情から「嘘」や「裏」を滲ませているのは、勇者である康太達に何かを牽制させるような意図があるのだろうか。
その真意はわからないけれども、その「嘘」の中に何らかの企みが含まれていることは、すぐに察せられるものだった。
「───では、質問です。俺達は今、とある人物を探していて。サカエって名前の人は知りませんか?」
「サカエ...ですか。聴いたことない名前ですね。女性の方ですか?男性の方ですか?」
確かに、栄という名前だけではその性別を判断するのは難しいかもしれない。異世界の人なのだから、地球での名前なんかわからないだろう。
「男です。この異世界のどこかにいることはわかっているんですけど、場所までは解明できていなくて」
「そうですか、すみません...ワタシの知る限りではその名前は知りませんね。クルトン神父」
「お呼びでしょうか」
ウェヌスに呼びさだれたのは、康太達をこのムーヌ大聖堂にまで連れてきたクルトン神父であった。
「クルトン神父、サカエと呼ばれる人物を探しなさい。性別は男性で、髪色はえぇと...」
ウェヌスは、チラリと康太達の方へ視線を送る。その大多数は黒髪や茶髪であったけれども、歌穂という特例の白髪が存在していたので、何色と断定したらいいのか困っているようだった。
それに気が付いた康太が、すかさず「黒髪です」と口にした。
「髪色は黒なようです。勇者様達のためにも、サカエという黒髪の男性を探してあげてください」
「了解いたしました」
そう口にして、一礼した後にどこか足早に移動していくクルトン神父。どうやら、早急にサカエの捜索に動いてくれたようだった。
こうして、ドラコル教のトップに探索してもらえるのであれば康太としても心強いだろう。
見返りが求められていないところが怖いが、ドラコル教も国王と同じように、勇者に全面協力してくれるような立場なのかもしれない。
「見つけたら、連絡いたしますのでね。他に、なにか聴きたいことはありますか?」
「そうですね、折角なのでドラコル教について教えてもらえませんか?」
「───ほう、ドラコル教に興味があるのですか?」
「まぁ、一応」
ドラコル教のことを聴いた康太のことを、曇りなき嘘なき眼を輝かせながら嬉しそうに見るのはウェヌスであった。
先ほどとは違い、子どものように目を輝かせて嬉々として話そうとしてくれているウェヌスに対し、康太は少し驚きつつ、ウェヌスが宗教的に熱心であることを察する。
「まさか、勇者様がドラコル教に興味を持っていてくださるとは思っておりませんでした。もう、教典はお読みで?」
「いえ...すみません。興味はあるのですが、ドラコル教については何も知らないんです。どんな教えがあって、どんな規律があるのかとか」
「そうですか。いいですよ、教えて差し上げます」
そう口にして、先程のようなどこか硬い笑顔は外れて、本当の、柔和な笑顔が浮かび上がった。
ウェヌスが何歳かはわからないし、女性に年齢を伺うつもりもない康太であったが、その美しいがどこか子供らしさの残る笑顔を見て、思わず心惹かれてしまう。
───と、そんなことを思っているとドラコル教についての話が始まる。
「ドラコル教は、ここドラコル王国の国教となっております。ですので、国民は全員ドラコル教を信奉し信仰することになっておりますが、勇者様はその例外です。異世界から来て、唐突にドラコル教を信じろ───だなんて言われても大変ですからね」
ドラコル教は、国の名を冠するだけあって国教になっているようだった。
「規律としては...そうですね。特に厳しいとされていることはございません。食事に関する規律はいくつかございますが、それが食材として出回ることは、国教となっている以上滅多にないので問題ありません」
食材が町中で手に入らずに、提供されないのであればそれを誤って食べてしまう───ということもないのだろう。
異世界の食事であれば、そこまで食べれなくて辛い───ということも無さそうだった。
だって、その食べ物の味を知らないのだから。
「それと、教徒の方には最低でも1ヶ月に一度は近くの教会にお祈りをしてもらっております。月初めや月終わりには特に多くの人がお祈りにやってきます。まぁ、ここは大聖堂なので毎日5000人くらいは来ますね」
「え、じゃあ今日ここ使っちゃって良いんですか?」
梨花は、教会を話し合いの場として使っていることに対して、お祈りの場を奪ってしまってるのではないかと不安になっているようだった。
「大丈夫ですよ。龍種を討伐した勇者が来てくだされたとなれば、お祈りしてるどころじゃありませんから」
「麒麟を討伐したのが俺たちじゃなくて申し訳なりますね...」
「勇者であれば同じですよ」
ウェヌスはそう口にして、微笑む。
「では、規律のお話をしましたしドラコル神話を───創世記をお話しましょうか」
どうやら、ウェヌスが直々に神話の話をしてくれるようだった。
これは、今からずっと前。唯一神によってこの世界が作られた時の話───。