宗教都市ムーヌ その①
氏名不詳の武者を、蓮也のAランク魔法〈世界氷結の理〉で氷漬けにした後に、愛香達10人は武者の動きを止める氷が溶けるまでの間に、できる限り武者から逃げていった。
皆の疲労が溜まる砂漠の旅路の中、武者が追ってこれないような距離まで逃亡して、ついに最強の一角を撒くことに成功したのだった。
───そして、最後の集落を出てから7日目。
智恵やアレン達が麒麟の討伐に成功した翌日、康太達10人は宗教都市ムーヌに到着したのだった。
「ついに、ついに着いた...」
実に1週間。暑い砂の上を歩き続けた一同は、一先ずの目的地に到着したことに安堵を口にする。
「とりあえず、宿を取ろう。それで、今日はフカフカのベッドで休もう」
「「「賛成」」」
康太の提案に全員が賛成して、10人は宗教都市ムーヌの中にあった教会のような豪華な建物のホテルに宿泊することになった。もちろん、勇者であるということで無料になった。
宗教都市───と呼ばれており、どんな宗教かは気になったけれども、それらを調べ、栄を探すのは明日になってからだ。
ホテルに付随する大浴場に行き、シャワーで汗と砂粒を流した後に、澄んだ色をしたお湯の中に入る。
そして、砂漠では食べることができなかった出来立ての料理をホテルで食べた後に、フカフカのベッドで休んだのだった。
───こうして、勇者達10人は巨大なイレンドゥ砂漠を抜けて、第三首都である宗教都市ムーヌに到着したのだった。
物語の舞台は、砂漠から宗教都市へと移動する。
そこで出会うのは神の信徒か、はたまた最強の一角か。
未来に繋ぐ因縁との出会いの日は近い───。
***
───そんな、物語の舞台となる宗教都市。
その巷で話題になっていたのは、国王に勇者に選ばれた人物達───要するに、智恵達と、『閃光』率いる『親の七陰り』が、この世界に8体いるとされている龍種の内の1体である麒麟を討伐した───という話であった。
「麒麟が死んだだと!?私達は神話の時代を生きていると言うのか!?」
「あぁ、まだこの世に神はいたのね!」
「勇者様、最高!勇者様、万歳!」
これまで、有史以降───いや、それ以前。神話の時代から、討伐されていなかったとされる龍種が死亡したのだ。
人前に出れば、その人を確実に殺し、恐れられている龍種の内の1体が死亡したとなると、こうして人々は喫驚と崇拝に包まれる。
───尚、神話の時代からと言い、実際に龍種は神話に悪として登場しているけれども、本当にそんな太古から存在しているのかはわからない。
だけど、神話として編纂される時代にはもう既に龍種は8体存在しており、そこから今までの間一度も数を減らさなかった───というのだから、その強さは本物だろう。
と、どうしてこんな龍種が討伐されたことに関する話をしているのか。
その理由としては、康太達10人が宗教都市ムーヌに到着したのと同日、宗教都市ムーヌはもう1つ大きな出来事が起こっていたからだ。
場所は、宗教都市ムーヌの中に存在する人の多い歓楽街。
そこのとある建物の地下にいる一人の占い師の元に、『死に損ないの6人』にも数えられる1人が足を運んだからであった。
「やってるか?」
チリンチリンと、小さくベルの音がなりその部屋に入ってくるのは1人の男性。
武器を持たず、鎧も着ていない筋骨隆々とした中年の彼であったが、見るものが見れば彼が猛者であることは一目瞭然であった。
「───あら、『無敗列伝』がなんの用かしら?」
紫色のヴェールをかぶった怪しい女性───『水晶』は、来客である無精髭を生やした男性───『無敗列伝』に対してそんな反応を見せる。
───ここで、『無敗列伝』について少し説明しておこう。
『無敗列伝』───本名、アルグレイブ・トゥーロードは、この世にたった6人しかいないレベル85超えの人物であった。
レベル85を超えている、6人のことを『死に損ないの6人』と世間では呼んでおり、勿論『無敗列伝』もその中の1人に数えられた。
彼は、過去に十数人と冒険者と共に麒麟と戦ったことがあり、戦闘の途中でおかめの仮面を破壊し麒麟を凶暴化させてしまったけれども、なんとか味方の数人を生還させて、自らも逃亡に成功した───という逸話がある。
智恵達が麒麟に勝利してしまった以上、その逸話の凄さが落ちてしまったように感じてしまったが、凶暴化した龍種から救う───というのは逸話としては十分なのだ。
実際、アレンはおかめの仮面を破壊し凶暴化させることを拒んだの程なのだから麒麟の凶暴化はそれほど危険なのだ。
「そんな、『無敗列伝』が私の元に何か用?」
「決まってるだろ。占いだ」
そんな『無敗列伝』は、『水晶』という二つ名で知られている占い師の元に足を運んでいた。
『水晶』は、冒険者から経験値───要するにレベルを貰うことで、より良い未来を手に入れるためのアドバイスを占ってくれるという生業をして、戦闘をせずにレベル83まで上り詰めていた。
「私の占いに、経験値が必要なのはわかっているでしょう?」
「あぁ、もちろん。それで尚、俺を占ってほしいんだ」
「───わかったわ。それじゃ、座って」
『水晶』は、丸机を挟んだ反対側にある椅子に『無敗列伝』を座らせる。そして、丸机に置いてある妖しく光り輝く水晶に手を翳させて、『水晶』は『無敗列伝』の未来を覗き視て───
「───アナタ、次の大きな戦いで死ぬわ」
無慈悲にも、『水晶』は『無敗列伝』に対し、視えた未来を告げたのだった。
逆に言えば、智恵達が倒した麒麟はまだ本気じゃなかったってわけです。
そして、新キャラなのに早速退場しそうな男、『無敗列伝』!