表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

622/746

勇者達よ、砂漠を進め。そこには強敵の音がする その⑧

 

 重い甲冑を身に纏った武者のことを見据えながら、後方へと跳んで何も無い砂漠を疾走するのは愛香。


「───ッ!」


 そんな愛香を逃さないように、と逃亡する愛香を追って刀を振るうのは武者であった。

 愛香は、そんな武者の攻撃をなんとか槍でガードして、後ろの方へ身を引いて───を繰り返して、逃亡していた。


 言葉を話さずとも、武者は「逃げるな...」と言わんばかりの剣筋を愛香に浴びせるものの、愛香は先程の戦闘の最中、着ている服に砂がついてしまって萎えたがために、武者から逃げることを選択した。


 ただでさえ強情で、一度決めたことは滅多に曲げない愛香だ。であるから、自らの「武者と戦う」という意志を曲げてまで「逃亡」を選択したのだから、その意志を再度曲げるのは難しいだろう。


「やはり、追いかけてくる───か...」

 愛香は、しつこく追いかけてくる武者の目的を、武者の攻撃をいなしながら考える。

 技名以外の言葉の1つだって喋らない武者。しかも、その声は予め録音したものを流しているようだった。

 そして、まるでプログラミングされたかのように無限に追ってくる武者の動きからしても、武者の中に人間がいるとは思えなかった。

 そうなると、武者はNPCであるということになる。


「智恵の話を考えれば、自ら関わってくるNPCがいてもおかしくはない...」

 愛香は、アレンという名のNPCのことを考えているのだろう。彼は、智恵に関わるばかりではなく、龍種の討伐───というミッションをストーリーを進めるかのような感じで突きつけてくるのであった。


「だが、ストーリーを進めるとして一言も喋らないキャラにするのか?普通...」

 メタ的な視点で考察を行う愛香は、槍で武者の攻撃を防いだり受け流したりしながら、そんな考察をする。


 実際、話が通じない───それ以前にできない相手を、ストーリーを進める為に大切なキャラにする意味は少ないだろう。

 そう考えると、このキャラはアレンとはまた違った立場のNPCであると考察できる。


 ストーリーを進めるのとはまた違う、意味のあるNPC───それはもう既にゲームに出演していた。

 そう、魔獣だ。


 プレイヤー───ゲーム内の単語だと勇者の敵として立ちはだかり、会話もせずに倒されていく存在である魔獣。

 そんな魔獣と、愛香と攻防を繰り広げている魔獣は同じ存在だった。


 だけど、ヒュージスコーピオンやサンドワームを一瞬で倒してしまうことや目の前にいる武者だけしか持っていない技を武者が大量に持っていることなど、その強さは他の魔獣とは明確に一線を画している。

 特別視され、優遇される目の前の武者。


 その、普通の魔獣を圧倒するような力を持つ理由は、聡明な愛香には一瞬でわかった。


「───貴様、龍種か?」


 龍種───それは、多くの魔獣の頂点に立つ、この世に8体いる圧倒的な力を持つ怪物。

 この日はまだ、智恵やアレン達が麒麟を討伐する前日なので、有史以降誰だって倒したことがない8体の怪物───それが、「龍種」と呼ばれる怪物であった。


 龍種───と言っても、決して龍の姿をしているわけではない。

 それは、智恵達が出会った麒麟を見ても言えることだろう。もし、目の前にいる武者が、龍種であったとしてもおかしくはない。人型の怪物が存在しない理由も、その怪物が龍種でない理由も、どこにも存在しないのだ。



「───この世界で最強と謳われる龍種が、こうしてゲームを進める妾達に接触してくるのはおかしくないな...」

 今、愛香達はストーリーに沿って進んでいる。


 話の本筋では、麒麟に勝利してからイレンドゥ砂漠に足を運ぶのだが、それを愛香達は智恵達に丸投げしているので少しズレてしまっている。

 だけど、そんなほんの少しのズレは調整されているのか、ほとんど問題は見受けられなかった。


 そして、ストーリーを進める際に、全員を必ず討伐するであろう龍種と、こういう形で出会ってもなんらおかしくはない。


「───きっと、貴様をここで倒せねばならぬのだろう。だが、すまんな。妾は貴様を相手にしている暇はないのだ」

 そう口にする愛香。愛香達が、こうして砂漠を進むのには理由がある。


 そう、連れて行かれた栄を、第8ゲームのクリア条件である栄を救出しなければならないのだ。

 愛香が、後方を一瞥するとそこには目の前にいる武者から逃げていく康太達9人の姿があった。


「───貴様を撒く方法...」


 それと同時、思い出したのは1人の人物。

 愛香は、少し思案して、その人物に賭けてみることにしたのだった。その時───


「愛香、助太刀に来たわよッ!」

 愛香と武者がぶつかり合う戦場に入ってきたのは、先程まで誠に抱きつき泡を吹いていた虫嫌いの少女───歌穂であった。


「相手が虫じゃないなら、アタシだって戦える!」

「歌穂か。貴様には戦闘ではない、別の仕事を任せたい」

「───別の仕事?」


 武器である斧を持った歌穂が、愛香のその言葉に首を傾げる。そして、龍種であることがほぼ確定した武者の攻撃を避けてから、愛香はこう口にする。



「成瀬蓮也。アイツの持つ、唯一のAランク魔法を使用する」

 成瀬蓮也の持つAランク魔法に、愛香は賭ける。蓮也のAランク魔法は、サンドワーム討伐において決定打にならなかったものの、武者の足を止めることはできるのか───。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨城蝶尾様が作ってくださいました。
hpx9a4r797mubp5h8ts3s8sdlk8_18vk_tn_go_1gqpt.gif
― 新着の感想 ―
成る程。 龍種なのか、見た目じゃ分からないですね。 しかしここまで強いとは……。 そして蓮也の出番が……目まぐるしい展開ですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ