勇者達よ、砂漠を進め。そこには強敵の音がする その④
ヒュージスコーピオンを討伐し、イレンドゥ砂漠を西進する康太達一行。
途中、体長5~60cmほどの、この世界のサソリとしては平均的なサイズの、サソリの種類の魔獣を討伐し、それぞれが着実にレベルを上げながら進んでいた。
そんなこんなで、集落を出発してから早くも3日目となり、砂漠の1/3程度まで進んでこれたのか───というところ。
丸々2日かけて「1/3しか進めてない」と考えるか、「1/3も進めている」と考えるかはその人の思考によるが、砂漠の歩き方に慣れてきた一行は、これから歩くペースも早くなってきており明後日の夜にはイレンドゥ砂漠を抜けた先にある宗教都市、ムーヌに到着していそうだ。
「───だなんて、言うのは楽だけど実際に歩くペースが早くなるかっちゅうの...」
そうやって、愚痴をこぼすのは美玲であった。
丸々2日間もほとんど風景の変わらぬ砂漠を歩き続けている10人は肉体的にも精神的にも疲れが溜まっていた。
景色が変わらない場所を歩き続ける───というのは、中々に酷だ。
次第に言葉数も少なくなり、ただ無言でジリジリと熱い太陽に照らされていく中、苦悶の表情を浮かべながら歩いていく。
砂漠が広いため、オンヌ平原と同じ量の魔獣が湧くとしても、その密度は薄くなることだけがよかった点と言えるだろう。歩みを進める以外で、余計な体力を持っていかれることはなかった。
砂漠で、魔獣はまだ数回しか交戦しかしていないし、ヒュージスコーピオン以上の大物は現れていない。
戦闘も順繰りに行っているので、誰か1人に疲労が集中するわけでもなかった。
「───文句を言っても何も変わらないが、流石にこの砂漠は耐え難いな...1週間も歩き続けるとなるとおかしくなってしまいそうだ...」
美玲に同感の意を示すのは、砂漠に飽きた誠であった。
かと言って、この砂漠に発見や楽しみを見出すこともできない以上、歩き続けるしかない。
せめて何か、何か一つでも変化があってくれれば───
美玲と誠の2人がそんなことを思った刹那、2人の思いに共鳴したのか、それとも単なる偶然なのかはわからないが、砂の大地が鳴動する。
「───ッ!地震か!?」
康太が、揺れ動く大地に反応し、地面を直視する。微振動を繰り返す砂の粒を見て、すぐに異常を察知し───
「皆ッ!ここから離れろッ!何かが来るッ!」
康太が真剣な表情でそう叫んだと同時、地面に生まれるのは空洞。
地面の中にブラックホールが生またと言わんばかりに、砂が地面の中に飲み込まれていく。
そこにいるのはアリジゴクか、新手のスコーピオンか───などと思いつつ、その空洞の外に全員が逃げ出せたのと同時。
ドサァと、大きな音と砂塵を撒き散らしながら、その細く長い巨体を天高く伸ばして登場したのは、砂の中に住むヤツメウナギのような巨大ミミズ───サンドワームであった。
「───ッ!魔獣!?」
「ここに来て!」
「ま、また虫ィィィ!?」
同じ風景ばかりで飽き飽きしている───などと愚痴っていたものの、それは「魔獣に出てきて欲しい」という意味と必ずイコールで繋がるわけではない。
現れたサンドワームは、強靭で強固な外殻に覆われており、ヒュージスコーピオンと同じく外殻を攻撃しようとダメージは通らないだろう。
歌穂が、サソリよりもより気持ちの悪い虫の形をしたサンドワームが登場してきたことに恐怖で覚えながら、近くにいた誠の首に抱きついている中で、康太は美玲に声をかける。
「美玲!メリケンサックで行けそうか!?」
「流石にこんなデカいのは無理よ!」
「───弓矢でも無理そうだ。こんなデカいの開いてじゃ、矢の1本や2本などダメージのうちに入るまい」
メリケンサックでは不可能と語る美玲に、歌穂に抱きつかれながらも弓矢で倒せないことを冷静に告げる誠。
「クソッ!どうすれば...」
どう倒せないかわからない内に、サンドワームは空中にアーチを描き、砂の海の中に戻っていく。
また、10人を食べるタイミングを狙っているのだろう。
「クッソ、あれじゃ剣も槍も通らないし...一体、どうすれば...」
康太が思考を巡らせている中でも、地面が揺れる。また、サンドワームが襲いかかってくる瞬間が刻一刻と近付いてきている。
そして、再度砂の海の中に空洞が生まれて砂が呑まれていく。
「───クソッ!丸呑みだから避け続けないとッ!」
康太はそう口にして、その砂の中のブラックホールから飛んで逃げる。それと同時───
「〈絶対神の憤慨〉」
梨花に隠れながら魔法杖を握り、Aランクの魔法を詠唱した美沙と同時、世界が明滅する。
太陽の明るさを吹き飛ばすほどに明るく、太陽の明るさを忘れるほど暗く───というのを、一瞬の内に何度も繰り返した後、ドサリと黒焦げになって倒れたのはサンドワームであった。
「倒し...た?」
「今の、美沙がやったのか?」
「すごいじゃない!」
男女関係なく、美沙に対して称賛の声をかける。男性恐怖症になった美沙ではあったけれど、その時だけは男性を怖がらずに喜べたのだという。
───彼女の植え付けられたトラウマが払拭する希望があるかもしれない。
「虫...キッモォォォ!」
そんな中で、倒れたサンドワームが霧消する前に筒状の口を見てしまった歌穂は誠に抱きついた状態で暴れたのであった。彼女の虫嫌いが治ることはないだろう。
魔法の詠唱って、文字数稼ぎだと思っている。
正直、魔法の名前だけでいいよね。