勇者達よ、砂漠を進め。そこには強敵の音がする その③
土日月の3日間、更新できずにいてすみませんでした。
インフルで倒れてました。
イレンドゥ砂漠を進む10人の目の前に現れたのは、巨大なサソリであった。
『砂漠の洗礼』という二つ名としても有名な砂漠を跋扈する巨大サソリは、龍種ではない一般の魔獣であるのに、それなりの実力を持っているので、本作をプレイするプレイヤーからは、最初の難関と呼ばれることも多い。
甲羅を、妖しい紫色に光らせた巨大サソリ───魔獣としての名で呼ぶと、ヒュージスコーピオンは、10人法を見て威嚇するように両腕に付いているハサミをあげた。
それに呼応するように、先頭に立つ愛香も背負っていた槍を引き抜く。
「妾に敵対したこと、後悔するがいい」
そんな言葉と同時、愛香は槍を片手で回しながら高く翔ぶ。ゲームだからか、愛香は数メートルは翔ぶことができているが、現実でそのような芸当を行う皇斗がいるから、他の誰もそのジャンプ力には驚かない。
「〈雷鳴の一突き〉」
愛香が、有無を言わせずにヒュージスコーピオンに向けて放つ一突き。
Cランクの魔法による電撃を纏ったその一突きは、ヒュージスコーピオンの額に直撃する───も、甲羅が固く、弾かれてしまう。
「───ッチ。硬いな」
愛香は、甲羅に槍が刺さらなかったのを見て、後方に下がる。
「剣も通らなさそうか?」
「あぁ、硬くて駄目だろうな。斧かメリケンサックならなんとかなるだろうが、歌穂は大の虫嫌いだ。サソリじゃ怖くて戦えないだろうよ」
「そうだな。走って逃げていったし、無理に戦わせるのも悪いだろう」
愛香と康太は、そんなことを話し合う。
「それなら、ワタシに任せなさい」
そう口にしたのは、美玲であった。美玲は、メリケンサックを武器として選択していたのであった。
「美玲、任せそうか?」
「もちろん。こんな甲羅、ワタシがすぐに砕いてあげる」
美玲は、そう口にして銀色のメリケンサックを両手に装着する。槍や剣よりも、メリケンサックの方が攻撃の回転率が大きいので、より砕きやすい。
美玲が、ヒュージスコーピオンの甲羅を砕くため、ジャンプするものの、愛香の攻撃により、警戒心の強まったヒュージスコーピオンは、美玲を背中に乗せないように距離を取る。
「───避けるのかッ!」
「愛香。俺達は足を潰そう。剣や槍でもそのくらいならできるはずだ」
「妾に指図するな。妾だってそのつもりだったわ」
愛香と康太の2人は、ヒュージスコーピオンを逃さないように、その足を斬るために動き出す。
ヒュージスコーピオンは、警戒心が強く、確実な狩りをする傾向があるので、攻撃されると逃げつつの攻撃が増えるようだった。
「アタシも参戦する!」
「わ、私も!」
愛香と康太に続き、剣士である梨花と、大盾使いである真胡の2人も参戦する。
「狙いは足だ!移動手段さえ潰してしまえば、攻撃も容易になる!」
「わかった!」
足の1本でも体から切り離してしまえば、その巨体を支えるのには困難になるだろう。愛香・康太・梨花の3人は左前脚を切り離すため、それぞれの攻撃を放つ。
「〈三日月斬り〉!」
「〈双頭斬り〉!」
「〈縦横無尽〉」
3人がヒュージスコーピオンの左前脚に対し、一斉に攻撃をしかける。
背中の甲羅よりかは硬くないのか、康太と梨花の攻撃で傷が付き、愛香の槍を回転させながらの突き技により、ヒュージスコーピオンの左前脚を切断することに成功する。
「───よし!」
「足が離れた!」
「みんな、危ない!」
脚を切断することに成功し、3人が喜ぶのも束の間。
反撃するように、巨大なハサミで3人の体を二つに千切ろうとしたのは体のグラつくヒュージスコーピオンであった。
「───ック!回避が間に合わない!」
愛香と康太よりも一瞬、逃げ遅れた梨花はその巨大なハサミに掴まれそうになる───が、大盾を持った真胡が梨花とハサミに入ったことでガードに成功する。
「大丈夫!?」
「うん、ありがとう!」
梨花は、そのままヒュージスコーピオンから離れる。それを見て、真胡も退避する。
「今度こそ、ワタシが行く!」
そう口にして、美玲はヒュージスコーピオンの背中へと飛び乗る。ヒュージスコーピオンの脅威は、ハサミと尻尾にある毒を噴出する噴出孔ではあるが、背中に乗っている以上、その2つは無力化できる。
背中にハサミは届かないし、毒を噴出してしまえば、自らの背中までも溶かしてしまう。
「好きなだけ暴れなさい。ワタシが全部砕いてあげる」
そう口にして、美玲は手を強く握り、こぶしを作る。そして───
「〈篠突く雨〉」
美玲によって放たれる何発もの連撃。目にも止まらぬ速さで放たれる拳で、傷がつかないと思っていたヒュージスコーピオンの装甲にも傷がつき、次第に甲羅にヒビが入り───
「よし、割れた!」
ヒュージスコーピオンの背負っている重く硬い甲羅が割れて、攻撃が通りそうな体の内部が露出する。
「愛香!トドメをお願い!」
「そうしたら、経験値は妾のものになってしまうがよいのか?」
「えぇ。その代わり、次に愛香が討伐する時にはトドメを譲ってね」
「無論。貸し借りは嫌いだからな」
そう口にして、愛香はヒュージスコーピオンに対してトドメを刺す。
ヒュージスコーピオンの亡骸は霧消し、愛香のレベルは11になった。