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勇者達よ、砂漠を進め。そこには強敵の音がする その②

 

 ───翌日。


「じゃあ、出発だ」

 康太がそう口にして、次第に土から砂へと変わってくる地面の上を歩いていく。

 この集落は、オンヌ平原とイレンドゥ砂漠の境目にあり、集落の西側にはもう既に砂漠が始まっていた。


「随分と、長くなりそうな旅路だな」

 愛香は、そう口にして背中に武器として選んだ槍を背負って歩き出す。そして、他のメンバーもその2人に続くようにして砂漠へと足を運んだ。


 サラサラときめ細かい砂は、風が吹くと同時に口の中に入ってくるが、砂特有の不快感というものは存在しない。

 地球には、ゴツゴツとした巨大な岩石で構築された岩石砂漠が多いけれど、このイレンドゥ砂漠は、「砂漠」と聴いて想像するような砂砂漠であった。


「まぁ、わざわざゲームで岩石砂漠を作る物好きはいないか...」

 誠は、最後尾を歩きながらそんなことを口にする。先頭を康太、最後尾を誠が歩くことで、後ろからの奇襲や、魔獣との戦闘を円滑にする理由があった。


「岩石砂漠って何?」

 そんな質問をするのは、康太から離れるように後ろを歩くことを選んだ蓮也であった。

 こうして、康太と蓮也が喧嘩をしていないのは、「栄を救出する」という目的が重なったためであり、呉越同舟───という形になっている。


 だから、康太は蓮也を信頼していないし、蓮也は康太のことを恐れている。

 だけど、蓮也は栄の判断により生かされているし、康太も栄を助けたいという気持ちは変わらないので、今回ばかりは目を瞑ることにしたのだった。

 何かあれば蓮也の命を狙おうとする康太がこうして許したのも、この2人の争いで栄が救えなかった場合を考えると、蓮也が殺した睦月奈緒に顔向けできなくなってしまう───と、康太が苦渋の決断を下したからだ。ちなみに、そう説得したのは誠である。


「岩石砂漠というのは、その名の通り岩でできた砂漠だ。サハラ砂漠とかが代表だな」

「え、砂漠って砂じゃなかったの?」

「あぁ、そうだ。鳥取砂丘は砂砂漠だが───いや、あれは海岸砂丘か。まぁ、想像する1面に砂が広がっている───というのは、ごく少数でしかない」


 日本の「砂漠」のイメージとして、砂砂漠が多く採用されているため、ラクダで無限に広がる砂の海を歩く───という想像がされやすいが、地球の砂漠の8割は岩石砂漠である。


「というか、この知識は高校生なら必修だぞ?」

「授業、ほとんど寝てたから...」

 蓮也は、開き直ったようにそう答える。声が小さいのはいつものことだ。


「そうか。図書室に気候の本があったから、帰ったら読むといい」

「うん。生きていたらそうするよ」

 蓮也は、そんなことを口にして笑う。


「───と、砂砂漠が有名だから選ばれたのは納得できるけど、砂漠の位置はちゃんと現実準拠よね」

「そうだな」

 誠と美玲は、そんな会話をする。


 もちろん、砂漠の形成される場所と要因など、義務教育を受けてきた皆さんには説明する必要ないと思うが、ほとんど中卒に変わりない、授業の半分を寝て過ごした蓮也がいるので解説しよう。


 砂漠の形成要因は大きく4つあり、その1つとして大陸西側の寒流沿いに砂漠ができやすくなる。

 理由としては、寒流の上を通る風は水蒸気をあまり含まないことと、大気が安定して上昇気流が起こりにくいからである。地球に当てはめるならば、ナミブ砂漠が具体例としてあげられるだろう。


「へぇ、解説ありがとう。残念だけど僕はナミブ砂漠がどこにあるかわからないよ」

「アトラスでも見直せ」

 こうして、ゲームを地理的な視点で楽しんでいる誠と美玲の方が異常であり、多くの人はそんな視点では見ない。


 もう完全に、草原は砂原に変更しており、乾いた砂が風と共に舞っている。

 これから、1週間はかかるであろう砂漠の旅が幕を開けるのだった。


 そんなこんなで歩き始めて数時間、砂漠の旅の幕開けを称賛するかのように10人の目の前に現れたのは───


「───んだよ、こいつッ!」

 思わず、先頭を歩く康太が驚くような声を出す。それもそうだろう。


 だって、康太達の目の前に現れたのは、自分達の同じくらいの───いや、自分達より数段大きなサソリなのだから。


 キリキリと、顎を鳴らして10人に対して威嚇するサソリ。

 その硬い甲羅は、ジリジリと照りつける陽光を浴び、妖しく紫色に光っており、すぐにでも命を断てそうな巨大なハサミが両腕には付いていた。

 そして、天にも届きそうなほどに高々と挙げられた尻尾には、針のように鋭い噴出口が付いており、そこから毒が発射されるであろうことは火を見るよりも明らかであった。


「ここがオンヌ平原に次ぐ初心者向けなのかよ...」

 目の前に現れた怪物を見て、そんなことを口にする康太。


「怖気付いているのか?チキンめ。こんなデカいだけの虫ケラ。とっとと倒してしまえばよかろう」


 そう口にして、背中に背負っている槍を引き抜き、目の前に現れた巨大サソリを討伐する意思を見せたのは、この広大な世界で、最も自由で最も高潔な女傑───『高慢姫』の森愛香であった。


 ───『砂漠の洗礼』ヒュージスコーピオンとの戦いが、始まる。

一方、愛香と同じく最前を歩いていた歌穂(大の虫嫌い)は、巨大なサソリが出て後方の美玲の方へ翔んで泣きついたそうな。

サソリは虫じゃないけど、蜘蛛やダンゴムシが無理なように駄目らしい。

そうなると歌穂───というか虫嫌いの面々には、砂漠は結構キツそうですね。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
砂漠のトリビア。 一つ賢くなれました。 そして現れる巨大サソリ。 砂漠にはサソリは欠かせませんよね。
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