勇者達よ、砂漠を進め。そこには強敵の音がする その①
テツand強敵
───時は、智恵達が麒麟を討伐した日から遡り。
第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』が開始してから、ゲーム内の時間で3日目。
「さて、それじゃあメンバーも決まった。それじゃ、早速出発することにするよ」
そう口にする康太を戦闘に、南西進出組として志願した10人のメンバーがこれまで泊まっていた宿を後にして、この世界の西にあるイレンドゥ砂漠を目指して歩き始める。
今回のメンバーは、秋元梨花・佐倉美沙・竹原美玲・橘川陽斗・東堂真胡・中村康太・成瀬蓮也・西村誠・細田歌穂・森愛香の10人だ。
そして、南西に進出する目的としては、鼬ヶ丘百鬼夜行に誘拐されている栄を救出する───という第8ゲームのクリア条件を達成するため、栄のいる場所を探す必要があるからであった。
もっとも、栄はプラム姫と同じく、極寒の地パットゥの牢屋の中で囚われている。
だから、南西進出組は全くの無駄足になるのだろうが、それに「不必要」という烙印を押すのはいささか不正解だ。
───この冒険は、彼らにとって意義がある。
それは、「栄を見つける」という第8ゲームのクリアに直接的に繋がらない内容であったとしても、決して無駄ではないのだ。
***
「よし、到着」
ほとんど丸一日歩いて、康太達が到着したのはオンヌ平原とイレンドゥ砂漠との狭間の集落。
この集落から更に西に進めばイレンドゥ砂漠に突入し、草木が生えず砂と青空だけが永遠に広がる大地を歩き続けなければならなくなる。
もちろん、そんな砂漠に集落はないのでここがイレンドゥ砂漠を抜けて宗教都市であり、第三首都でもあるムーヌに到着するまでは、野宿が続くだろう。
幸い、これはゲームであり現実とは違うので、テントを背負わずともインベントリに入れられるのが楽な点だ。ちなみに、そのテントはマスカット大臣の手で配布された冒険必需品の中に含まれていた。
「今日は、この集落に泊めさせてもらおう。明日からは砂漠の冒険だ」
康太がそう口にすると、流石に歩き疲れたのか全員が頷いた。
「それじゃ、男女それぞれ1部屋ずつで泊めてもらえそうなところを探そう」
康太は、全員が賛成したことを確認し宿を探す。
砂漠前最後の集落だからか、それなりに大きな宿を見つけられたので、そこで2部屋分予約した。
もちろん、国王に認められた勇者だ───という理由で、宿泊代は無料となっていた。
「───さて、食事も終えたし明日からの予定を練ろう」
そう口にして、男子部屋のテーブルを囲むのは康太と誠。そして、梨花と美玲の4人であった。
全員呼んでもよかったのだが、美沙は男子部屋に行くのも部屋に男子を呼ぶのも拒んだし、愛香は面倒だなどと口にしていたし、歌穂は部屋に付いているシャワーを浴びに行ってしまったのでこの2人が来たのだ。
男子の方も、来てくれた2人に人数を合わせるように康太と誠がこの会議に参加することとなった。
「とりあえず、どう進むかもう一度再確認は必要よね」
「うん、そうだね」
南西進出組として選ばれたメンバーは、今日決められたのだ。
であるから、ほとんど大事な話し合いはできていなかったし、ルートの確認も不十分なのだ。
───ということで、ルートの確認をしよう。
まず、王城などがある第一首都であり、最初の街と呼ばれるプージョンを、西に出てオンヌ平原を突っ切って、イレンドゥ砂漠まで到着する。それが、今日進んできた道のりであった。
今日一日でそれなりに進められたような気もするが、オンヌ平原を東西に突っ切るのと、イレンドゥ砂漠を抜けて第三首都である宗教都市ムーヌに到着するのとでは、進む距離もかかる時間も段違いだ。
明日からは、イレンドゥ砂漠を進み、宗教都市ムーヌを目指す。地図を見て、オンヌ平原の幅とイレンドゥ砂漠の幅を、大体で数えると5から6倍ほどあった。
であるから、大体5日か6日後にでも到着する予定だろう。それは大体、智恵達が麒麟が戦う日と重なりそうであった。
そして、宗教都市ムーヌに到着してからは、南下をしてナール海岸まで出る。
そこまで出てしまえば、後は海岸線に沿っていくように東へ移動しナール海岸と絶崖アイントゥを通って、智恵達との合流地点である商業都市アールへと到着する───という流れであった。
「砂漠の移動を考えると、ムーヌからアールまでは大体倍の2週間───ってとこになるかな」
「そうね。そうなれば、今日からアールまでの到着は合わせて3週間ってところかしら」
「そうだな」
「まぁ、全部が全部都合よく行ったらって話だ。ムーヌとかで栄を探す時間もあるし、今から1ヶ月って感じになるだろう」
康太が、そうまとめる。
「今から1ヶ月。現実世界じゃ8月になっちゃうわね...」
「そうねー。ここで暮らした時間が現実に影響するのかはわからないけど」
「そうだな。ゲーム内時間で何年も経っても、全部7月2日の出来事でした───とまとめられてもおかしくはない」
「マスコット大先生ならありそう」
「ってか、9ヶ月以上続いたらもう卒業になるじゃん」
「それもそうだね。じゃあ、あんまり長いと調整が入るかも───ってところかな?」
「まぁ、そうなりそうだね」
「ゲームが終わった後の話じゃなくて、ゲームの話をしたほうが良いのではないか?」
「それもそうだな。でも、ルート以外に確認することがない。明日からイレンドゥ砂漠を歩いていく───ってことくらいしか、伝えることがないからな...」
康太がそんなことを口にしたことにより、本日の会議は終了になった。
明日からは、砂漠を進む。