チュートリアルの終わり その③
「───さて、2人を捕吏に連れて行かせたら大分落ち着いたね。改めて、お疲れ様」
宿での待機をしていた5人の内、ほぼ1人でソングバード兄弟を倒した奏汰は、捕吏とソングバード兄弟の2人が出ていったのを見てそんなことを口にした。
『親の七陰り』と協力して麒麟を討伐し、その『親の七陰り』と紆余曲折あった末に、クズなアレンの策謀により派遣された『親の七陰り』最古参の2人。
アレンから最も信用されているというのと、肉弾戦が麒麟───というか人より大きな魔獣にはそこまで向いている訳では無いという理由で、今回の麒麟討伐組からは外されたソングバード兄弟の2人は、智恵達が来なかった時のための対策として智恵達の寝泊まりしている宿に派遣されたが、奏汰にコテンパンにされたようである。
「それにしても、先に来てくれたのが男子部屋の方で良かったな」
同じく、宿に待機していた稜がそんなことを口にする。
「そうだね。女子部屋が先だったら僕達が誰一人怪我すること無くアイツラ2人を倒すのは無理だったよ。運が良かった」
話を聴くに、男子部屋に先にやって来たソングバード兄弟は、奏汰と戦闘。稜は、大盾を持って女子部屋に移動し、奏汰が敗北した時に備えていたようだった。だけど、奏汰は敗北せずに勝てたようだった。
「流石は奏汰───と言うべきか...衝撃の事実で開いた口が塞がらないっていうか...」
健吾は驚きが隠せないものの、奏汰はこれまでにも戦闘面では活躍している。
ただ、周囲がチートとも思えるような身体能力を持ち合わせているだけであり、奏汰も戦えばそれなりに強いのである。
「まぁ、今回は『親の七陰り』の策謀が全部失敗したしいいんじゃない?」
「まぁ、そうだな。ちゃんと麒麟も討伐できて、俺達もレベルがそれなりに上がったし。お金もたんまりゲットだ」
そう口にする健吾。健吾のレベルは22まで上がっており、それなりの実力も伴ってきていた。
「まぁ、とりあえず麒麟の討伐は終わったな。余達は、レベルを30前後に上げるまではこの宿に泊まらせてもらおう。全員がそのレベル帯に達したら霊亀の討伐に動き出す。それでいいか?」
「「「えぇ」」」
「「「うん」」」
「もちろん」
その場にいる全員が、それぞれの返事をする。
麒麟を討伐した今、次なる目標は霊亀となった。
───そして、その日の晩。
夕食を食べるため、宿に付随する食事処に足を運ぶと───
「勇者御一行様!麒麟の討伐、おめでとうございます!」
そう口にして、宿に泊まっている他の客や、宿の従業員などの人がそう口にして、健吾達を出迎える。
どうやら、麒麟討伐の話は一般人にまで広まり、本格的に「勇者」として名が広まることとなったのだった。
***
「───逮捕...されただと?」
ソングバード兄弟が逮捕されたことに驚きが隠せない、アレン。
「アイツラがヘマをするわけがない...ふざけているように見えるが、やる時はやる...」
「そうだぜ!テヘランとルリアナの2人がいれば最強だ!負けるとは思えねぇ!」
「でも、逮捕された───ということは、負けたということになるパス」
「監禁されているのか...出れそうか?出れなさそうか?」
「やっぱり。2人は私の見立て通りの劣等人種」
逮捕のことを聴いて、『親の七陰り』の残りの5人は各々の反応を見せる。
「牢屋の中からは出れないようだ...」
アレンは、小さくそう口にする。現行犯で逮捕されている以上、保釈することはできない。
これから、審判魔法で罪が決められて、刑罰が下されるだろう。
死刑や無期懲役にはならなさそうだが、懲役刑の可能性は十分にある。
「───皆、戻ろう」
「戻るってどこにだ?」
「胎内か?」
「僕の師匠───『神速』の元に、だ」
アレンは、そう告げる。
その言葉に全員が唾を飲んだ後、頷いたのだった。
そして、翌日。
『親の七陰り』の5人は、『神速』の住む絶崖アイントゥの近くにある集落へと移動を開始する。
───それは、地獄のような修行の開始を意味していた。
***
「うぉぉぉ...すげぇ、本当に麒麟を倒しちゃった...」
俺は、『古龍の王』のヤコウこと、第2回生徒会メンバーの鼬ヶ丘百鬼夜行に、智恵達の冒険を見れるようにしてもらったので、それで映像を見ていた。
こっちからは声をかけることはできないけれど、向こうの音声は入ってくる。
だから、俺は智恵に詰め寄るアレンのことが嫌いだったし、浮気しないでアレンと戦った智恵のことが好きになった。
「麒麟、倒されたのですか?」
「ん、そうだよ。俺の彼女達が倒した」
「そうですか。すごいのですね。栄さんのお仲間は」
「もちろん!俺の自慢の仲間だよ。すぐに、俺達のことを助けに来てくれる」
「俺達───?ワタクシのことも助けてくれるのですか?」
「もちろん。俺達2人を助けに来てくれる」
第8ゲームのクリア条件が俺の救出で、このゲームのクリア条件がプラム姫の救出だ。
ゲームをクリアする必要はないようだが、俺を救出するのとプラム姫を救出するのは、同じ檻の中にいる以上同義となっているだろう。
まぁ、康太達はそれを知らずに俺のことを助けるため、ドラコル王国の南西部分を探索しているようだったが。
「───と、たまには康太達の方を覗いてみるか」
俺は、そう決める。
麒麟を倒してキリがいいから、一回智恵の方から目を離し、康太達の冒険譚を見ていこう───。