麒麟討伐最前線 その⑩
蒼が、思いついた作戦を智恵と健吾に共有するのと同刻。
麒麟の寝床に乱立している岩の1つに立っているアレンの元にやってくるのは『鋼鉄の魔女』アイアン・メイデン。
「───1つ、策を思いついた」
「そうか。俺達は何をすればいい?」
「麒麟のあの仮面を破壊して。そうすれば、倒せる」
「───仮面の破壊は駄目だ」
「一瞬で殺せる」
「それでも駄目だ。ここまで余裕だからといって、龍種の実力は、『一触即死』と呼ばれる麒麟の実力は侮れない」
「───じゃあ、口を開けさせて」
「了解した。体内から破壊するのは、定石だな」
───そんな、会話。
アレンは、過去に行われた麒麟と人類との戦いの資料を読んでいたから、麒麟の仮面の破壊を禁止した。
誰もが、その仮面の下に醜悪で凶暴な何かが隠れている───と、思うだろうが、レベル50を超えたような人物が束になって麒麟と戦った時に、そんな目隠しとなるようなおかめの仮面が破壊された。
そして、『一触即死』などと呼ばれるほどに、麒麟は凶暴さを増して暴走した───という逸話があるのだ。
その時だって、『無敗列伝』と言う二つ名で呼ばれる当時レベル77、現在レベル87の超人がいなければ、全滅となっていただろう。
「───さて、どうやって口を開けさせようか...」
アレンは、思案する。誰かを囮にしようとも、パーノルドが口の中に毒のナイフを投擲してしまった以上、その口を無闇に開くことはないだろう。
そうなると、こちらからなんとか開けさせなければならない。
この勝負で、勝てれば智恵を手に入れて飽きるまで遊ぶことができる───が、勝つなら最後まで油断なく、だ。
「つまらないミスはしたくない。タビオス!パーノルド!仮面を取らずに麒麟の口を開けさせろ!」
アレンは、そんな指示を出す。麒麟は「ぬヌぬヌー」などと言葉かどうかすらもわからぬ音を口にしながら、蛇のように頭と心臓と、その2つを繋ぐ伸縮自在の首だけの、蛇のような体で地面を這っていた。
龍種は皆、これだけの生命力を持っているのか、それとも馬の体は後からの付随物でこの体が当たり前なのかはわからない。だが、この蛇のような姿は龍に見えなくもない。
「おうよッ!」
「私達に任せるパスッ!」
そして、麒麟に立ちふさがるようして移動を開始する2人。
それを見るのは、蒼により作戦を告げられた智恵と健吾の2人。
「アレン達も動き出した。オレ達も動き出さないと!」
「それじゃ、作戦を実行に移すピョン!」
「待って、作戦を実行する───ってなると、2人───いや、蒼がキビキビ動くとしても1人は足りないよ?」
「いやいや。足りるピョン。それに、僕がキビキビ動く必要もないピョン」
「───そうなの?」
「まぁまぁ、僕に任せるピョン。僕って可愛いだけじゃないピョン」
健吾は、自分で言うのか───などと言いそうになったが、それだと蒼に「僕を可愛いて認めたピョン?」だなんて、どうでもいいことを問われてしまいそうだったので何も口にしなかった。
「2人共、否定しないってことは僕のことが可愛いって認めてくれたピョンね。キャピ♡」
蒼は、2人にウインクしてから、麒麟の方へと動き出す。
「何かを言っても何を言わなくても人をムカつかせられんの、本当にアイツの才能だと思うぜ...」
「蒼がぶりっ子なのは最初からでしょ。健吾、勝ちに行こう」
「おう」
蒼の後を追うように、健吾と智恵の2人は動き出す。
「パースパスパス!その口、開かせてやるパス!」
「俺様達が相手だったのが運の尽きだぜぇ!」
そんなことを口にして、蛇のような姿になった麒麟に対して、そんなことを口にするパーノルドとタビオスの2人。そこにやってきたのは、蒼で───
「あれあれ?お口ばかりで手があんまり動いてないように見えるピョン。それじゃ、僕が貰っていいってことだピョンね?手を止めてるやつに、足止めなんかされないピョーン」
「んだとォ!?クソ野郎!俺様が足だけじゃなくその息の根を止めてやらァ!」
蒼は、わざと「足止め」と言う言葉を口にすることで、タビオスのとある技を誘発させる。それは───
「俺様の本気を見せてやらァ!〈震撼核〉!」
タビオスがそう口にして、強く斧を地面に叩きつける。すると、地面がグラグラと振動して、思うように動けなくなる。
───そして、足の無い麒麟は、縛り付くこともできずに空中に投げ出される。
「今だピョン!エレーヌちゃん!これに勝ったらさっき、アレンが妾にしてやると言ってたピョン!」
そんな言葉と同時、蒼は揺れる地面を一気に踏み込んで空中へと飛び上がる。エレーヌを、そんな言葉で惑わした。
「───本当かッ!」
「んなこと言ってない!僕はチエを彼女にするんだッ!」
アレンは必死に否定するものの、そんな言葉はエレーヌには届かない。届くのは、蒼の甘い勝利への道標だけだ。
エレーヌと健吾・智恵の3人の剣士が集い、蒼が麒麟の上に押し重なるように降っていく。
「エレーヌちゃんは、僕と斧を合わせるように下から振ってほしいピョン!そしたら、勝てるピョン!」
「承知!」
「〈大切断〉!」
「〈陽光斬り〉!」
「───ッ!」
空中では上から順に、蒼の斧・麒麟の首・エレーヌの剣───という風に、挟まるようにして2つの刃物が麒麟の刃物に襲い掛かる。が───
「ぬヌぬヌー!」
麒麟の首は、横に潰れるようにしてその力を逃がしてしまう。やはり、まだ駄目───
「オレが!」
「私が!」
「「切り落とす!」」
その言葉と同時、横に潰れるようにして逃げていく麒麟の首を逃がすまいと、健吾と智恵の2人の剣が麒麟の首の肉に食い込む。
そして、麒麟の首はとある一点だけではあるが、4方向から挟まれる。
これでは、いくら柔らかくてもこの攻撃のダメージを逃がすところがない。
逃げられず、剣が通るのを受け入れるしかない。
「ぬヌーー!!」
そんな、絶叫と同時、地面にボトリと音を立てて落下するのは、多くの人を苦しめてきた麒麟の首。
「首が...斬れたッ!」
「そんな...チエ、が...」
喜びを口にする智恵と、悲しみを口にするアレン。
麒麟を介して行われた勝負は、智恵達の勝利で終わる。それを証明するように、麒麟のおかめの仮面を除いて、全てが霧消していく。
きっと、この麒麟の仮面は勝者の証。手元に置いておいても、問題ないだろう。
───こうして、『一触即死』麒麟と『親の七陰り』・勇者一行連合軍の勝負は連合軍の勝利で幕を閉じたのであった。