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麒麟討伐最前線 その⑥

 

「───決戦の場に到着だ」

 15分ほど歩き続けて、ついに麒麟の寝床を発見したアレンや智恵達10人。

 そこにいたのは、麒麟(きりん)


 首から下は馬だが、首から上は人間の人面馬───と言っても、()()()の仮面を付けているので、顔が人間と同じような顔をしているのかわからない。だが、輪郭としては人間の顔そのものだ。

 もし、仮面が付けられていなければどれだけ醜悪な顔を見せつけられていただろうか。いや、もしかしたら見るもの全てが惚れ込むような美しい顔が付いているかもしれないし、体に寄せて馬面なのかもしれない。


 ───と、麒麟の身体的特徴を話す上で、もっとも重要なのは人面馬ではない。


 麒麟の一番の特徴といえば、ろくろ首のように無際限に伸び、かつ並の刃じゃ()()()()()()切れないその首だろう。

 無限に伸びる原理や、切ろうとしても切ることが難しいその首は、どのようにして構成されているのかは不明である。


「───気味の悪い姿だな」

 麒麟と初対面である皇斗は、ただ静かにそう口にする。純介は、ゆっくりと1歩後ろへ下がった。

 動じていないのは、2度目の対面である智恵や健吾・蒼と、アレンの連れてきた『親の七陰り(ワーストヒストリー)』の5人だった。


 草木こそ生えていないが、巨大な岩岩が乱立しているこの麒麟の寝床で、麒麟から見えないよう岩にの後ろに身を隠していた。


「───譲るよ。君達に先制攻撃を」

「───え?」

 アレンのその言葉に、智恵は思わず驚いてしまう。


「先制攻撃を譲る。そう言ったんだ。ほら、やっぱり花を持たせないとね。大丈夫、皆とは既に話し合っている。心配はいらないよ。このことで愚痴愚痴言うことはない」

 アレンは、智恵に対してそんな言葉を投げかける。


「───わかった、ありがとう」

 智恵は、静かに頷く。そして、手をグーパーさせた。そして───


「純介。出番よ」

「───え、僕?」

「そう。純介の出番」

「どうして...」

「いいから」

「───わかった」


 一悶着あった後に、純介はギュッと魔法杖を握る。魔法使いの純介であれば、姿を表さなくても麒麟に攻撃することが可能だった。


「陳腐そうな魔法使いだこと。杖も安物だし、見ていて恥ずかしい」

「───」

『鋼鉄の魔女』という異名を持つメイが、純介に対して冷たい言葉を投げかける。実際、純介はレベル21の中級者魔法使い。レベル52のメイと比べてしまっては、確かに劣るだろう。


「僕だって、負けるつもりはないよ」

 そう口にして、純介は片目を瞑る。敵との距離を見計らい、最大火力の一撃を最適な場所へと打ち込む。


「くらえ、僕の最大最高火力。〈紅焔神の涙(アグニス・グレネード)〉」

 純介の言葉と同時に放たれるのは、純介の魔力を全て使用した〈紅焔神の涙(アグニス・グレネード)〉。

 これから戦場となる麒麟の寝床に大量の炎の柱が乱立する。


「非効率」

 麒麟とは全く関係のない方向に火柱が立ってしまう〈紅焔神の涙(アグニス・グレネード)〉は、確かに非効率だろう。だけど、純介が持っている2つのAランク魔法のうち、初撃には持って来いの大技であったのだ。


「ポーションを...」

 そう口にして、純介はその場にドサリと倒れる。そして───


「ぬヌぬヌ───ぬゥ!」

 純介の全身全霊の魔法により、強制的に起こされたので不機嫌そうに人間には理解できないような言語を口にするのは、麒麟であった。その長い首をヌッと持ち上げ、周囲を探るような行動を見せる。


 一方、智恵達は───


「───やっぱり、動けない...」


 智恵達は、誰一人として動けていない。麒麟への先制攻撃として、Aランクの大魔法を放ち失神した純介が動けないのはともかく、他の4人でさえも───いや、これに関しては『親の七陰り(ワーストヒストリー)』さえも動けてはいなかった。


「───なんだ、気付いていたのか。知らないと思ってたよ」

「パースパスパス、アレンさんも中々人が悪いパスねぇ」


「私達を騙そうとしてたんでしょ。最低」

「ルールは守ってるし、こっちは善意で君達に先制攻撃させてあげたんだ。感謝してほしいくらいだよ。ほら、その感謝として僕の彼女になってくれ」

「───最低」

 どうやら、アレンは「麒麟の声を聴いたら数秒の間は移動不可になる」という麒麟の特性を知っているようだった。だが、前々から倒そうとしていたのであれば、前情報を調べているのも当然だろう。


 これは、〈戦慄の旋律〉と呼ばれる、麒麟の持つ異能の1つであり、その概要としては声を聴いた者に、1〜10秒間ランダムに、移動不可を付与する───というものだった。


「振られて可哀想に。同情するよアレン。代わりと言っては何だが、私を娶らないか?」

 仁王立ちをしながら、エレーヌはそんなことを口にする。


「婚約破棄だ」

「んなッ!そのことはもういいだろう、過去の話だ!」

 エレーヌとアレンが、そんな会話をしていると、来襲するのは───


「ぬヌぬヌー」

 眠っているのを魔法によって叩き起こされた、今回の討伐対象───麒麟であった。


 そのまま、首を大きく振るった攻撃をアレンとエレーヌに対して行い───


「───戦闘開始だな」

 アレンはそう口にして動けるようになった体を行使して後ろへ大きく飛び、エレーヌは愛剣かつ愛棒である両手剣でその首をガードしたのだった。


 ───麒麟との戦いが、今ここに幕を開ける。

本名はアイアン・メイデンだけど、フルネームで呼ばれるのが嫌いなので「メイ」と呼ばれています。

まぁ、確かに「鋼鉄(アイアン)」には可愛げないし、「処女(メイデン)」ではセクハラになってしまう。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
アレン、策士ですな。 先制攻撃を譲ったと思ったら、 こういう事まで計算するのはずる賢い。 さてアレン達の腕は如何ほどに……。
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