麒麟討伐最前線 その⑤
「これが僕の所属する『親の七陰り』のメンバーさ」
アレンはそう口にして、智恵達の方を見る。その瞳は自信に満ち溢れており、仲間のことを信じていることが感じ取れてた。
「───おいおい、随分と痩せ細ったチビ共じゃねぇか。こんな体躯で、麒麟を討伐できると思ってんのか?」
そう口にして、巨大な斧を背中に背負った筋骨隆々としたオレンジ髪の男が純介のことを見る。
「お前はすぐに麒麟に食われるだろうな。いや、栄養も無さそうだから無視されんじゃねぇか?ガッハハハハ!」
大男は、純介のことを見て笑い者にする。純介は、言い返すこと無くただ押し黙っていた。
「おいおい、ビビってんのか?そんなんじゃ麒麟を見たら漏らしちまうんじゃねぇか?ガハハハハハ!」
純介に肩を回しながら、そうやって性格悪く笑う大男。純介は巨体を持つ大男にビビっていたのか───いや、違う。
事前に決めた「相手チームを傷付けるのは禁止」というルールがある以上、どれだけ怒らせてもこの大男は純介に暴力を振るうことができない。
もし暴力を振るおうとしたとしても、智恵を欲しがるアレンがこの大男を止めるだろう。
であるからこそ、ここで煽り返したところで、相手は暴力を震えない。結果として安全なんだ。
───が、それでは相手の思う壺。
向こうだって、それは承知の上でここに来ているはずだった。
であれば、純介が煽って何か向こうに得があるのかもしれない。であるからこそ、純介はその挑発には乗らない。
「───ッチ、無反応かよ。つまんねぇな...」
「悪かったね、つまらなくて。僕の名前は純介」
「いや聞いてねぇよ、チビ」
「聞いて欲しくて名乗ったんじゃない。早く名乗って欲しいから名乗ったんだ。君の名前は?」
自らが名乗り、名乗って欲しい───と口にすることで、相手を名乗らせることを強制する。もし、ここで「名乗らない」を宣言したら、「君は僕みたいな弱いのにさえ名前を教えるのが怖いのかい?体は大きいくせに心は小さんだね。ダチョウみたいな脳みそのサイズなのに性格はチキンとか、君の両親は醜いのかな?」などと煽ってしまえばいいだけだった。
「どうせ言っても無駄だろうが、そんだけ聴きてぇなら教えてやるよ。俺様はタビオス・グレゴランス。『暴若武人』のタビオス・グレゴランス様だ。覚えたか?ヒョロガリ」
「あぁ、ありがとう。特にその二つ名、君にピッタリだね」
純介は、少々嫌味を込めてそんな返事をする。タビオスは、「傍若無人」の意味を知らないのか苛立っていなかった。どうやら、本当に脳みそはダチョウサイズらしい。
「パースパスパス。タビオスにさえも屈しないとは!殺したくなるパスねぇ...」
そう口にして、懐からナイフを取り出しそれをベロベロと舐めてナイフをドロリと口の中で溶かしたのは、目の周囲を緑色に塗っている黒髪の男性。
「───おぉっと、失礼したパス。申し遅れたパスね。私は、パーノルド・ステューシー。『失敗作』のパーノルド・ステューシーパス」
そう口にすると、先程口の中に含んでいたナイフを、ちょうちょ結びにして吐き出した。
口の中で何をしたのかはわからない。だが、一般人にはできないようなことをしたのは事実だろう。
───と、男性陣2人の自己紹介が行われている裏で、アレンに抱きつきながら───否、股間を擦り付けながらアレンに「私に欲情してくれ」などと懇願している美しい女性が1人。
「タビオス、コイツを外せ」
「わかったぜぇ、『閃光』さん」
アレンは、タビオスにそう命令すると紅蓮の髪を持つ女性を引き剥がす。女性であれ、重い鎧を着ているのだからかなりの重量になるはずだが、それをいとも簡単に持ち上げるタビオスの筋力には驚かされる。
「んなッ、何をする!輪姦せ、ワタシを輪姦せッ!」
降ろせ───ではなく、輪姦せなどと懇願している変態趣味を持っていそうな女性。降ろしてと懇願していない辺り、堕ろさないのだろうか。と、その女性は健吾達の前に投げ出される。
「───っく、ころせ」
「え、えぇっと...」
智恵が、困惑とどこか恐怖を含んだ目で西洋式の重そうな鎧を身に纏い長い紅蓮の髪を持った白皙の美女に声を掛ける。
「この女、気持ち悪いピョン...」
「気持ち悪い───か。人はワタシにそういい罵倒する。だが、いいんだ。ワタシはワタシのイキ方を決めている。ワタシの名はエレーヌ・ダニエラ・レオミュール。『高潔欲』と呼ばれることもある。よろしく頼む」
そう口にして、鎧があり立ちにくい中でなんとか立ち上がるエレーヌ。が───
「気持ち悪いです。劣等人種」
その直後、エレーヌの着ている鎧と、エレーヌの体を穿つようにして、鋭く尖らせた岩石を操るような魔法を無詠唱で発動させたのは、1人の黒くてつばの広い三角帽子を被った銀髪の女性。
仲間であるはずのエレーヌに対して、こんなに酷く当たることとは、驚きが隠せない全員を前にしてこう名乗った。
「───『鋼鉄の魔女』アイアン・メイデン。下賤な声で私の名前を呼ばないでください。呼んだら殺しますので」
「全く、メイの魔法はワタシの子宮を破壊してくれるな。次は尿道にやってくれると嬉しい」
岩石で体を貫かれたのにも拘らず、平然と喋るのを続けるエレーヌに、さも不愉快そうな表情で聞き流すメイ。
「───これで、僕が連れてきた4人の紹介は終わりだ」
「他にも『親の七陰り』にはメンバーがいるのか?」
まさか、こんなイカれた人が、これよりも多くいて貰っちゃあ敵わないが、健吾は一応そう質問しておく。
そう聞いた理由としては、『親の七陰り』という名前であるから、7人いるのでは───と考えたのだ。
まぁ、「親の七光り」も七人いるわけではないので、違う可能性も充分にありえるのだが───。
「それじゃあ、麒麟の住処に行こう。わざわざ時を経過させる必要もない」
「って、おい!オレのことを無視するんじゃねぇ!」
健吾は、そう口にするもののアレンは智恵以外の4人のことを無視している。数合わせであり、話す必要すらないと感じているのだろう。
───そんな中で、アレン達『親の七陰り』のメンバーは進んで行ってしまう。
「皆、行こう。ここで勝って、ギャフンと言わせてやろうよ!」
5人の中の紅一点であり、最年長である智恵がそう口にする。
「向こうが名前を聴かなかったのも、余達に興味がない証拠だ。その考えを改めてやらないとな」
「そうだピョンね。プリティーな僕の名前を聞かなかったこと、後悔させてやるピョン」
───そして、智恵達5人も『親の七陰り』に付いていって、麒麟の住処へと向かったのだった。