麒麟討伐最前線 その②
「───〈双頭斬り〉ッ!」
南西進出組から出発してから早くも5日が経つ。
智恵のレベルはこの5日間で18日まで上がっており、現在もレベル上げに勤しんでいた。
「よし、倒した」
智恵は、自分と同じくらいの大きさを持つ狼を討伐し、レベルが更に1上がる。
「───お、そっちも倒したか」
そう口にしたのは、弓使いの美緒と協力して大柄のクマを倒した健吾であった。
健吾のレベルは18で、美緒のレベルが16にまで上がっていた。
───ここは、オンヌ平原の奥にあるピンナム高地の近く。
適正レベルが15から20の、初心者が中級者になるためにレベルや戦闘を行うにはピッタシの魔獣がいる地帯であり、明日討伐しに動き出す麒麟の生息地にもなっている。
「レベルはどうだ?」
「今ね、19になった」
「19か。今のトップは誰だっけ?」
「皇斗。今日の朝でレベル23だったけど、レベル25くらいには上がってそうじゃない?」
「そうだな」
───と、その時。
”ドォォォン”
どこかから、大規模な爆発がするような音が聴こえてくる。きっと、純介と紬が大規模魔法を使用したのだろう。
もう1発でAランクの魔法を使用しても失神しないほどには、MPの容量は増えた。
「───勝負は明日だけど、行けそうかな?」
美緒が智恵にそう語りかける。
「もちろん。その為にレベルを上げてきたんだから」
智恵はそう口にして、インベントリから回復ポーションを取り出す。
これは、魔獣が落としたお金で購入したものだった。智恵の持ち金は137ベルグにまで上がっており、回復ポーションなどのポーションは、今日の午後に追加で買いに行く予定だった。
「それにしても、ちゃんとゲームの世界だよな。なんで魔獣を倒して人間のお金をドロップするんだ───とか思ってたけど、魔獣が殺した人間が持ってた財布を食わずに持ってるなんて」
ゲームであれば、お金がドロップするだけだが、第8ゲーム用に変更されて、その死体を漁ると、人の死体を落とすようになっていた。
ほかにも、魔獣を倒す他に住人からのクエストを受けることでもお金を稼ぐことは可能ではあるが、智恵達はレベルアップを優先しているので、それはしなかった。
「インベントリとかはゲームっぽいけど、現実味があるところもスゴいよね」
美緒も、健吾の言葉に同調する。リアリティとフィクションの両方が追求されており、VRにしても売れるのだろう。だが、健吾も智恵も美緒も、このゲームがスマホゲームなのかVRゲームなのか知らない。
「んじゃ、そろそろ時間だし街で買い物しに行こうぜ。皆を呼びに行くか」
「そうね」
そして、健吾と美緒は先ほど爆発がおきた方へ歩きだしていく。
それに付いていくようにして、智恵は歩いていった。
3人が爆発した現場まで歩いていくと───。
「あ、智恵ちゃん!見てー!」
智恵の方へかけてきたのは、紬。
「つむ、どうしたの?」
「つむの魔法、見てほしいの!」
「いいよ。どんな魔法?」
「いいから見てて」
そう口にして、紬は魔法杖を両手でギュッと握る。そして───
「〈雪月華〉」
そんな詠唱と同時、短い草の生えていた地面は白く染まっていき、半透明の花が浮かび上がっていく。
「綺麗...」
智恵は、一面に広がる氷できた花畑にそんな感想を残す。歩くと、霜を踏むようなサクサクとした音がして、氷でできた花々はキラキラと輝く。
「レベル16になったから覚えたんだ。いいでしょ?」
「うん!すごくいいよ!」
紬の行使した魔法───〈雪月華〉は、戦闘に役立ちそうには無さそうではあるが、見ている分には心が落ち着き、ヒンヤリするから夏には最適だと思えるような能力であった。
「よかったね、つむ。智恵に魔法を見せられて」
「うん!」
梨央は、紬に寄ってきてそんなことを言って紬の頭を撫でる。
「───それで、麒麟討伐にはどう?」
「大丈夫だよ、ちゃんと色々と用意できてる」
「本当?」
「うん。純介はレベル21になったし、色々と魔法も増えてきたよ。まぁ、習得できているのは基本五属性だけだけど」
「梨央は何レベルになったの?」
「ワタシ?ワタシは15」
「お、今日の朝は11だったよね?」
「うん。純介と紬がトドメを譲ってくれたんだ」
このゲームでは、基本的にトドメを刺した人物に経験値が入る。
だが、ストーリーはオフラインで進めるので経験値に対してはほとんど問題がないのだが、今回の第8ゲームではオンラインゲームのような形で、何人のプレイヤーが参加している。
だから、この経験値取得に対する不自由は目をつむるべきだ。
「それじゃ、街に戻ろうぜ。稜達も待ってるだろうし」
そう口にして、健吾を戦闘にピンナム高地からオンヌ平原へと戻っていく。
1週間、同じ宿を使用していたが、宿は勇者様の為───と、1週間全てを無料にしてくれた。
現実とは違えど、豪華な食事は毎日のように楽しめたし、かなり自由に過ごせていた。
だが、宿としても『古龍の王』を討伐するかもしれない勇者の最初期を支えた───となれば、今後の繁盛に繋がるのだろう。
「それじゃ、行くぞ。〈転送〉」
これは、剣を武器に戦っている智恵や健吾も含めて全員が覚えたCランクの魔法。
自らの周囲にいる任意の人物を、あらかじめ登録しておいた場所に転送させる───という、レベル10を突破した時に手に入れることができた魔法だった。
あらかじめ、プージョンの王城前が登録されていたので、変更せずにここまで来ることができた。
ほとんどMPを使用することもないので、場所の移動を円滑にする必要があるのだろう。
上位互換の魔法もあるらしいが、その魔法は登録できる場所が増える───と言ったものだとコンが説明してくれた。
それと、発動するのにその場で止まらないといけないので、戦闘から離脱する際に使うのは難しそうだった。
そんな〈転送〉を使用して、健吾達6人は街へと帰る。
残りの4人───稜と皇斗・蒼に奏汰は、最初の街であるプージョンを北に進んでぶつかる大山脈───エットゥ大山脈の麓で、より強い敵と戦っていたのであった。
「あ、来た来た」
「全く、遅いピョン」
先に4人は戻ってきていたようで、これにて10人は合流する。
そして、明日の麒麟討伐へ向けての準備をするために動いたのであった。