麒麟討伐最前線 その①
───極寒の地 パットゥ。
ドラコル王国の最北端に位置するパットゥにて囚われているのは2人の男女。
そう、俺とプラム姫を名乗る人物であった。
俺は、鼬ヶ丘百鬼夜行に連れ拐われた後に檻の中に入れられてしまったが、その檻は俺1人ではなくプラム姫との相部屋───相牢屋であったのだ。
プラム姫は、自らのことを「ドラコル王国の姫」と身分を表明していたのだが、俺はこの世界についてイマイチわかっていない。
ここに来たときには、既に檻の中に入っていたのだ。鼬ヶ丘百鬼夜行からの事前説明も無いし、俺は目の前にいるプラム姫が本当にドラコル王国の姫であるのかどうかわからない。
だけど、その発言以外に信じるものは何も無いし、それを信じることにした。
まぁ、これから何日か一緒に過ごすことになりそうだし疑心暗鬼になるのはよくないだろう。
俺は、プラム姫からこの世界のことについて色々と聴いた。
プラム姫は『古龍の王』に連れられてここに来たことであったり、龍種と呼ばれる最強種はドラコル王国に8体いることであったり。
色々と話を聞いていると、プラム姫から質問がされる。
「───それで、栄さんは何者なのですか?」
「何者?」
俺は、その質問の意図がわからずに困ってしまう。
だがきっと、俺が色々と質問をしたから無知だということを気にかけているのだろう。
俺は別の世界からやって来た───などと言っていいのだろうか。もし言ったとして、それが通じるか通じないかすらわからない。
そんなことを考えていると、プラム姫が言葉を続ける。
「別に警戒して知らない振りをしなくていいんですよ?ワタクシは味方なのですから」
「───あぁ、ごめんなさい。別に警戒している訳じゃないんです。俺はえっと...かなり遠いところからここに来ていて」
あまり「これはゲーム」とか言いたくなかったから、俺は「遠いところ」とぼやかしておいた。
「遠いところ?もしかして、海を超えたところから来てくださったのですか?」
「まぁ、はい。そうなりますかね。だ、だからドラコル王国のことについて何も知らなかったんですよ」
来てくださった───というのは少しおかしいような気もする。だって、捕らえられているのだ。
来てくださったと言うよりかは、連れてこられたが正しいだろう。
「そうだったのですね。すみません、ワタクシはアナタのことを知らなくて...」
「お互い様ですよ」
「───って、結論が出ておりませんわ。栄さんは何者なのですか?」
「その何者か───ってのがよくわからないんですけど...」
「知らんぷりを突き通すつもりですか。わかりました。それでもいいでしょう」
プラム姫は、何か勘違いしているような気もするが、どんな勘違いをしているかすらわからない。
だから俺は、自分が「何者」でもないことを話しておくことにした。
「俺は何者でもないですよ。どこの王族でも無いですし、最強でもない」
「またまたご謙遜を。アナタも選ばれたんでしょう?」
「───」
何に───と聞くのは無粋だった。
きっと、暗に俺のことがマスコット大先生に「天才」だと選ばれ、「真の天才」の器になり得ることを見抜いていたのだろう。
「まぁ、いいでしょう。アナタが何者なのかは『古龍の王』に聴いてしまえばわかるのですから」
『古龍の王』───鼬ヶ丘百鬼夜行のことだ。鼬ヶ丘百鬼夜行に連れ拐われたはずなのだが、怖くないのだろうか。気丈なお姫様だ。
「───と、親睦も深まりましたし、敬語を付けるのは辞めにしてくださりませんか?いつまでもお城の中の気分が続いてあまり好きでは有りません」
「わかりました───わかった。敬語は使わないほうがいい感じかな?」
「えぇ、使わないでくださると嬉しいです。捕まっているのに敬語を使われる───というのも変な気分ですし」
そう口にすると、プラム姫は美しい笑みを浮かべる。キレイだとは思うが、惚れはしない。だって俺には智恵がいるから。
───と、敬語を使ってほしくないと言っていたけれど、プラム姫は王城の生活があまり好きでは無かったのだろうか。
俺だったら、こんな狭い牢屋の中に換金されるよりかは、王城にいたいのだけれど、実際に王城にいて王族の辛さを味わったことがないので、迂闊に適当なことは言えない。
きっと、毎日格式高いパーティーであったり、キツい礼儀作法のレッスンなどがあって大変なのだろう。俺の勝手な想像ではあるが、毎日頑張っているプラム姫に同情し褒め称えた。
───と、そんなことを思っていると、牢屋の様子を見に来たのは鼬ヶ丘百鬼夜行であった。
「ねぇ、アナタ。『古龍の王』を呼んでくださる?」
「『
古
龍
の
王
』
は
俺
だ
が
?」
「またまた、ご冗談を。『古龍の王』はもっと年老いていますよ?」
「あ先今
ぁ代の
、は『
先俺古
代が龍
の殺の
こし王
とたは
かぞ俺
。?だ」
「───ッ!なんですって!?」
驚いたような声を出すプラム姫。
「百鬼夜行。どういうことだ?」
「本今代
来回わ
ではり
あ第に
れ8『
ばゲ古
俺ー龍
はムの
いで王
なあ』
いるを
のか務
だらめ
が、て
な俺い
。がる」
「───そういうことか」
第8ゲームのための改変ではあるが、プラム姫はそれを聞かされていない───設定されていないのだろう。
だから、こんなに驚いたような反応を見せた。
「え、え、じゃあどういうこと?アナタが『古龍の王』で...え?」
随分と動揺しているプラム姫。
「安
心
し
ろ
。
目
的
は
変
わ
ら
な
い」
「目的は変わらない───だなんて、そんなこと言われても...」
彼女はそんなことを口にして、少し悩んだけれども、すぐに首を振るって考えを改めたようだった。
「───わかったわ。ありがとう。それと、もう1つ。栄さんは何者なのかしら?」
「何仲
者間
で意
も識
なが
い強
。い
少だ
しけ
、の
正一
義般
感人
とだ」
「───そう、ありがとう。孤立無援なのね。でもいいわ、ワタクシの心は絶対に折れませんもの」
プラム姫は、そんなことを宣言する。
百鬼夜行は、そんなプラム姫を見向きもせずに俺の方を一瞥し、その場を去っていった。