はじめての魔獣討伐 その⑥
600話突破記念!
本日はいつもよりも長めです。
いつもの約1.7倍!
その夜。
「1週間後、龍種の1体とバトル!?」
健吾のその報告に、驚いたような声を上げるのは康太であった。
「トラブルメーカーの栄がいないから今回は安心できると思ったら...忘れていたわ。栄よりも智恵の方がトラブルメーカーであることをな」
健吾の話を聞いていた愛香が、そんなことを口にする。
現在、昨日と同じ宿に部屋を借りて、康太の部屋に集合している別部屋の人物は、健吾・美玲・愛香・皇斗の4人。
今日1日の報告をするために、こうしてメンバーを集めていたのだ。
尚、智恵は疲労が溜まっていたのか宿に帰ってきた後は早々に眠ってしまっていたらしく、この会議には代理で美玲が参加している。
「落ち着け。現状をまとめよう。オンヌ平原で魔獣と戦っていたら、龍種の1体である麒麟が乱入。そして、健吾・智恵・美緒の3名は戦闘に。そこで、助けに入ったアレンという名前の男が、智恵に一目惚れ。智恵を奪い合い、1週間後にピンナム高地にて、麒麟の討伐に挑む───こんな感じだな」
「で、それに智恵を含めて5人の仲間が必要。それで、メンバーを探しているってわけか」
「そうなる」
「妾は参加しないぞ」
「そうか」
「僕が知らない間に、大変なことになってるピョンねぇ」
康太と同じ部屋であるため、ウサギのような鋭い聴力を持つ蒼が、会話に乱入してくる。
「そうだ、麒麟との戦闘には蒼も乱入した!」
「僕のこと、忘れてたのかピョン!?」
「ごめん、忘れてた」
「忘れてるなんて、酷いピョン!」
「蒼、黙れ」
「───はい、ピョン」
勝手に会議に入ってきた蒼はふざけていたけれども、皇斗に注意されたのでシュンとしながらも静かになる。
「───それで、話を戻すぞ。今の問題は、1週間後に誰が麒麟と戦うか。それが問題になりそうだな」
「まぁ、そうだな」
「普通に、前日まででレベルが1番高かった5人じゃ駄目なの?」
「智恵は行く必要があるから4人だ。たわけ」
「はいはい、すみませんね。訂正。レベルが高かった4人じゃ駄目なの?」
「駄目───ではないと思うけど、それだと最低でも1週間はここに停滞することにならないか?俺達としては先に進みたいんだが」
美玲と愛香の言い合いの中で、康太が自分の中で決めていた今後の方針を話す。
「先に───ということは即ち、霊亀のいる霊鬼山に入るために必要なレベル───要するに、25まで上げ次第先に進むということだな?」
「そういうことだ。俺は今7なんだけど、皆は何レベルだ?」
「えっと...オレはレベル5だ」
「ワタシは6」
「僕も6だピョン」
「妾は教えるつもりなどない」
「余も7だ。倒す敵の数を制限していたからな。そうでないと、余の乱獲になってしまう」
「了解。まぁ、他の皆も大体こんな感じだ。今日でレベル10まで行ってたら速い───みたいな感じだろうな」
「まぁ、そうみたいね」
「だから、1週間もあればレベル25は超えられそうなはずだ。よって、レベルが上がり次第霊亀を倒しに行きたいんだが...皆はどう考える?」
「別に問題ないだろう。だが、最低レベル25じゃないと入れない───というほどだから、それよりも強い魔獣がゴロゴロいる可能性が高い。レベル30くらいにして向かったほうがいいと考えられる」
「それもそうだな。レベル30にするにはどのくらいかかるだろうか...」
「あー、一個提案」
「健吾、何だ?」
「普通に、ドラコル王国の西側をグルっと一周するのは駄目なの?」
「そういうことか、西側を見て栄を探しつつ、レベル上げも兼ねる───ということだな?」
「そゆこと。まぁ、行けそうなのはこの地図を見るに南西だろうけどな」
健吾は、そう口にしてイレンドゥ砂漠とムーヌと書かれた、地図の南西辺りを指で何周かなぞる。
北西に行くには、広大な砂漠を進んでいく必要があったし、色々と大変そうだったし、迷子になる可能性も充分に考えられた。
「ここから南に行けばナール海岸ってのもあるわね。そっちはどうなの?」
「そっちまで行くならそのまま絶崖アイントゥを通って商業都市アールの方へ行ってしまえばいいだろう。効率が悪い」
「行ってもいいじゃない」
「これはゲームだ、北に───というか、ヤコウがいるとされているパットゥに近付けば近づくほど敵のレベルも上がってくるのは明白。だから、急ぎ足で行くよりも足並みを揃えた方がオレはいいと思う」
「というか、健吾。貴様の狙いは程よく別行動組と合流することだろう?」
「おっと、バレた?」
「バレバレだ」
「でもまぁ、合流したい───という思惑もよくわかるし悪いことじゃない」
「だろ?」
「あぁ。だけど、栄の探索も進めないと時間が勿体ない。第8ゲームに時間制限は無いけれど、栄の身に何が起こるかわからないからな」
「それもそうだし、智恵の精神的にもワタシは不安。今日も色々あって疲れてそうだったし」
「ならば別行動すればいいではないか」
「2つに?」
「いいや、3つに」
「「「3つ!?」」」
「ふん、そういうことか」
皇斗の提案に驚く健吾・康太・美玲の3人と、何か納得している愛香。
「あぁ。明日から栄探索の為に南西に進む者。1週間後に麒麟の討伐に行く者。そして、レベルを30前後にまで上げてから、霊亀を討伐しに動く者。こう分かれれば最も効率的───そうは思わないか?」
「まぁ、そうかもな」
「南西を探索しつつ、次への道も拓ける。そして、智恵も助かる。それしかないな!」
「参政権も賛成権もないけど、僕も賛成するピョーン」
「うん、ワタシもそれに賛成───」
「妾はそれに、待ったをかける!」
会議がまとまりそうになったその時、待ったをかけるのは愛香であった。
全員が、少し面倒くさそうな目で愛香を見る。
「高尚な意見をするというのに、貴様らはどうしてそんな目で見る?」
「皆、まとまりかけてるのに茶々を入れてくる人が嫌いなんだピョン」
「なんだと?このどぶウサギ。しねばいいのに」
「んなッ!今日はなんだか僕の扱いがひどいピョン!」
「それで、蒼のことは置いておいてだ。待ったをかけたってことは何かあるんだよな?」
話を逸らすことが専門職の蒼を部屋から追い出して、康太は話を戻す。
「あぁ、もちろんだ。3つに分けるのは人数の減少もあり非効率だ。だから、1週間後に麒麟の討伐に行く者とレベルを30前後にまで上げてから、霊亀を討伐しに動く者───この2組を合体させる」
「っていうことは、霊亀も5人で倒すのか?」
「たわけ。な訳なかろう。麒麟・霊亀討伐班が10人、南西進出班が10人に分ければ均等になるだろう。そんなこともわからないのか?」
「すっげぇ言われよう。だけどもまぁ、オレが悪かったよ」
「それと、だ。南西に進む者は、そのままナール海岸及び絶崖アイントゥを通って、商業都市アールにて麒麟・霊亀討伐組と再度邂逅を果たす。それならば、南西だけでなく南までもを探索できる。それならばより広大な範囲の探索ができるだろう?」
「それもそうだな」
「賛成か反対か?賛成の人は手を挙げろ。反対の人は手を上げろ。相手してやる」
賛成なら挙手を、反対な暴力を。暴力沙汰が起こる可能性もあったが、素直に全員が挙手をした。
「面倒な方向に進まず、いい方に進んだピョン」
「ッチ!」
「ひっ!」
「ほら、蒼はもうどっか行け。それで、今日の全てをまとめるとどんな感じだ?」
懲りずに首を挟んでくる蒼を引っ込ませて、康太は今日の会議を終わらせようとしてくる。
「皇斗。妾の代わりにまとめよ」
「───了解だ。オンヌ平原で魔獣と戦っていたら、龍種の1体である麒麟が乱入し戦闘になるもアレンという名前の男が助けてくれる。その際にアレンは智恵に一目惚れしてしまい、智恵を奪い合うために、1週間後にピンナム高地にて、麒麟の討伐に挑むことになった。だが、麒麟の討伐を待っていられないので別働隊を用意して南西の探索に踏み込むことにした。ここで、麒麟討伐組と南西進出組の2組に分かれることが決定。麒麟討伐組は1週間後に麒麟を討伐して、全員がレベルを30以上にしてから霊亀を討伐し、商業都市アールへと進む。一方で南西進出組は、明日にも出発してイレンドゥ砂漠から、ムーヌと言うを通って、そのまま南のナール海岸・絶崖アイントゥというような順路で商業都市アールへと進む。よって、2組の合流場所は商業都市アールとなることに決定した───こんな感じだな」
皇斗が要約してくれたおかげで、本日の会議の内容がまとめられた。
「皇斗ありがとう。それじゃ、今日の会議はこれで終わりにしたいと思う。各部屋のメンバーに伝えることをよろしく頼む」
康太はそう口にすると、今日の会議は終了する。
そして、4人は康太の部屋から自分の部屋へと帰って、それをメンバー間に共有したのであった。