4月1日 その③
「えっと...君は...」
俺の目の前の席───出席番号3番の少年に話しかけられて、俺は困ってしまう。
「おっと、名乗っていなかったな。オレの名前は安倍健吾。健吾って呼んでくれ。よろしくな」
「えっと、俺の名前は池本栄。年齢は17歳だ。栄って、呼んでくださいな」
「じゃあ、同い年だな。って、浪人してる人はいるのか?」
「さぁ?」
目の前の美形の少年───健吾と名乗った彼は、目を細めて笑う。
「あ、栄だけ仲良くなってズルいぞ」
稜がすかさずやってきた。なんか、恋愛ゲームみたいにドンドン男の友達ができるのだが、俺も男だ。
1人位、女友達ができてもいいのが───。
なんて、思っていると教室に入ってくるのは一人の女性。名前はわからないが、彼女も同じ通り金髪の少女から説明を聞き、俺の左隣に座っている可愛くない女子の後ろに座った。
「なぁ、割と可愛くね?」
「名前、聞いてみる?」
稜と健吾の2人は、そんな会話をしている。
「まだ、入学式すらやってないんだよ?アプローチの気が早すぎるんじゃない?」
「いいだろ、別に。他の誰かに取られちまうよりかは先に取っちまったほうが」
そんな、肉食なことを稜は言っている。
「おはよーございまーす!」
───と、その時教室に入ってきたのはメガネをかけた少年。
「白板に貼ってある、名前のところに座ればいいわよ」
「お、教えてくれてありがとう」
その少年は金髪の少女の髪をポンポンと2回、軽く叩いた。
「───んな!何すんだよ、お前!」
「何って...感謝しただけだ。問題ある?いや、ない。ノープロブレム。モーマンタイ」
「だからって、頭を触る必要はないだろ?」
「そっちの方が、感謝の気持ちを伝えやすいでしょ?」
「───ッ!」
金髪の少女は、何も言い返せない。でも、メガネをかけた少年が行ったのは見ててもわかる。セクハラだ。
「えっと、俺の席は...5番か!」
そう言って、スキップで俺の後ろの席に座った。
「やぁやぁやぁ。前の男子諸君。よろしくな」
メガネをかけた少年は、そう挨拶をした。メガネの奥の瞳には、微塵も悪いことをしたという曇りはない。
「───よ、よろしく」
「って、君。可愛いね。名前、何て言うの?」
メガネの少年は、その左隣に座っていた、先程まで稜と健吾がアプローチしようとしていた少女に話しかけている。
「え、あ、私...ですか?」
困惑するのはメガネの少年の席の左隣の少女───便宜上、出席番号で呼ぶことにすると、11番の少女。
「そうだよ。逆に、この周りに可愛い子はいる?」
11番の少女の目の前───俺の左隣に座っている少女に失礼だ。
「え、えっと...斉藤紬、です」
「じゃあ、紬ちゃんだね!」
11番の少女は、斉藤紬と名乗った。
「な、こいつ!」
稜は、驚きの顔を見せる。俺だって驚いた。俺の後ろに座ったメガネをつけた少年は、斉藤紬さんの手を握っていたのだから。
「俺の名前は岩田時尚だよ!ときさだでも、トッキーでもすきに呼んでね!」
「え、あ」
斉藤紬さんは、手を握られて露骨に嫌そうな顔をしている。
「アイツ...紬さんの手を握りやがって...」
健吾の口から、嫉妬・恨みの声が聞こえてくる。
「時尚君...であってるかな?」
「何?」
「紬...さんが嫌がってるから、手を握るのはやめてあげなよ」
「え、あ、あぁ。わかった。ごめん、紬ちゃん」
時尚は、渋々斉藤紬さんの手を離す。
「それで...君達は?」
「俺は山田稜」
「俺は池本栄」
「オレは健吾だ」
各々が、省略された自己紹介を終える。
「稜に栄に健吾だね!よろしく!」
「あ、あぁ。よろしく」
正直、俺は時尚の行動に引いていた。初対面の女性の手を握ったり、頭をポンポンと叩いたりするような人と、仲良くできるのかわからなかった。
「なぁなぁ、皆は艦隊とか好きか?」
「いや別に」
「そこまで詳しくないかな」
「特には...」
「じゃあ、教えてあげるよ!まず、艦隊と言うのは───」
───そして、俺達は時尚の会話の餌食となった。
好きでもないし聞きたくもないことを、ペラペラベラベラと話していた。「やまと」など有名なのはわかったが「比叡」とか「金剛」とか言われてもわからなかった。延暦寺?力士像?
彼の長ったらしいお喋りが終焉を迎えるのは、教室にほぼ全員が揃ってきた頃だった。
まだ、教室に来ていないのは30番と31番の2人だ。
問題は、時尚のお喋りが終焉を迎えた理由だろう。
───ここから、俺達の人生は大きく狂う。
最初から開いていた教室の前方のドアから現れたのは小さな子どもが書いた落書きのキャラクターのような顔が描かれている被り物を被った人物だった。
「はーい、皆。来てるかなぁー?」
そのキャラクターは、教卓の前に立ちそう喋りだした。
「あれ、2人来てないなぁ?入学当日から遅刻なんて...いけない子だなぁ」
「アナタは、誰ですか?」
一人の男子生徒が問う。
「よくぞ、聞いてくれましたぁ!この私、一年間このクラスの担任を務めさせて頂くマスコット先生です!」
その、被り物をした人物は、マスコット先生と名乗った。
「先生、ふざけてますか?」
先程と同じ男子生徒がマスコット先生に問うた。
「いえ、全くふざけてません。私は、マスコット先生ですよ。何のマスコットですかって?」
不意に、マスコット先生の顔が暗くなったような気がした。そして、信じられない一言を放つ。
「今から始まる、デスゲームのですよ」
次話は、3月1日20時に投稿予定です。