はじめての魔獣討伐 その④
健吾が、人面キリンに丸吞みにされそうになったその時。
何の脈絡も無く、突如として上空から、落下するように飛来してきたのは斧を手に持った蒼であった。
蒼が、人面キリンの頭上に落下し、その人面キリンの首を斧で捉えて地面に垂直に叩きつけた。
逃げ場を無くした長い首は、そのまま斧によって肉を切られることを許してしまう。
「あれ?健吾きゅん、もしかしてこのキッショいのを狙ってたピョン?それだったら、ごめんピョーン!もう僕が先に狩っちゃったピョン」
蒼は、食べられそうになっていた健吾に対し、そんなことを口にする。
「やっぱ、剣でチクチク攻撃するより、斧でバッサリと切っちゃった方がいいピョンねぇ」
蒼はそう口にして、人面キリンの首を切った斧を持ち上げ───
「ぬヌ...ぬヌぬ?」
「───ッ!」
健吾と蒼は、人面キリンが首を切っても───否、違う。
「首が...切れていない!?」
「ぬヌぬヌー」
蒼は、重力に従って人面キリンの首の上に落下して、その斧を振り降ろしたはずだった。
だけど、人面キリンの首は、傷一つなく繋がっていた。
「───んな、マジかピョン!」
どうして首が切れていないのか、蒼は脳みそを回して思案する。
そして、すぐにホースを一方から押しつぶしても形が変わるだけ───それと同じようなことが起こっているのではないかと考えた。
ホースだって、ナイフを押し付けギコギコと動かせば、切ることができる。だけど、今回はただ上から押し付けただけだ。もし、切りたければハサミのように首の左右どちらもから力を込める必要があるだろう。
「───面倒な相手だピョン...」
「首が切れないって、随分と厄介な相手じゃねぇか!」
健吾は、即座に投げ捨てた純介を回収して、人面キリンから距離を取る。
「蒼、純介を安全な場所に置くまで任せた!」
「任せた?そんな勝手に決めないでほしいピョン。僕は逃げるんだピョーン!」
「───ッ!蒼!」
蒼は、自分一人の力じゃその首を切れないことを理解すると、即座に退散する。それは、失神した純介を背負っていない健吾よりも、早い。
そうなると必然、人面キリンは再度健吾に狙いを定める。
「クッソ!マジかよッ!」
勝てないと理解したら、すぐに敵前逃亡という選択肢を取るのはなんとも蒼らしいけれど、他の人の命を見捨ててまで逃げていくとは思わなかった。
「こんなところで死んでたまるかピョン!このゲームをクリアすればデスゲームが終わりになるのならともかく、そうでもないようじゃ僕は怪我の1つだってしたくないピョーン!」
蒼がそう口にする頃には、その姿はゴマ粒程の大きさにまでなっていた。クソ野郎ではあるが、健吾は一度でも命を助けてもらった蒼を責めることはできない。
「首も切れねぇようじゃ倒すこともできねぇ!一体どうすれば!」
なんとか逃げる健吾。美緒が、何本か人面キリンに矢を放ち、注意を向けようとしているけれども、妨害にも攻撃にもなっていないようだった。
「戦いてぇにも、動かないから絶対に食える確証のある純介を狙ってきやがる!」
戦う必要があるけれども、戦うことができない健吾。純介を別の人に預ければ、次はその人が狙われることとなるだろう。だから、できるのであれば健吾が倒すか、人面キリンを圧倒できる人に任せるかの2択。
「怪物め、止まれッ!」
智恵はそう口にして、その剣を人面キリンに向けて攻撃を行う。
「智恵!足を狙ってくれ!」
「───わかった!」
智恵は、健吾の指示で人面キリンの足に攻撃する。
「───〈三日月斬り〉!」
智恵が人面キリンの足に向けて放つ、斬撃。
三日月のような弧を描き、人面キリンの股関節と膝裏───膕と呼ばれる部分を攻撃する。
「───ぬヌ!」
どうやら、特異な性質を持つのはろくろ首のようにどこまでも伸び続ける首だけなようで、足にはしっかりと攻撃が入ったようだった。が───
"ジュワァ"
そんな、何かが溶けるような不快な音がして、人面キリンの足の傷口は戻っていく。
「なんで───」
智恵が、傷が治るのを見て驚くと同時、その足を止めて智恵の方へ顔を伸ばしてくるのは人面キリン。
「───ひ!」
智恵は、おかめの仮面をつけたまま顔を近付けてくる人面キリンに驚いて距離を取る。
「智恵!十分に距離は取れた、離れて十分だ!」
「───わかった!」
健吾の声が響き、どうやら逃げ切ったことを知る。美緒による援助の矢が飛んでくるけれども、人面キリンはそんなこと気にしていないようで、ただ智恵の方を見て智恵を追おうとしていた。が───
「〈星月夜〉」
それと同時、何もないところから矢がパッと現れて、人面キリンの顔面にヒットする。
「───ぬヌぬヌ...」
人面キリンは、そんな声をあげて、どこかへと走って逃げていった。
「───お嬢さん、大丈夫だったかい?」
智恵の後方から、そんな声をかけてくるのは、第5回デスゲーム参加者ではない、1人の人物。
「僕の名前はアレン・ノブレス・ヴィンセント。『閃光』という二つ名を聞いたことはないかい?」
そこに現れたのは、銀髪の青年。アレンは、ニコリと笑みを浮かべると智恵へと近付きこう口にする。
「助けてあげたんだしさ、僕と付き合ってよ」