はじめての魔獣討伐 その②
メラメラと燃え滾る大地。
それを見て、周囲の人物は驚きが隠せない。
使用者である純介の方を見るのは、第5回デスゲーム生徒会メンバーだけでなく、ゲームの世界を生きるNPCも同じであった。
「じゅんじゅん?じゅんじゅん大丈夫!?」
炎に囲まれる7人の中で、真っ先に純介に駆けつけてその名を呼ぶのは純介の恋人である紬であった。
───そう、純介は魔法〈紅焔神の涙〉を使用した後に、意識を失いその場に倒れたのであった。
「じゅんじゅんが、じゅんじゅんが死んじゃう!」
紬は、焦り戸惑う。なんとか、純介を助けようとその場に横にするが───
「───大丈夫です。純介君は魔力切れを起こして失神しているだけです。死にはしません」
「コン...」
倒れている純介の前に現れたのは、コンシェルジュのコン。
「───と、その前に魔力についての説明をしなければなりませんね。本作『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』には、体力と魔力という概念があります。皆さんは、従来とは違った方法でのプレイですので、体力という概念は、皆さん自身に依存しています。ですが、魔力という概念は従来と同様、適用されています。魔力は、魔法をどれだけ使えるかの値で、レベルがあがると共に、上限値も増えていきます。どの武器を使用しても、魔力の上限値はレベルが上がると共に増えていきますが、魔法を武器に戦っている場合、その上がり幅は大きくなっていきます───」
「そんなのいいから!じゅんじゅんはどうやったら助かるの!」
紬は、純介に膝枕をしながらコンに対して大きな声を出す。その投げかけられる疑問を受け、コンは一切表情を変えずに、こう答えた。
「魔力は、一定時間経過で回復します。他にも、魔力回復用の食べ物やポーションもあります」
紬は、コンのその言葉を聞いて少し安堵する。このまま、純介が寝たきりの状態ではないことを知ったからだ。
「今のじゅんじゅんだと、起きるのはどのくらいになりそう?」
「そうですね...純介君の魔力を考えるに、今日の夕方には起きることになるでしょう」
「夕方...ありがとう」
「これが私の仕事ですので」
そう口にすると、コンは姿を消した。
「純介は少しここで安静にさせた方が良さそうだな」
「えぇ、そうね」
「幸い、さっきの魔法で近付いてきそうな魔獣はいない」
「魔法、かなり高威力だったね」
「そうだね。まだ使うのは危険そうかなぁ...」
「これもコンに聞いてみたら?」
「あ、その手があったか」
梨央が、美緒の提案に納得すると梨央の目の前に現れるのはコンであった。
「お呼びですか?」
「ねぇ、コン。さっきの純介が放った魔法を教えて?」
「わかりました、〈紅焔神の涙〉の話ですね。〈紅焔神の涙〉は、Aランクに位置する火属性の魔法です。本作では、最初にDランクの魔法を全種類と、Cランクの基本五属性から1つずつ、そしてAランクの魔法が五属性の中からランダムで1つ使用可能な状態で始まります。純介君は、最初からAランクの魔法を使用してしまったために、一度に全ての魔力を使い、それに耐えかねて失神してしまったみたいです」
「へぇ...そうだったんだ」
「オレからも質問。基本五属性ってのは?」
「説明が抜けておりました、申し訳ございません。基本五属性というのは、火・水・風・雷・土の5属性のことです。他にも、光属性や闇属性など様々な属性がこのゲームにはあります」
「そうなのか、ありがとう」
「これが私の仕事ですので」
魔法には、大量に種類があるようだった。どれを使っていくかも、今後に重要な影響を与えることになるだろう。
「紬、純介は俺達が見ておこうか?」
「でも...」
「ほら、紬はまだ魔法を使ってないんだしさ。それに、純介の魔法の先生になったら純介も喜ばないと思わないか?」
「───うん。それもそうだね、つむも魔法使ってみる」
健吾に説得されて、紬も魔法を使ってみることになる。
「それじゃ、紬!ワタシと一緒に行こう!」
「うん!」
「稜、付いてってあげてくれ。純介はオレ達で見ておく」
「おう、わかった。んじゃ、頼んだ」
大盾を持つ稜も、魔法使いの梨央と紬の2人に付いていくようにして動いて行った。
「それにしても、強い魔法を一発使って早速失神───だなんて、純介も面白いな」
「ちょっと、笑い事じゃないでしょ」
「それもそうだけどよ。なんか、やることなすこと規格外───っていうか、オレ達の意識の外っていうか」
「まぁ、言いたいことはわかるわ」
健吾と美緒のカップルは、楽しそうにそんな話をする。それを遠目で見ているのは智恵。
2人のカップルを邪魔しないように、少し遠くからその会話を見ているのであった。
「───いいなぁ...私も、栄と一緒にゲームしたかったのに」
智恵はそんなことを呟いて、囚われの身である栄のことを想うのであった。その時───
「───ぬヌぬヌ?」
「───ひ」
智恵の視線に、左からゆっくりと入ってきたのは、おかめの仮面を付けた正体不明の人物───否、生物であった。
*「ぬヌぬヌ」と喋っておりますが、純介が扱ったようなモールス信号の応用ではございません。