はじめての魔獣討伐 その①
───オンヌ平原。
ドラコル王国の第一首都であるプージョンの西に広がる、広大な平原。
低レベルの魔獣が多数出現しており、薬草などが大量に生えているために、まだ低レベルの冒険者がレベルあげに勤しんでいる。
ここは、そんな冒険者にとっても魔獣にとっても易しい場所。
そんなオンヌ平原に───
「着いたぁ!」
東の草原からプージョンの街を突っ切って、西のオンヌ平原に到着した健吾達20人。
その草原には、チラホラと冒険者の姿を見ることができた。何かを採集しているもの、何らかの魔獣を追いかけている者。
「魔獣、いるのかな?」
「まぁ、いるんじゃないか?」
「今日は、進みつつ魔獣と戦闘するのでもいいかもしれないな」
「じゃあ、要するに自由行動ってことか?」
「あぁ。レベル上げはどっちみち必要だしな」
───と、康太の決定で自由行動となる。
「皇斗きゅん、強いからって自分ばかりレベルをあげちゃ駄目ピョンよ?」
「無論。余は自らの強さを弁えてる。倒す数には制限を設けようと思う」
皇斗はそんなことを口にしながら、徐ろに弓矢を取り出し、それを引いて───
「───こんな風にな」
そう口にして、矢を放つ。無駄のない一挙手一投足に蒼は見入ってしまうものの、数十メートル先にいる何らかの魔獣に突き刺さったことを見ると、目の前にいる皇斗の実力にドン引きしてしまう。
「すっげぇピョン...今のはなにかの技かピョン?」
「技ではないな。ただ真っすぐ飛ばしただけだ。距離としては遠的競技よりもあるし、的も小さかったがな」
「───そうかピョン...」
蒼は、皇斗の言うことの1/4はわからなかったけれども、それでも皇斗がすごいことは充分にわかった。
「それで、蒼は何の武器にしたんだ?」
「僕だピョン?僕はやっぱり、ラブリーでチャーミングでキュートだから、これだピョン」
そう口にして、蒼がどこからともなく取り出した───インベントリから取り出したのは、斧であった。
「重くて遅いし隙もデカいけど、攻撃力と破壊力はピカイチ!狙った獲物は殺すまで逃さねぇピョン」
「蒼はロマン武器好きだったか」
「もちろん!ロマン武器こそ至高!ロマン武器こそ武器の頂点!」
そう口にして、蒼は嬉しそうに斧を握って魔獣を探しに行った。
「───やれやれだ」
そんな蒼の姿を見て、皇斗はそう口にする。どうやら、第6ゲーム『件の爆弾』でのマスコッ鳥大先生との一戦を経て、蒼と皇斗は仲良くなっていたようだった。
その一方で、こちらは健吾達。
「そんじゃ、行ってみようぜ。とりあえず、目標は1人で1体倒してみる!」
健吾は、そうやって目標を決める。
「盾はどうするんだ?」
「盾は───そうだな。ガードに徹して!誰かを守ろう!」
そう意気込み、オンヌ平原を歩いていると出てきたのは、1匹の犬───いや、狼のような魔獣。
犬と狼のハーフのような感じで、中型犬の大きさであったが、狼のような鋭い目つきであった。そして、1番の犬のと違いは、二足歩行であるところだろうか。
「コボルト───かな?」
「───誰から行くのか?」
「それじゃ、私から」
そう口にして、真っ先に出るのは智恵。
「栄を助けるためには、私もレベルをあげないと」
智恵は、口にして強く剣を握る。
「大丈夫か?」
「大丈夫、あんまり運動神経は関係ないらしいし」
「───稜」
「わかってる、いつでもガードできるようにしとく」
ここは、智恵1人で相手にすることになるだろう。何かあった場合にも、智恵を守れるように大盾を持つ稜はガードできる準備をしていた。
「グルラァ!」
低い声で唸り、コボルトは智恵の方へ接近してくる。戦闘は、リアルタイム制。
「───てい!」
そんな心もとない声をあげながら剣を振るうものの、ゲームの仕様により狙いは正確。
ゲームという補正もかかり、慣れない智恵でも、剣を振るうことができた。
「アギキャッ!」
コボルトは、そんな声をあげる。どうやら、腹部をザックリと斬られたようで、動きが鈍くなる。
「もう一回!」
智恵はそう口にして、再度剣を振るう。そして、弱っているコボルトにトドメを刺したのだった。
智恵に経験値が与えられて、レベルが1から2にアップする。
「レベル上がった!」
智恵は、嬉しそうにそんなことを口にする。
「俺、構えている必要なかったな」
「まぁ、何かあった時に必要だしさ」
「───って、また来た!」
そこに現れたのは、数体のコボルト。どうやら、ここは低レベルの魔獣が次から次に現れるようだった。
だが、こちらは7人いるし対処できない数ではない。
「よっしゃ、じゃあ次はオレが行く!」
「私も弓、使ってみようかしら」
「それじゃ、残りの1体は僕が魔法を使わせてもらおうかな...」
三者三様。
それぞれの武器を持ち、目の前にいるコボルト3体と戦う準備をする。
「───それじゃ、オレが右に行く!」
「じゃあ、私は左!」
「それじゃ、僕は真ん中を!」
そう口にして、健吾は剣を振るい、美緒は弓矢を構え、純介は魔法杖を握る。そして───
「とりゃ!」
「くらえッ!」
「えっと...〈紅焔神の涙〉!」
その刹那、純介が発動したレベル1とは思えないような協力な炎の魔法が放たれる。
紅蓮の炎が柱を成し、目の前にいる3体のコボルトだけではなく、周囲にいる平原まで燃やし、純介のその周囲を囲うようにして、地面には黒焦げていたのであった。