西へ東へ
───翌日。
「それじゃあ、出発だ!」
康太がそう口にして、宿の前から歩き出す。
現在、康太達がいるのは最初の街プージョン。
ここから、東の都市を通って、『古龍の王』であるヤコウと、それに連れ拐われたプラム姫がいるパットゥまで向かうことになっていた。
「山が無ければ、直線距離で行くことが出来たのにな」
「そうだね。でもまぁ、仕方ない。折角だし、ゲームの世界を楽しんでいこうよ」
「そうだね」
地図を買ったものの、この世界が大体どのくらいの大きさなのかわかっていないので、パットゥに付くまでにどれくらいの旅路になるかはわかっていない。
皆は、2列になりながら街の中を闊歩して、東側の出口へと目指す。
「北には山に続く森林が広がっていたが、東はどうだろうか...」
皇斗は、歩きながらもそう口にする。そして、宿から20分ほど歩くと、プージョンの出口へと辿り着いた。
「それじゃ、行くか」
街の外には、草原と思わしき広々とした大地が広がっていた。見晴らしが良く、遠くには馬車が走っているのも見える。更に奥を見ると、薄っすらと別の都市も見えていた。
「うへぇ...次の都市まで遠そうだな」
健吾が、遠くを見ながらそう口にする。だけど、まだ序盤も序盤。こんなところでへこたれているべきではない。
そのまま、健吾達20人が歩いていると───
「すみませーん、現在通れなくなってまーす!」
そう口にして、警棒を振っているのは数人の人物。声を張り上げながら、警棒を振って通れないことをアピールしていた。
「何があったんだろう?」
「さぁ...」
「ちょっと、聴いてくるか」
そう口にすると、ゾロゾロと1人の警備員らしき人に声を掛ける。
「すいませーん、通れないって言いますが何かあったんですか?」
「いやー、龍種の内の1体である霊亀の影響で道が崩壊しちゃってね。通れなくなってるんだ」
「そうなんですか...」
「もし霊亀が倒されたらこの影響も無くなるんだろうけどね。これまでに龍種が殺されたことなんか無いからなぁ...」
「直るのにはどのくらいかかりそうですか?」
「うーん、半年はかかりそうかな。ここから東にある商業都市アールに行くためには、南東へと進んだところにある絶崖アイントゥから迂回することはできます」
「そうですか、ありがとうございます」
一同は、詰め寄り続けても邪魔になってしまうだろうと思い、その場を後にして草原の中で話し合う。
「通れないってよ」
「どうする?迂回をするか?」
「そうだな...霊亀を倒す───でもいいかもしれないな」
「え?マジで言ってる?」
「龍種なんだろう?8体全員を駆逐する───ってのは、少し時間がかかりすぎるだろうけど、半分の4体くらいなら倒してもいいんじゃないかな?」
「そういうものなのかな...」
───というわけで、康太の決定により8体いる龍種のうちの1体である霊亀を討伐しに動こうとした。のだが───
「ここは霊亀がいるから危険だ。レベル25を超えてから来な」
「───えぇ...」
「そこをなんとか!」
「ここは霊亀がいるから危険だ。レベル25を超えてから来な」
「───」
ゲームのNPCらしく同じことしか喋れない男性。
───ここは、霊亀がいるとされている霊鬼山の山麓。
1時間ほどかけて歩いてここに来たものの、どうやらレベルが足りなくて入れないようだった。
「ねぇ、どうするのさ?」
「真っすぐの道も行けずに、霊亀を倒すことも不可能。そうなると、残された選択肢は絶崖アイントゥを通るしか無いな」
「───待て。もう、これはストーリー通りに進めたほうが早いんじゃないか?」
誠の冷静な提案。先を急ぐ康太を止める発言であった。
「このまま進み続けても、どうせどこかで止められるのは目に見えてる。ならば、ゲーム自体のストーリーに合わせたほうが手っ取り早いんじゃないか?」
「───そうだな。先を急ぐつもりだったが、そっちのほうが早いかもしれない」
「───んで、そうするとしてどれが正攻法なのかわからなくないか?」
「そういうときこそコンの出番だな」
「お呼びでしょうか?」
誠に付いているコンが姿を現す。
「コン、ストーリーの順番に従うなら、どこに行くんだ?」
「ストーリー?その単語はよくわかりませんが、皆さんのレベルであればプージョンの街の西にあるオンヌ平原に行くことをオススメします。低レベルでも倒しやすい魔獣が多数いますので、戦闘の練習になりますし、レベル上げにもなります」
「レベル上げもできるなら、そっちに行ったほうが良さそうだな」
「康太、どうする?別に1人で先行しても構わないが」
「───いや、俺も皆に付いていくよ。確かに、レベルが低いままで行っても駄目そうだしね」
誠の意見に康太も納得して、結局ストーリーに沿って進めていくことにした。
時間はかかるが、そっちの方が的確で安全に進めるからである。
幸い、栄を救うのに時間制限はないし、これはVRゲームではなくデスゲームなのだ。
───そして、健吾達20人がプージョンを突っ切って、オンヌ平原に辿り着くのは、午後になった頃であった。