冒険の始まり その⑥
「───さて、全員が揃ったところで今日集まった情報を交換して行こう」
康太は、部屋にあったデスクの上に地図を広げてそう口にする。その地図は、中身を見るにどうやらドラコル王国のものであるようだった。
「俺と蒼、奏汰の3人は街を見て回ってこの地図を買った」
「僕が見つけたピョン」
「1枚3ベルグだったから、3人で1ベルグずつ出し合った」
ベルグ───というのは、この国の貨幣の単位であった。マスカット大臣から、全員が50ベルグずつ貰っており、ある程度の買い物はできるようになっている。
「あ、それならパットゥがどこにあるのかわかるかも!」
そう口にしたのは、美玲。そして、身を乗り出して「パットゥ」という街を地図から探す。
「パットゥ?」
「どこに『古龍の王』がいるのか聴いたの!そしたら、極寒の地パットゥにいるんだってさ!」
どうやら、美玲は『古龍の王』がどこにいるのかを調べていたようだった。
地図を見るに、今いるプージョンという街はドラコル王国の中心から、少し南側に逸れた場所にあるようだった。
このまま南に進めば海があるし、北に進めば巨大な山岳がある。西に進めば砂漠があって、東には別の都市が広がっていた。
「パットゥは...このまま北に進めば行けそう」
「でも、山にぶつかるわよ?登るの?」
「東には都市があるし、そっちに迂回していけばいいんじゃない?」
「急がば回れね。それがいい」
「どこにいるのかはわかった。他に何か情報は?」
「俺も龍種について聴いてきた」
「稜。教えてくれ」
「竜種は全部で8体いるらしい。それにヤコウを加えるから、まぁ9体だな」
「9体か...」
「でも、全部を全部倒さなければならない───というわけではないのだろう?それこそ、直通で行くのであれば戦わなくても問題ない」
勝手に、部屋のベッドに腰掛けてそう口にするのは愛香。
「いや、問題はある。栄がどこにいるのかわからない」
「───そうか、栄が『古龍の王』のところにいるかどうかは限らないのか」
誠の冷静な言葉に、康太も気付く。
「俺達の目的はプラム姫を救出してストーリーをクリアすることではない。栄を救出することだ。だから、栄の探索のためにも世界を隈なく見ていったほうがいいと俺は思う」
誠の慎重な考察に、全員はどう動くか考える。
「だが、マスコットだって妾達と強敵をぶつけたいはずだろう?それならば、ラスボスと思わしき『古龍の王』と戦わせようとしないか?」
「───それもそうだな」
「うん、一度プラム姫を救出してから考えてもいいかもしれない。そこまでの旅路で栄を探せばいいし、それにそこに栄がいなくとも無駄足にはならなさそうだし」
「───そうだな、すまない。俺の話は無かったことにしてくれ」
誠は、そう口にする。
「それで、他に何か情報を手に入れた人はいるか?」
「余が手に入れた」
「皇斗。教えてくれ」
「余は、先程までの時間で都市の外に───ここから北の山岳の方にある山へと進んだのだが、そこには魔物と思わしき獣がいた。角の生えたウサギだな。こちらに襲いかかってきたから弓で倒した。そしたら、経験値というものを手に入れた」
皇斗は、そう口にする。どうやら皇斗は、弓を武器に選択していたようだった。
だけどまぁ、皇斗は肉弾戦も強いから、近距離武器はほとんど必要なかったのだろう。
「弓、普通に使えたのか?」
「余は弓道の範士8段だ。弓の扱いにも慣れている」
「───すまん、どのくらいすごいのかわからない」
「弓道は10段まである。が、10段はこの世に存在せず、範士9段は1人しかいない」
「え、すごいじゃない」
「というか、弓道に限らず剣道でも柔道でも8段はすごいことだよ」
「だから、皆の言う普通───がわからない。申し訳ないな」
皇斗の凄さがアピールされ、話は経験値の方へと戻っていく。
「───それで、経験値ってのはゲームでよくあるタイプでいいのかな?」
「あぁ、そうだろう。コンに聴いてもいいんじゃないか?」
そう言って、皇斗がコンに説明を求める。すると───
「わかりました。それでは、僭越ながら私が経験値について説明させていただきましょう」
そんなことを口にしながら、皆の前に姿を現したのは、皇斗についているコンであった。
「経験値───の説明をする前に、まずはレベルという概念について話しておきましょう。皆さんには、レベルがあります。戦闘をしていない状態では、皆さんレベル1です。ですが、先程の皇斗のように戦闘をすると、経験値というものが手に入り、その経験値が一定数貯まるとレベルが上がります。皇斗は今、レベル3です。レベルが上がるにつれて、使える技の数も増えていきます。武器を変えても、レベルを共通です。それで、レベルのマックスは99です」
「ありがとう」
「どういたしまして。何かわからないことがあれば、呼んでください」
そう口にすると、コンは姿を消す。
「───と、どうやら戦闘したらレベルがあがるシステムらしい」
「そうだね。それで、他に情報を手に入れた人はいる?」
そう口にして、康太は皆の反応を見る。そして、無いことに気付いて話をまとめることにした。
「それじゃ、何も無いのであれば明日からこの街を出て戦闘に慣れつつプラム姫の救出のため、パットゥという街に進んでいこうと思う。このまま北に進んでも大きな山があるから、ここは東に迂回して都市へと進んでいく。それでいいか?」
その言葉に、部屋にいる全員が納得する。
そして、その日は解散となったのであった。