冒険の始まり その④
───始まりの街 プージョン。
ドラコル王国の王城があり、第一首都として機能している王国随一の大都市。
100万を超える人工を抱えるプージョンには活気に満ちており、今日も多くの冒険者達が、まだ見ぬお宝を求めて旅に出ていた。
そんな人に溢れたドラコル王国の中を探索しに足を運ぶのは、地球から来た異世界人───もとい、ゲームであるとPCなどと呼ばれる第5回デスゲーム参加者。
「───それで、俺達は街で聞き込みをすればいいのか?」
そう虚空に問いかけるのは健吾。周囲には恋人である美緒や稜・純介に紬、智恵と梨央がいるけれども、誰もその問いかけに答えない。
健吾は無視をされている───というわけでも、これは健吾の独り言だ───というわけでもない。
これは無視されているわけでも、独り言だというわけでもない。
───要するに、周囲にいる6人以外に、虚空には何かいるのだ。
「はい、そうです」
そう返事をして、姿を顕現させるのは羊の姿をしたマスコットのような存在。ファンタジーに表現するのであれば、妖精───が正しいだろうか。
「本来のゲームであれば、そのまま旅を始めるのですが、これはデスゲームの第8ゲームとして利用されているもの。ゲーム版とは仕様が違います。よって、NPCへの話し合いが必要です」
その羊の姿をした妖精は、健吾の前をフワフワと浮きながらそんなことを答える。
誰も、この羊の姿には驚いていなかった。
───だって、見慣れていたのだ。
4月1日に学校に来てから、ずっとスマホの画面にいるのがこの「コン」と呼ばれるコンシェルジュの「コン」であった。AIが使われているのか、話せば返事をするし、歌も歌える。結構、上手い。
そんなコンが、ゲームの世界には登場したのだ。それが、守護聖獣と表現すればいいのか、守護霊と表現すればいいのか、幽波紋と表現したらいいのかはわからないが、こうしてゲームのいろはや設定を教えてくれるのだ。
「私は戦闘どころか、荷物持ちにすらなれません。ゲームのヘルプのような存在ですので、よろしくお願いします」
そんなことを口にして、自由行動を始めた7人の前に1人1匹ずつ───と言った形で、唐突に姿を現したときこそビックリしたが、それでも数秒後にはスマホで見慣れた「コン」であると知って、もう既に打ち解けていた。
「誰に話しかければいい───とかはあるんだ?」
「どなたに何を聞いてもらっても構いません。知っているかどうかは別として───ですけれどね」
コンは、淡々とそう口にする。
「───と、そうだな。適当な人にでも話しかけてみるか」
「そうだね」
「あ、じゃあ俺が行こうか?」
「稜、頼んだ!」
稜はそう口にすると、適当に歩いている人に声を掛ける。
「すいませーん」
「は、はい。どうかしましたか?」
「プラム姫のこと───知ってますか?」
「もちろん。可愛そうだよね、『古龍の王』に誘拐されたみたいで」
「知ってるなら、詳しく聴かせてほしいです!」
「プラム姫は国王陛下の娘で、この国唯一の姫様だ。だけど、1年くらい前に『古龍の王』に誘拐されたみたいで...何度か挙兵しているみたいだけど、全部駄目だったみたいでね。今は、冒険者に『プラム姫の救出』という依頼を出して大金を掲げているらしいよ。ま、僕は戦えそうにないから行かないけどね」
「ありがとうございます!それで、その...『古龍の王』について教えてもらっても?」
「いいけど...君達何にも知らないね。田舎から来た冒険者なのかい?」
「まぁ...そんな感じですね」
「幼馴染7人で、こうしてここまで」
稜は、自分達が「転移者」であることを隠すことを選んだ。きっと、話がこじれることを避けたかったのだろう。咄嗟に、美緒もそれに反応して的確なフォローを入れた。
「そっか。死なないように頑張ってね。それで、『古龍の王』の話だったね。僕も詳しくは知らないんだけど『古龍の王』は、龍種の頂点に立つ最強の人物だ。どんな顔かは知らない。だけど、ヤコウだとも呼ばれているらしい」
「ヤコウ...」
国王陛下も呼んでいた、その名前を稜は反芻するように呟く。
「それで、龍種は全部で8体いるらしいよ。───僕が話せるのは、このくらいかな。ごめんね、情報が少なくて」
「いえいえ、ありがとうございます!こっちは何も知らない田舎者でしたから」
「役に立てたのなら何よりだよ。もう話はこれで終わりかな?」
「はい」
「それじゃあね」
そう口にすると、話を教えてくれたお兄さんはどこかに歩いていいった。
「龍種は全部で8体───か」
「ゲームならきっと、全部倒すんだろうな」
「随分とメタ的な推理だけど...そうなると思うわ」
「8体か...全員で協力すると1体当たり何人だ?」
「21人いるから、だいたい1体当たり2.6人ね」
「うわ、マジか...名前から聞いて強そうだが、1人2体は最低でも戦う必要がありそうだな...」
そんなことを話しながら、情報収集を続ける稜や健吾達7名。
ファンタジー世界のような作り込まれた町並みを見て回り、色々とゲーム内の世界についての情報を手に入れたところで夕方が来たので、待ち合わせ場所である王城前へと戻っていったのであった。
読んでて「第8ゲーム、長くなりそうだな...」って思った?
奇遇だな、俺も書いてて思った。