7月2日
池本栄の誘拐。
それは、第5回デスゲーム参加者に対して、大きな影響を与えた。
「栄が...誘拐!?どういう事!」
「そのまんまの意味だ、茉裕と第2回生徒会メンバーである鼬ヶ丘百鬼夜行が現れて、栄を連れ去っていった!」
教室に残り、栄の拉致の一部始終を見ていた者が、その話をクラス中に伝播させたため、翌日の朝のHRまでには、もうすっかり話が広まっていた。
「栄を、栄を取り戻しに行かないとッ!」
栄の恋人である智恵は、栄が誘拐されたことを聞いて焦燥感に駆られる。目は泳いでおり、どこを見ても焦りが取れた。
「智恵、落ち着け」
「でも!」
「第8ゲーム!栄は、第8ゲームで取り返すチャンスがある!だから、その時だ!」
健吾は、その言葉でなんとか智恵を落ち着かせる。ゲームの内容は知らない。
これまでのデスゲームは、栄の活躍があって乗り越えていくことができた。だけど今回は、栄が敵に連れ拐われていたのだ。
「第8ゲーム...そこで、そこで栄は助かるの?助けられるの?」
「あぁ、茉裕はそう言ってた。これは、茉裕からの宣戦布告だ!こんな手段に出たってことは、もう最後の方法なはずだ!ここで茉裕に勝てば、栄を取り返せるし、茉裕を倒せる!」
「無論、そんな簡単そうな話じゃないけどね...」
智恵と健吾の話に顔を突っ込んでくるのは純介。その隣では、稜と紬・梨央や美緒も静かに聞いていた。
「純介...」
「だけど、茉裕がこうして率先的に動いていて、鼬ヶ丘百鬼夜行を手足のように動かしていることを考えると、茉裕の最後の切り札───である可能性も十分にある」
これまで、茉裕は安土鈴華や綿野沙紀・山本慶太などを心酔させて操り人形のごとく動かしていた。
きっと、鼬ヶ丘百鬼夜行も同じように操られているのだろう。
だけど、こうして積極的に茉裕が接触してくることは前とは違う状況だった。
もちろん、何度か接敵を試みていた。だけど、こうして戦闘に立ち宣戦布告をするのは前例を見ないこと。
要するに、もう茉裕の手札は鼬ヶ丘百鬼夜行しか残っていない───そう考えることができた。
第5回デスゲーム参加者ではなく、過去の生徒会メンバーである鼬ヶ丘百鬼夜行を動かしていることからも、余裕がないことは理解できるだろう。
「ここで茉裕を潰せば、勝利できる。逆にここで茉裕を逃してしまえば、またその傘下を増やしてしまうことになるね...」
純介は、栄が連れ拐われて尚、否、連れ拐われたからこそ、こうして冷静に意見を述べている。
「わ、私達は何をすればいいの?」
「そうだな...第8ゲームを待つ。これが一番だと思う」
「そんな...」
栄の誘拐に対して、今すぐに動けないことに心を痛める智恵。
第8ゲームが始まるまで時間があるだろうから、彼女は動いた!
「お願いします、栄を助けるのに!茉裕を倒すのに協力してください!」
智恵は、協力者を募集する。
共に栄を助ける仲間を、共に茉裕を倒す仲間を募集する。その言葉に、賛同を示すのは───
「協力する...アタシも茉裕を絶対に倒したいッ!」
第6ゲーム『件の爆弾』で、茉裕───正確には、茉裕に操られていた鈴華に恋人である拓人を殺された秋元梨花が、主に茉裕の討伐にて参加を口にする。
「栄きゅんが、捕まっちゃったピョン?しょうがないなぁ、僕も協力してあげるピョン」
生粋の自由人、宇佐見蒼が、何かを企んでいそうな、いつもの笑顔で興味本位だけで参加を表明する。
「ワタシも協力するッ!茉裕には、負けたくないからッ!」
負けず嫌いの竹原美玲が、これまで何度も皆の敵としてたちはだかってきた茉裕を倒すために参戦を豪語。
「私も...栄を助けるのには協力するよ...」
仲間のためなら最強の拳を振れる東堂真胡が、栄を助けるために協力することを少し自信なさげに伝える。
「俺は茉裕を許せない。生徒会を許したくない!だから協力する!奏汰もそうだろ?」
「もちろん」
康太と奏汰が、
「俺も協力しよう」
誠が、
「アタシも、栄の師匠として?まぁ、手伝ってあげるわよ。捕まってる時に筋トレをサボっていたらサボってた分だけ追加でやらせるんだから!」
歌穂が、
「栄を助ける?くだらんな。───だが、敵には鼬ヶ丘百鬼夜行がいるのか。妾の獲物だ」
愛香が、
「余も手伝おう。鼬ヶ丘百鬼夜行は余が討伐してやる」
皇斗が、協力を口にする。皆、その胸に宿している思いは違えど、茉裕を倒す・栄を助けるという志は一緒だった。
そんなこんなで、クラスのほぼ全員が協力を口にして、迎える金曜日。7月2日。
緊迫した空気の中で、マスコット大先生は教室の中に入ってきて、こう宣言をする。
「始めましょう、待望の第8ゲーム!ついに完成、森グループが送る3年ぶりの完全新作『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』が、たった今、開始されます!」
第8ゲーム『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』が、公開されることが宣言される。
誰も知らない、知る由もないそのゲームのシリーズに、その場にいるほぼ全員が頭にハテナを浮かべながらも、マスコット大先生はルールを公開した。そのルールとは───
第8ゲーム 『RPG 〜剣と魔法と古龍の世界〜』のルール
1.誘拐された池本栄を救出したら全員がゲームクリア。
2.ゲームの世界で死亡したら、現実世界でも死亡する。
「ルールが...これだけ?」
池本栄を助ける───最終目標だけを出されたと同時、その場にいる全員の視界が白く包まれる。そして───
「お主らが、異世界から転移して来た勇者様達か...」
荘厳な王宮の中、細かい装飾がなされた玉座に腰を掛ける初老の男性が、そう口にした。
第8ゲーム、スタート!