6月25日 その⑦
「───勝者の池本栄君を、3年Α組のクラス会長に認めます!」
マスコット大先生のその宣言に、俺は思わず驚いてしまう。
「───んな...」
それと同時、クラス中から響き渡る拍手。万雷の拍手に、俺は呆気にとられてしまい開いた口が塞がらなくなる。
「───よかったですね、池本栄君。君はクラス会長として認められたようですよ?」
どうやら、第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』は、クラス会長を決める選挙でもあったようだ。
立候補者が強制的に決められるし、『ジグジググジュグジュ擬似選挙』というタイトルなのに「疑似選挙」じゃ無いじゃないか、などと色々と不平や不満はあるだろうけれど、こうして皆が歓迎してくれているのであれば、誰も文句は言わない。
「───と、それだけでなくまだまだ第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』を乗り越えた池本栄君には賞品がありますよ」
「賞品?」
「えぇ、物ではなく権利───となるのですが、受け取りますか?」
「はい」
俺はそう返事をする。
「えっと、まずは池本栄君に5万コインを贈呈します」
それにより、俺のコインの保持数は10万コインとなる。
第5ゲーム『キャッチ・ザ・リスク』を死者無くクリアするために全てのコインを使ったが、第6ゲーム『件の爆弾』の際にも5万コイン支給されていたらしく、俺の持ち金は5万コインになっていた。
そして、今回ので10万コインというわけだ。
このコインは、売店で特殊アイテムを変えるようになるらしいのだけれど、それを買ったことはないし、買っているところもほとんど見たことがなかった。
まぁ、買っているのがバレてはいけないような特殊能力を持つアイテムばかりだし、バレないように買うのも当然だろう。
「───それで、権利っていうのは?」
「池本栄君───要するに、自分以外の誰かの禁止行為を知る権利を贈呈します」
「───ッ!来たッ!」
俺は、過去にその権利を使用して智恵の禁止行為を知るなどしている。
智恵の禁止行為は、「絶望したら死亡」であったし、他の人もそんな感じなのだろうか。
「さぁ、池本栄君。誰の禁止行為にしますか?」
俺は、思案する。
ここは、生徒会メンバーである茉裕の禁止行為を───いや、違う。
生徒会メンバーは、校則の第10条にも記載されてあるように、禁止行為がなくなるのだ。
であるから、茉裕のを聴いたところで無駄に終わってしまうのだ。
そうなれば、ここは親しい友達の誰かを聞くのが最適解だろう。
だとすると、選ぶ人間は1人だった。
「───稜でお願いします」
「わかりました。山田稜君の禁止行為ですね?」
俺は、親友である稜の禁止行為を聞くことにした。智恵の禁止行為はわかっているが、稜のはわかっていない。
だから、俺は稜を選択した。健吾や純介の禁止行為は、また別の機会にでも知ればいい。
マスコット大先生は、俺の耳の方へと近付いてくる。そして、俺にしか聴こえない声でこう口にした。
「山田稜君の禁止行為は『異性に愛の告白をしたら死亡』です」
「───」
俺は、心の中で思考を逡巡させる。
まさか、稜の禁止行為がそんなものだったなんて。
だけど、この禁止行為が稜のもので安心した。
稜以外───俺や健吾や純介であれば、もう死亡していた。
稜は、この禁止行為がある以上梨央に告白することは出来ないのだけれど───まぁ、仕方ない。
それこそ、さっき手に入れた5万コインと、持ち合わせの5万コインをなんとか使用して、売店で「禁止行為書換紙」を買ってもいいだろう。
幸い、10万コインあれば買うことができるのだ。
「わかりました、ありがとうございます」
「尚、この情報は山田稜君本人に話してもらっても構いません。勿論、嘘をついてもらっても構いませんけどね」
マスコット大先生はそう口にすると、被り物の口角を上げる。嫌な先生だ。俺が嘘を付かないことなどもう百も承知なはずなのに。
「───と、それではこれにて第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』を終了したいと思います!皆さん、お疲れ様でした!」
マスコット大先生はそう挨拶すると、教室からでていく。
もう既に、裕翔の死体は死体処理班によって、跡形もなく片付けていた。
裕翔が遺したものは、俺の瞼の傷と、智恵の頬に出来た赤い後だけであった。
───と、俺がほんの少しだけ裕翔のことを考えていると。
「なぁ、どうだったんだ?俺の禁止行為」
稜は、そうやって興味津々に聞いてくる。だけど、当たり前だろう。それを破ったら自分も死ぬのだ。
この学校では、禁止行為で死んだ人こそ少ないが、禁止行為で死んだ人も存在している。
具体例をあげるなら、小寺真由美や橋本遥だ。
「『異性に愛の告白をしたら死亡』だってさ。マスコット大先生は、こう言う時は嘘つかないし信じてもいいと思う」
俺は、稜にそう説明する。
「異性に愛の告白───出来ないのかよ...」
稜は、少し驚いてどこか悔やんでいた。きっと、梨央に告白できないことを悔やんでいるのだろう。
「───そっか、教えてくれてありがとう」
「告白する予定でもあったのか?」
「───ッ!いや?そんなわけではないけどな?一応、知っておいたほうがいいだろ?な?な?」
「早口」
どうやら、図星だったようだ。チームCとチームFで残ってしまっているのは、稜と梨央だけだと言うのに、どうして隠す必要があるのだろうか。
そんなことを思いつつ、俺は第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』をクリアしたのであった。