6月25日 その⑥
第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』のルール
1.本ゲームは2人が立候補者となり、残る参加者は有権者となる。
2.有権者には1日の中で午前10時と午後13時の計6回に投票する権利が与えられる。
3.立候補者は投票することができないけれど、教室にて1日1回10分間の演説タイムが与えられる。演説タイムの際は、生存している有権者は全員集合しなければならない。
4.片方の立候補者が演説をしている場合は、もう片方の立候補者はそれを聴くことができない。
5.有権者は、指定の時刻から1時間の間に投票箱に正しいフルネームを紙に書いて1枚のみ投票することが可能。
6.投票は任意だけれど、初日の1回目と最終日の2回目の2回は必ず有効票で投票しなければならない。
7.投票数が多かった立候補者の方は生き残り、投票数が少ない立候補者は死亡する。
8.立候補者は有権者及び立候補者に暴力を振るうことができるが、有権者は立候補者及び有権者に暴力を振るうことはできない。
9.有権者は、投票の義務を守らなかったり、1度の投票で2枚以上投票したら死亡する。
「───私は、栄に投票する!」
智恵の声高らかな宣戦布告。裕翔の目の前に、俺の名前を書いた紙を突きつけ、勇ましくそう口にする智恵。
「───ッ!」
その言葉と同時、それに対して苛立った裕翔が智恵に対して暴力を振ろうとしたので、俺が智恵を庇おうと、智恵を抱きしめるような形になった。が───
「はい、ストップ。演説の時間ですので、渡邊裕翔君は廊下に出ていってください。死にたくなければ」
「───クソがよっ」
裕翔の拳を止めたのは、マスコット大先生であった。
俺と裕翔の間に入り、俺達を守ってくれたのだ。
「マスコット大先生...」
「感謝される筋合いも、罵られる要因もございません。私はただ、平等で円滑に第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』を進めるために止めたまでです」
マスコット大先生は、俺を一瞥もせずに、そう口にして裕翔の出ていく方へ移動していく。
裕翔が出ていった教室の扉が閉められて、外には俺の声が聴こえないようになる。
俺の演説の開始である。
───と、その時。
「遅れてごめんねー」
そう言って、教室の中に入ってくる茉裕。第5回デスゲーム生徒会メンバーである彼女が、俺の演説を聴きに来たのだ。
「記念すべき最後くらい、最期くらい、私にも聞かせてよ?命乞い───ってやつ?」
茉裕の登場により教室はざわつくけれども、茉裕も含めて誰も危害を加えられない状況なのでそれ以上の騒ぎにならないように俺は、話を早々に始める。
「さて、裕翔は5枚分の投票用紙を用意してない───けれど、問題はないだろう?」
「あぁ、そうだな」
そう口にすると、全員がポケットの中からザッと投票用紙を取り出す。
「うわー、すごい団結力」
茉裕は、そう口にてニコニコと笑っていた。
「そういう茉裕も持ってるんだよ?生き残るためによ」
「ん、正解」
そう口にして、茉裕もポケットから投票用紙を取り出す。
───そう、俺は先に用意させていたのだ。
裕翔が、投票用紙をビリビリにする前───具体的な時刻で言えば、丁度一日前の今日の時間に、全員に投票用紙を1枚持たせていたのだ。
予測はできていた。裕翔が、投票用紙を破ったり、投票箱をどこかに持っていく可能性というのは、全て考えていた。
だから、何もかも対策をしていた。今、教卓の上に置いてある投票箱は、俺が用意した偽物である。
本物は、俺のロッカーの中に入っている。だから、裕翔が投票箱を持っていったり壊したりしても、問題はない。
「───と、一回は裕翔の策に乗っかるとしよう。投票用紙を欲しがるような形で、裕翔に群がれ。その間に、俺は自分のロッカーから投票箱を取り出すから、そこに投票してくれ。マスコット大先生の報告を信じるとすれば、裕翔とは4票差だ。だから、9票さえ入れば、絶対に裕翔は俺を超えられなくなる。だから、9票入るまでは待ってくれ。いいな?」
俺は、そうやって全員に指示をする。
裕翔が、俺の作戦に勘付くことはないだろう。裕翔は、自分の策に溺れているのだ。
それに、俺が裕翔の作戦に勘付いている───と、勘付けるほど、今の裕翔には余裕がない。
それに、勘付いていたとしても、それを越えるような作戦を用意できることはできない。ロッカーを開けられた痕跡はないから、問題ない。
───そして、演説の時間を終えて、教室に裕翔が入ってくる。
作戦開始だ。
「さァ、投票の時間だ。まずは智恵、その投票用紙を渡せよ」
「いや」
そう口にすると、智恵は俺の名前が書かれた投票用紙を、それ即ち裕翔から渡された投票用紙を、偽物の投票箱に入れる。
智恵の本当の投票用紙は、前日のうちに用意してあるから問題ない。それに、俺も予備で3枚程持っている。
「───ッ!」
裕翔は、智恵が投票したのを見て怒りを見せる。そりゃ、そうだ。
智恵が投票すれば、1の差ができて、絶対に裕翔が逆転できることは無くなる。
「智恵、オレは死んでもお前をぶち殺すッ!」
裕翔はそう宣言して、裕翔は教卓の上にある投票箱を叩き潰した後に、智恵を殴ろうとする───が。
「僕にその投票用紙をくれピョン!多分きっとメイビー裕翔きゅんの名前を書くピョン!」
蒼を始めとする人物が、裕翔の方へ移動する。恥も外聞もない命乞いに聞こえる、演技を全員がしている。
それは、裕翔の気を逸らすと同時に、智恵へ暴力を振るわせないという効果があった。
俺は、その姿を見て自分のロッカーの方へ移動して、本物の投票箱を取り出す。そして───
「入れてくれ!」
「んなッ!投票箱は潰したはずなのに───ッ!」
その言葉と同時、俺の方へ集ってくるのは稜・健吾・純介・智恵・紬・美緒・梨央・愛香・皇斗の9人が俺の名を書いた投票用紙を入れる。
───他の全員が、裕翔の名を書いても、絶対に俺は死なない状況がこれにより作られた。
そして、投票は終わり───
「結果発表!池本栄君、64票!対する渡邊裕翔君は43票!よって勝者、池本栄君です!」
マスコット大先生による即時開票により、俺の勝利は確定したのだった。
「ん、な...」
裕翔は、誰一人として道連れにできず、誰にも迷惑をかけることができずに死ぬことになる。
「───嫌、だ。死にたく...死にたくないッ!」
裕翔は、そう口にする。命乞いだ。
「いいえ、渡邊裕翔君。アナタは死ぬのです。第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』のルールに則り、それは確定しています」
マスコット大先生は、冷酷にもそう口にする。だけど、誰も同情することはなかった。
「お願いだ、最後に...最後にもう1回だけチャンスを!」
「ありません。アナタは死ぬんですよ、渡邊裕翔君。痛くないですから」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ───」
「見たくない人は目をつぶっていてください」
「ごめんなさい!どうか、どうか命だけは!」
「ないです!」
「そこをどうか!お願いします!」
「さようなら、渡邊裕翔君」
───。
刹那、裕翔の首が宙を舞う。
誰かが死ぬところを見たくないのか、伏せている人も数人いたけれど、多くは裕翔が死ぬところをその目に焼き付けていた。愛香は、興味無さげに外を眺めてた。
「───ほら、言った通り痛くなかったでしょう?」
マスコット大先生は、首だけになった裕翔を拾い上げて、そう口にする。そして、裕翔の首を投票箱の上に置いた。そして───
「───立候補者、渡邊裕翔の死亡により第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』を終了とします!そして、勝者の池本栄君を3年Α組のクラス会長に認めます!」
マスコット大先生は、そうやって全員の前にそう宣言したのだった。
裕翔に劇的な最期は許さない。
呆気なく死になさい。