6月25日 その④
47対43。
マスコット大先生により、俺と裕翔の票数が4票差しか無いことを告げられ、午前の投票は終了した。
次の───最後の投票は、今日の13時に行われる。
今回の投票で、裕翔に大量に票が入る───という状態を避けることはできた。
どうやら、話を聞かずにいつも通り俺に入れてくれた愛香と皇斗の2人のおかげで、程よくわざと名前に誤字をして無効票にする───という作戦が隠されていたみたいだ。
と、その作戦があってか、愛香と皇斗の2票があってか、俺は裕翔に4票の差を付けて勝っているのである。
有権者に暴力を振るうと脅し人から票をかき集めた裕翔に、4票も勝っているというのはすごいことではないだろうか。
2回目の投票なんか、裕翔は21票中19票も取られているのだ。それでいて、こうして勝っている。
「それじゃ、智恵。図書室に戻って勉強を再開しよう」
「私はいいけど...栄は大丈夫なの?最後の投票...」
「あぁ、大丈夫だ。智恵も、大丈夫なんだろ?」
「まぁ、昨日言われた通りにしたけれど...」
智恵は、まだ不安そうだった。だけど、智恵の不安もわかる。
このままの投票で行けば、裕翔は自分が死ぬことなどすぐに理解できるだろう。
そしたら、裕翔はどんな行動を取るだろうか。
想像するのはそこまで難しくない。裕翔は、なんとかして俺よりも多く票を手に入れる術を用意してくるはずだ。
「その対策があるからある程度は大丈夫。頭の中で裕翔がどう動くか、5個くらいは想定できてる」
問題は、裕翔が俺のその5個の動きと、同じ動きをしてくれるかどうかだった。5個───と言っても、初動がガラリと違うものを5個を頭の中に作っているので、初動さえ俺の頭の中で合ってくれれば、そこからはどう動いても対策できるので、5個と言う数字以上に対応できる量は多いはずだ。
「───栄が大丈夫そうなら、私も大丈夫だよ。栄が死ぬのは嫌だから」
「わかってる、死なないために作戦を考えたんだから」
「───そっか、それもそうだね」
智恵は納得してくれた。俺は、智恵を1人にしたくなかった───というのも、裕翔に誘拐される可能性があったからだ。
裕翔の動きをずっと見続けていろ───と思うかもしれないが、裕翔が俺に昨日のように勝負を挑んでくる可能性があったので、それはしないのだ。
昨日は、智恵の憤怒と嫉妬があったため勝利できたが、昨日撫子に「使うな」と言われたし、目を怪我しており、あまり激しい動きをすると瞼が切れ落ちる可能性もあるらしいので、ケンカはできないのだった。
───そして、俺は智恵を守ることも兼ねて、一緒に図書室で勉強した。
***
こちらは、栄ではない方の立候補者───現在、4票差で栄に負けている裕翔と、第5回デスゲーム生徒会メンバーの紅一点である茉裕であった。
生徒会室にいた茉裕に押しかけるようにして、裕翔はやってくる。
「おい、お前。さっきはなんで邪魔したんだよ!」
「だから、さっき説明したじゃん。私は裕翔の演説を妨害したくて妨害したんじゃなくて、栄を殺そうとしたけど失敗して、結果的に妨害しちゃったの」
茉裕は、自らの失態を認めてそう説明する。実際、茉裕は裕翔の演説を失敗させるつもりなど微塵も無かった。
実際、これまで5回の投票は全て裕翔に投票していた。
「ふざけやがって!オレの最後の演説だったんだぞ!」
「いいじゃない、どうせ投票しないと殴る───って脅してるだけだったでしょ?あ、そうだ。昨日栄に負けたらしいじゃん。ぷぷぷ」
「───ッ!お前、どいつもこいつもオレのことをバカにしやがって!」
裕翔は、愛香に「馬鹿たれ裕翔」と言われたことを未だに引きずっているようだった。
裕翔は、茉裕を殴ろうとその胸ぐらを掴む。茉裕の人を心酔させる体質は知られていないし、そもそも裕翔は苛立っているので、効果は無さそうだった。
「───しょうがないわ、手を組みましょう?」
「あ?お前、偉そうに。自分がどんな立場かわかってんのかよ」
「裕翔の方こそ分かってるの?今、裕翔がこのまま行けば十中八九負ける。だから、猫の手も借りたいんじゃないの?溺れる者は藁をも掴むのだから、私の助けを掴みなさい。まぁ、現在私の胸倉を掴んでいるわけだけど」
「でも、お前は生徒会だッ!手なんか借りれっかよ!」
裕翔も生徒会メンバーも、栄のことを邪魔者だと思っている節があるものの、ここもお互い敵同士だ。
敵の敵は味方───などではない。この理論は、通用しない。
「へぇ、そういう事言うんだ。私達生徒会はここまでずっと裕翔に投票してるのに」
「───ッ!」
「生徒会メンバーは4人。私達が協力すれば、栄との票差はトントンになる。この場合どうなるかはわからないけれど、投票してない人は全員死ぬし、生徒会メンバーである私達と裕翔がいれば簡単に栄を殺せる。協力するつもりはない?」
「───」
裕翔は、茉裕の胸倉を掴んでいた手を離す。
そして、裕翔は椅子に座る。
「───仕方ねぇ、協力だ。お前らは敵なことに変わりないが、天敵の栄にだけは負けたくねぇ。信用はしない。お前らが一方的に協力しろ。それで文句はないだろう?」
───こうして、裕翔と生徒会メンバーによる歪な共同戦線が結ばれたのだった。
勝つのは善意か、はたまた悪意か───。