4月5日 その⑤
第2ゲーム『スクールダウト』予選のルール
1.学校中に散らばった生徒個人の情報が書いてある長方形の紙を探す。
2.その紙に書いてある情報と同じ人に紙を貼れば、貼った人は貼られた人から2ポイントを奪取することができる。
3.その紙に書いてある情報と違う人に紙を貼れば、貼った人は貼られた人へ4ポイント譲渡しなければならない。
4.ゲーム開始時の保有ポイントは一律10ポイントとする。
5.保有するポイントが0になったら、その時点で敗退が決定。
6.ゲーム参加者が6人になった。もしくは、4月8日23時59分59秒が過ぎたらゲーム終了。ゲームの期限が過ぎた時、保有ポイントが多かった人から本戦に勝ち上がる。
7.個人の情報が書いてある紙は、誰にも当てはまらない場合もある。また、生徒1人につき20枚ずつ個人の情報が書かれている紙は用意されている。
8.屁理屈は理屈に入らない。
***
細田歌穂が『スクールダウト』予選の最初の脱落者になった。
1人に10ポイント全てを奪われたという、最初で最後の驚きの出来事。
細田歌穂は、失神した池本栄の命をいつでも奪うことができた。だが、彼女はそんな事をしなかった。
それどころか、彼女は池本栄のことを保健室にまで運んだのだった。
と言うことは、一度体育館を去った後一向に体育館の中から出てこない栄のことを心配してもう一度体育館の中を覗いた歌穂の少し可愛い部分があるというのは、しないでおこうと思う。
彼女は、ただ猟奇殺人犯なのではない。彼女が聞きたいのは人間の悲鳴であったのだ。彼女の趣味は、虐殺動画を見ること。
本来のネット上であれば、虐殺の動画など規制の対象だ。だが、ダークウェブならば違う。
彼女は、ダークウェブを利用して虐殺動画を閲覧していたのだ。
彼女が閲覧した動画は多岐にわたり、外国の紛争地域で捕虜になった兵士が拷問されている動画や、差別されているどこかの原住民が殺害される動画。女子供を弄んだ後に、無惨に殺しその後もまた尊厳を破壊するような動画。
多種多様な動画を閲覧していた。歌穂にとって、グロとは養分だった。
───歌穂にとって、閲覧できないジャンルの動画が一つだけあったのだがそれはまた別の話だ。
と、池本栄を保健室に運び込んだ歌穂は脱落して尚、誰かを探すように歩き始めた。
***
細田歌穂の脱落を皮切りに、他の参加者も脱落をしていった。
脱落したのが早い順番に並べると、睦月奈緒・田口真紀・西森純介・竹原美玲・安倍健吾の5人だった。
細田歌穂を含めて6人が脱落している。
現在、ダントツのトップは26ポイントの森宮皇斗であった。
彼は、ミスをすること無くパーフェクトでここまで点を手に入れている。彼の観察眼から、身長や体重などの情報だけで全てを暴かれてしまうのだ。
それに続くのは、18ポイントの津田信夫だった。彼は、その楽観的な性格でポイントを失いつつも18ポイントまで上り詰めた。
3位で16ポイントなのは、東堂真胡であった。彼もポイントを一進一退させつつ3位にまで浮上した。
栄も含まれる4位の14ポイントは大量にいた。池本栄を筆頭に、斉藤紬・西村誠・橋本遥・村田智恵・結城奏汰・渡邊裕翔・綿野沙紀の8人であった。
栄のように、4ポイントまで落ちた人はいない。下がっても、6ポイントまでだった。
そして、4月5日は放課後を迎える。そのまま時間は進み17時になった。
***
───覚醒。
俺は、目を覚ました。
「あ、栄。起きたのね」
俺が目を覚ましたのは、見知らぬ天井───などと失神から目覚めた際のお決まりの文句も言い終える前に声をかけてくれたのは美緒だった。
「美緒?俺は...」
「よかった、目を覚ましたのね!私、心配してたんだから!」
美緒はそう言うと、俺の手を握る。
「ここは?」
「ここは、学校の保健室よ。歌穂さんに、保健室に栄がいるから看病してやってくれって言われたの」
「そう...なのか...」
俺の記憶によると、失神前までは一方的に殴られていたような気がするのだが、あれは悪夢だったのだろうか。
そう思いながら、俺は起き上がる。殴られた、腹から鈍い痛みがしたので歌穂から殴られたのは夢ではないと確信した。
「美緒...ありがとう」
「当たり前じゃない、友達でしょう?」
「そうだ、美緒は今何ポイントなんだ?」
「私は...残り2ポイントよ...」
「え、そうなの?」
「えぇ、私に情報を読み取り人を当てる力は無かったみたいだわ」
美緒は、そう言うと目を細めて笑う。
「なんだか...申し訳無いな...」
俺は、そう呟く。すると、美緒の頭の上には疑問符が浮かび上がる。
「どうして?」
「だって、俺を看病してたから居場所がバレたんだろ?」
「それは───」
俺は、美緒の背中に4枚の長方形の紙が貼ってあることに気がついていた。彼女は、その身を呈してまで俺を看病してくれていたのだ。
「ありがとうな、美緒にポイントを付与してあげたいけど...」
「そんなことできるの?」
俺は静かに首を振る。だから、ただの「言葉」にしかならない。実行されない慈善は、全て偽善なのだ。
口先だけ言っていて、行動しないような人物になるしかなかった。
「お、いたピョン!」
そう言って、部屋の中に入ってくるのは宇佐見蒼だった。そう言うと、彼は美緒の背中に長方形の紙を貼る。
美緒の顔の前に「2→0」と表示された。
「あら、脱落みたいね...」
美緒は、どこか悲しそうに微笑む。
「バイバイだピョン!」
そう言うと、宇佐見蒼はどこかに行ってしまった。
「美緒...」
「大丈夫、栄は悪くないわ。それに、この第2ゲームじゃ死なないのでしょう?ならば、大丈夫よ。心配しないで。お金は欲しかったけど、しょうがないわよね。私は、お金より友達のほうが大事なんだもの」
美緒はそう言って、俺の手を握った。
「栄は私の分まで頑張って───なんて言ったら、気を張りすぎちゃうかしら?」
そう言ってクスクスと笑った。
「俺、美緒の分まで頑張るよ!3万コイン手に入れたら───いや、本戦でも優勝して5万コイン手に入れる‼そしたら、半分の2万5千コインは譲渡するよ!」
「いやいや、そんな事をしてくれなくても...ただ、頑張ってほしいだけで...」
美緒はそんな事を言っている。だけど、助けてもらったお礼はしなければならない。
───俺は、心に決めた。本戦でも優勝する、と。
ルールの8があるから、第1ゲームのようなことにはしません。
第2ゲームは「誰も死なないデスゲーム」ですから。
なお、ゲームタイトルは『スクールダウト』である模様。





