6月24日 その⑰
【訂正】
誤:5.有権者は、しての時刻から1時間の間に投票箱に正しいフルネームを紙に書いて1枚のみ投票することが可能。
正:5.有権者は、指定の時刻から1時間の間に投票箱に正しいフルネームを紙に書いて1枚のみ投票することが可能。
変換ミスをしておりました、申し訳ございませんでした。
第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』のルール
1.本ゲームは2人が立候補者となり、残る参加者は有権者となる。
2.有権者には1日の中で午前10時と午後13時の計6回に投票する権利が与えられる。
3.立候補者は投票することができないけれど、教室にて1日1回10分間の演説タイムが与えられる。演説タイムの際は、生存している有権者は全員集合しなければならない。
4.片方の立候補者が演説をしている場合は、もう片方の立候補者はそれを聴くことができない。
5.有権者は、指定の時刻から1時間の間に投票箱に正しいフルネームを紙に書いて1枚のみ投票することが可能。
6.投票は任意だけれど、初日の1回目と最終日の2回目の2回は必ず有効票で投票しなければならない。
7.投票数が多かった立候補者の方は生き残り、投票数が少ない立候補者は死亡する。
8.立候補者は有権者及び立候補者に暴力を振るうことができるが、有権者は立候補者及び有権者に暴力を振るうことはできない。
9.有権者は、投票の義務を守らなかったり、1度の投票で2枚以上投票したら死亡する。
時間は経って、早くも12時50分。
裕翔との殴り合いから、3時間も経たないうちに演説の時間はやってくる。
部屋に集められたのは、背中を刺されて保健室で休んでいる稜以外の有権者。稜も、俺の演説はオンラインで見ているようだから作戦の伝達に関しては問題ない。生徒会メンバーである茉裕の姿も見えないが、どうせオンラインで見ているのだろう。
「裕翔とケンカをした。この目の傷も、裕翔のケンカで付いた傷だ」
演説の第一声。俺は、裕翔とのケンカの一幕を語る。
「目が見えない状況ではあったが、稜や純介の手伝いもあって、なんとか勝利することができた。稜が今ここにいないのはそういう理由だ」
俺は、名前を出した純介の方を見る。純介と紬の距離感が、どこか近くなっていたことを感じられたから、きっと告白が成功したのだろう。
俺は気付いているけれども、こういった場で大々的に晒し上げたりはしない。
純介もそれを望まないだろう。
「裕翔とケンカになった理由。これが大事だな。裕翔は、智恵と紬の2人を誘拐した。連れ攫って、危害を加えようとした。それで、ケンカになったんだ」
裕翔の支持者は最初からいないが、こうしてケンカの話をしておく。
少しでも、同情させないことによって、最終的に「死んだ」時の罪悪感を無くしておく。
相手を下げる───というのは、裕翔のやり方だ。
俺は、できる限りそれをしたくない。まぁ、裕翔の信頼や信用はもう既に地の底なので、そんなことしなくていいのだけれど。
「───と、ケンカはなんとか勝てたから問題ない。瞼の傷も、しばらくすれば治るようだし、幸い目に傷はついてない」
俺は、喧嘩の話を終わらせる。残りの時間で、俺は裕翔に勝つ作戦を話すことにした。
「このまま行っても、俺はきっと裕翔には勝てない。理由としては、裕翔が皆に暴力を振るってくるからだ」
今日、俺は裕翔に勝ったけれども、それでも懲りずに裕翔は暴力を振るうだろう。
しかも、今度は裕翔以外で唯一の立候補者である俺のいないところで。
そうなると、誰も仕返しができない。ずっと、俺が裕翔を張っておくのもありかもしれない。
裕翔は、俺に負けた以上俺に対して迂闊に手は出せないだろう。昨日の今日で、俺に再戦を申し込む可能性も低い。
「とりあえず、今日の投票は裕翔がここに戻って来るよりも前に終わらせて欲しい。投票は...俺に入れて欲しいのが本音だけど、それを強制するとやっていることは裕翔と変わらなくなってしまう。入れたい方に入れてくれ」
こうは言っているものの、ほとんどの人は俺に入れるだろう。裕翔に入れるのは生徒会メンバーである茉裕くらいだと予想することができる。
「それと、だ。明日の午前の投票はきっと、裕翔が復活して教室に戻って来る。そこでだ。またきっと裕翔は俺に入れないとぶん殴る───と脅してくるだろう。この投票で、大多数が俺に入れたことなんか言われなくても理解するだろうから、明日の暴力は更に苛烈になることが予想される」
裕翔は、できるだけ誰かを傷つけようとするだろう。だから、できるだけ殴られる危険を抑えることにした。
「だから、明日の朝の投票は裕翔の名前を間違えて投票して欲しい」
「間違えて?」
俺の言葉に、奏汰から疑問が飛んでくる。
「あぁ、第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』のルールの5と6を見てくれ」
5.有権者は、指定の時刻から1時間の間に投票箱に正しいフルネームを紙に書いて1枚のみ投票することが可能。
6.投票は任意だけれど、初日の1回目と最終日の2回目の2回は必ず有効票で投票しなければならない。
「このルールから考えるに、明日の2回目の投票は強制だけど、明日の1回目の投票は任意ってことになる。有効票があるってことは無効票もあるってことだ。じゃあ、無効票って何って考えると正しく無いフルネームを書いて投票することなんだ」
そう、俺はこのルールを「仇名を禁止する」ものだと思ってばかりいたが、それだけではない。
「渡邊裕翔」の名前がどこか違っていても、正しいフルネームでは無くなるので、無効票になるのだ。
「だから、皆は渡邊裕翔の邊の字を書き違えて欲しいんだ。どこを変えても問題ない。実在する別の邊にすれば、誤字として取り上げてもらえるはずだ!裕翔は、チラッとしか確認しないからそんな小さな誤字は気付かないはずだ。もしバレて殴られることになったら、俺が責任を持って殴られる。だから協力してくれ」
俺は、そう口にする。これが、俺の作戦の1つ目。
まだ、裕翔に勝つための作戦はある。
「もう1つ、明日の2回目の投票のためのお願いなんだけど───」
***
俺は、2つ目の作戦を皆に話し終えて、2日目2回目の投票の時間に入る。
裕翔は、教室に現れなかったので、そのまま投票が行われた。
大体、皆「栄に入れた」と言ってくれたし、2つの作戦の両方に協力してくれるようだった。
まぁ、2つ目の作戦は参加した方がお得ではあるし当然だと言えるだろう。
「───さて、問題は明日だ。明日、どうなるかだ...」
俺は、稜と茉裕を含めた全員が投票し終えた後でそう口にする。裕翔がどんな暴挙に出るかわからない以上、こちらも作を張り巡らせるしかない。
俺が生き残るためには、どんな油断もしない。勝負は明日、絶対に成功させる。