4月5日 その④
「───マズい、最初から張り切りすぎた...」
俺は、現在4ポイントになってしまっている。もう一度、紙に書いてある情報とは間違った人に貼ってしまったらそく負けが決定してしまう。
「ていうか、完全な勘だけならば自分以外の29人だから1/29ってことになるじゃん...」
このゲームに置いて、情報が全てを制す。言ってしまえば、戦争と同じだ。
敵の情報をどれだけ知っているかによって、こちらの優劣が変わってくる。教えずに、知る。それが、このゲームで勝つ方法だった。
「とりあえず、2ポイントずつ稼いで10ポイントに戻さないと!」
一度も間違えられない俺は、窮地に陥ってしまった。ここから、やり直す術はあるのだろうか。
「───このまま家に潜伏し続ければ、確実に4日目までは生き残れるだろう...」
───あ。
「このゲーム、クソゲー過ぎるだろ!」
俺は、そうやって声を荒らげた。この方法を取れば、「確実」とまでは行かなくてもゲームに残留できる可能性は高くなるのだ。
ゲームバランスの崩壊が起こってしまう、一種の穴。
「とりあえず、すぐにでも行動に移さないと!」
俺は、音楽室の隣りにある技術室に移動した。そこには、杉田雷人がいた。
「やぁ、ボンジュール。栄君。君も紙を探しに来たのかい?」
「あぁ、そうさ...どこかにあったか?」
「そこに一枚。でも、その紙は確実に誰のでもないと宣言できる」
「はぁ?」
俺は、技術室の机に置いてあった紙を見る。
年齢:18 誕生日:7月25日 身長:168cm
体重:50.7kg 血液型:O型 出身地:山梨
「どこが偽物って───18歳のところか?」
「あぁ、その通りさ。誕生日が7月なのに18歳だなんて、留年してるような人はここにはいなさそうだけど」
「そうか...なら、偽物と断定してもいいのかな?」
「あぁ、そういうことになるね。栄君が持っていってもいいよ」
「使う場所はない...と思うけどとりあえず貰っておくよ!」
俺はそう言って、技術室を出る。そして、B棟の3階にまで移動し図書室の中に入った。
「やはり、中には誰もいないか!」
図書室の3階を隅々まで探すと、3枚の紙が置いてあった。
1枚目
年齢:17 誕生日:12月28日 身長:168cm
体重:56.2kg 血液型:A型 出身地:神奈川
2枚目
年齢:17 誕生日:8月20日 身長:166cm
体重:50.6kg 血液型:B型 出身地:佐賀
3枚目
年齢:17 誕生日:3月23日 身長:158cm
体重:46.9kg 血液型:A型 出身地:福岡
「えっと...2枚目のこれは佐倉美沙さんのかな?」
俺は、初日の自己紹介でそう言っていたのを思い出した。佐賀は一人だったはずだ。
「とりあえず、佐倉美沙さんから2ポイントを奪取しよう!」
俺は、そう言うと佐倉美沙さんを探して放浪の旅に出た。
B棟の階段を降りると、グラウンドには数人の人影が見えた。何か拾っている動作をしているところからグラウンドにも落ちているのだろうか。そんなことを思いながら体育館に向かう。
「あ...」
体育館で出会ったのは、細田歌穂だった。
「あら、いいところにいたじゃない。池本栄君!」
「げ───」
「アタシ、栄君に会いたかったのよ!」
飛んでくるのは、細田歌穂の拳。俺は、咄嗟にその拳を避けた。
「ちょ、細田歌穂さん!悪かったから!」
「あら、そんな改まって呼ばなくてもいいのよ!歌穂って読んでちょうだいよ!歌穂って!」
続いて、飛んでくるのは回し蹴り。俺は、それを仰け反って避ける。
「危なっ!」
「アタシに宣戦布告したんでしょう?その喧嘩、買ってあげるわ!もしあなたが勝ったらアタシがここあちゃんを殺した犯人ってことにすればいいんじゃない!もしもの話だけれどね!」
回し蹴りの直後に放たれる、歌穂の手刀。それは、俺の腹にめり込んだ。
「───かは」
俺の口から、空気と共に少量の胃液が漏れる。喉がヒリヒリと痛い。
───いや、今は手刀がめり込んだ腹の方が痛いだろう。
「もう1発!」
「───ッ!」
もう一度、歌穂の回し蹴りが俺に向かってやってくる。
「避け───」
「───させないわ!」
”ガッ”
俺の左手の裾が、歌穂に掴まれた。
”ゴンッ”
金属とぶつかったような音が、俺の右半身から鳴る。歌穂の回し蹴りが、俺の体に直撃した。
「───ッ!」
「残念ね、栄君!アタシはあなたを殺しても自首するから!」
俺は、その場に倒れ込む。歌穂は、俺に馬乗りになった。歌穂は、軽かった。彼女の痩せた体は、馬乗りになって殴られてる今でも、無理に振り解けば退かせる位には軽かった。
「さぁ、栄君?どうかしら?これから君はアタシにくらされ───殴り殺されるのよ?ほら、悲鳴を上げなさいよ!」
「───」
気付いた。この状況、どうやって抜け出すのか。いくら、振り払っても彼女は追いかけてくるだろう。
「ほら、抵抗しなさいよ!ほら!」
「俺は君を殺すことはできない...」
俺は声を上げる。歌穂は、俺の声を聞くと口角を上げる。彼女の笑みは、とても綺麗だった。
「なら、アタシに殺されること───」
「でも、君に殺されることもできない!」
「残念、それは無理───」
直後、俺の目の前に現れたのは「4→6」の文字。
「なっ!」
「いやぁ、よかった!俺が持っていたのがたまたま歌穂ので!」
俺は、馬乗りにされたままそう口に出す。
「なんで!なんで、あなた残り4ポイントなのに勝負に出れたの?!」
「君は殴り殺されることを『くらされる』と言いかけた!くらすは、博多弁で殴る...だろう?」
「───ッ!」
「たまたま、手元にあったのが福岡だったから...助かったよ!」
「よくも!」
歌穂が、先程よりも激しく俺に殴る。逃げ出すには、後もう一つ工程が必要だ。
「よくも、よくも、よくも、よくも!」
歌穂の拳の雨が、何度も何度も俺の胸に降り注ぐ。そして───
「6→14」
俺の目の前には、そう表示された。
「───ッ!なっ、ど!どういうことよ!」
歌穂の前には「8→0」と表示されていた。
「ありがとう...歌穂!」
彼女は、立ち上がる。俺は、14ポイント手に入れて見事復活した。
「───やったぜ!」
俺は無事に解放された。いや、殴られているから無事ではないだろうか。
「何を───何をしたの?!」
「俺の持っていた紙を、お前に貼ってもらうように仕向けたんだよ!」
「───え?」
「歌穂が殴ろうとしたところに、紙を置いていた。そこで、お前が殴って紙を押し込んで俺に貼ったってことだよ!」
俺は、トリックを説明した。
「───ふふ、完敗ね。しょうがない...」
歌穂は、こちらを見て妖艶に笑う。
「今日のところは許しておいてあげる。でも、次のゲームは容赦しないから気をつけてね!」
そう言って、歌穂は体育館を出ていった。
「勝った...」
安堵と共に、俺の意識は剥がれ落ち───。





