6月24日 その⑪
内容に不満があったので再投稿しました。
投稿してすぎに読んでくださった方は申し訳ありませんが、もう一度読んでくださると嬉しいです。
俺は、裕翔によってナイフで目を傷つけられて現在見えない状況にあるが、智恵の持つ七つの大罪の憤怒と共振、共鳴することによって俺は怒りをぶつけるべき対象のみを認識できることができていた。
言わば、憤怒の瞳───とでも呼べばいいだろうか。
目の先にあるのが真っ暗闇の漆黒であることには変わらないが、視覚以外の五感と、怒りのパワーで裕翔の場所を特定することができていた。
だから、俺は強気に裕翔に挑むことができた。
「よくも、智恵達を傷つけやがって!」
俺は、裕翔に対して拳を振るう。狙うのは、右頬。理由は簡単だった。
さっき、裕翔は俺の右頬を殴った。だから、その仕返しだ。
「───うぐッ!」
俺は、目こそ使えないながらも裕翔に拳をクリーンヒットさせることに成功する。
憤怒の力で、俺の拳も威力が上がっている。拳に感情を乗せているのだ、強くなって当然だろう。
「クソッ!ズルい、ズルい、ズルい!オレも欲しい!お前が持っていて、オレに足りないものを全部、全部欲しいッ!」
裕翔は、さっきからずっと俺のことを羨むようなことをずっと口にしていた。
これまでは、そんなこと一度も口にしなかったのに、智恵の憤怒が暴走し俺にまで伝播した途端に、すぐにそんなことを言いだしたのだ。
「オレに寄越せ、お前の全てを!」
裕翔はそう口にすると、俺の両肩を掴むようにして襲いかかってくる。きっと、俺に馬乗りになって殴ろうと言う算段だろう。だけど、今の俺にはそんなの通用しない。
「ざっけんな!クソ野郎ッ!」
俺は、憤怒のパワーにより強化された膝蹴りを、裕翔の腹部に食らわせる。すると、裕翔は後方に吹き飛ばす。
「クソがクソがクソがクソがァァ!」
裕翔は、すぐに立ち上がり俺に向かって拳を振るおうとしてくる。だけど、今の俺であれば裕翔の拳だって避けれる───
「───ッ!」
体が重い。ものすごく、体が重い。俺と智恵の憤怒が共鳴して暴走しているはずなのに、体がすごく重くなっている。これじゃ、逃げれない。
そう思っていると、俺の左頬にはトラックがぶつかってきたような衝撃が走る。俺は、そのまま拳の進行方向に吹き飛ばされて、ゴロゴロと転がる。
「何が...」
俺は、何が起こっていたのかわからなかった。どうして急に体が重くなったのか、俺にはわからない。
まだ、心の底から裕翔への怒りはフツフツと湧き出続けていて、今すぐにでも発狂したいくらいだから、智恵との憤怒の繋がりが無くなったわけじゃない。じゃあ、何が───
「栄!なんでか、私の嫉妬と裕翔の嫉妬が繋がっちゃってるみたい!栄に今、憤怒があるように、裕翔には今嫉妬がある!」
「───ッ!おいおい、そういうことかよ...」
智恵が、俺にそうやって説明してくれる。
嫉妬のオーラを感じたことのない俺は、裕翔を視認しない限りは何か変化があることに気付けなかったのだろうけれど、目が見える智恵や純介は俺とは違うようだった。
そして、純介は七つの大罪のオーラを見たことがないから判別できないものの、智恵だけは別だった。
だからこそ、智恵はこうして判別して俺に教えてくれたのだ。
裕翔には今、嫉妬が付いている。
今は、憤怒と嫉妬がぶつかり合っている状態だった。
ということは、智恵も誰かに嫉妬しているようだった。智恵の嫉妬を解消させる何かが必要だろう。
「───智恵、もう少し我慢しててくれ!裕翔を倒したらハグをしよう!」
「え、あ、ハ、ハグ?!」
「智恵ちゃん達、やっぱりバカップル...」
「オレと戦ってるのにイチャつきやがってよ!随分と余裕そうじゃないか、その余裕が恨めしい!」
そう口にして、裕翔は襲いかかってくる。どうしてかわからない───きっと、嫉妬の権能で俺の体は重く───いや、鈍くなっている。
きっと、今拳を放ってもほとんど威力は出ないだろう。でも、この鈍い足じゃ逃げることもほとんど期待はできないだろう。
では、どうしたらいいのだろうか。俺は思案する。どうにか、ガードで攻撃を抑えるしかない。
俺の腹部に裕翔の拳が飛んでくる。俺は両手で受け止めることでなんとかガードを試みるけれども、それでも手がジンジンと痛む。
俺は、遅くなった足で数歩後ろに下がりどうにか対応を考える。このままガードをし続けても、ほとんど意味はなくなってしまう。
裕翔の攻撃力は変わっていないのに、俺のパワーだけが無くなっている。
「どうして、どうしてだ...」
考えろ。考えろ。
智恵が教えてくれたことにヒントがあるはずだ。
そうなると、裕翔と智恵の暴走している「嫉妬」に何かがあるはずだ。
裕翔が強くなっているのか───いや、違う。
自分の体に明確な違和感を覚えたのだから、変わっているのは俺だ。確実に俺が変化しているのだ。
では、どうして「嫉妬」が暴走している裕翔ではなく俺に働いているのか。
───あ。
もしかしたら、少しわかったかもしれない。だがそうであれば、少し確認したいことがある。
もし俺の仮説通りに行くとするのであれば随分と意地汚い内容だ。
「裕翔、お前は最低だよ。本当に」
俺は、そうやって裕翔に対して吐き捨てる。その言葉を聞き、裕翔は怒り心頭に発して殴りかかってくるのであった。だが、それでいい。
その拳で、俺の仮説の証明ができる。
さぁ見せてくれ。暴走する嫉妬の片鱗を。