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6月24日 その⑨

 

「なんで...なんでそんなに信じられるんだよ...」

 裕翔は、純介のことを信じ続けている栄に対してそんな言葉を投げかける。

 それは、嫌味でも皮肉でもなく、心の底から出てきた裕翔の純粋で素朴な疑問であった。


 普通の人間であれば、目を傷つけられ開かなくなった状態で───もっと一般化すると、目隠しを付けた状態で、人と殴り合いをすることなどできない。殴り合いどころか、走ることすらできないだろう。

 目が見えないならば、歩くことだってままならないような状態だろう。


 栄は、そんな状態に置かれているというのに、純介の指示1つだけで、裕翔と殴り合いを行っているのだ。

 しかも、裕翔は拳を栄の右頬にぶつけて、栄に激痛を食らわせる。

 それだと言うのに、栄は裕翔との殴り合いを続行したのだ。変わらずに純介を信じ続けて。

 普通の人であれば、拳が一度でもぶつかれば、「ぶん殴られるかもしれない」という不安を抱き、指示を出してくれた人を信じられなくなるはずだった。

 だけど、栄は純介を信じて続けている。おかしい、これは並大抵の人にできることじゃない。


 裕翔は、栄に対して恐怖に近い感情を抱いていた。

 あまりにも人間離れしすぎているのだ。仲間を信じるという点において、異常なまでに突出しているのだ。

 友達に対してバカ正直というか、バカなのだ。親バカならぬ友達バカなのだ。


「なんで信じられるか───だって?そんなの簡単だ。純介は友達だからだ」

「───ッ!」


 裕翔は、栄の抱く異常性を「友達」という2文字にまとめられてしまい苛立ちを見せる。

 少なくとも裕翔は、自分の友達を栄のように信用できないし、友達だって自分をこんな状況になっても尚信用したりはしないだろう。

 それに、今の裕翔にとって、稜と純介にここまで栄を潰すのを失敗している裕翔にとって、仲の良い友達だと思っている康太や奏汰などが、自分のところに駆けつけてくれないことに苛立っている裕翔にとって、「友達」という言葉は苛ませるもの以外の何物でもなかった。


「うっぜぇ...うっぜぇなあ!何が友達だよ、クソ野郎ッ!」

 これは、僻み。


 誰一人として自分のところに友達が駆けつけてくれない裕翔の僻み。

 これまで怒りがあっても尚、冷静に動いていた裕翔の、短絡的で衝動的な純粋な苛立ちだけを、嫉妬だけを煮詰めた感情に身を任せた最初で最後の行動。

 そして、膠着したと思われる場を動かすトリガーとなった行動。


「───ッ!僕の方に!」

 純介が、栄に伝達する───という任務ではなく、裕翔がこっちに来たことを直感的に口にする。


「───おい、裕翔!お前の相手は俺だ!」

 栄はそう口にして、純介の方───正確には、裕翔の方へ向かっていく。


 だけど、先に話した通りに盲目な状態では、走ることすらもままならない。

 栄は、走って純介の方へ向かおうとするものの、数歩進んだところでズサリと大きな音を立てて、転んでしまう。


「───ッ!」

「は!残念だったな、指示役を潰せば、お前は怖くないッ!」

 もう既に純介のところまで辿り着き、その胸ぐらを掴んでいる裕翔。


 栄は、痛みに藻掻くこともなくすぐに立ち上がって純介の方へ進もうとするものの、その足取りは先程と比べても重く遅くなっていることは、見て取れたのだった。

 裕翔は、一気に弱々しくなった栄を見て、純介という新しい人質を手に入れた状態に笑みを浮かべ───


「栄、頑張れぇぇ!」

「「───ッ!」」

 体育館の入口。そこに立ち、大きな声で栄を激励するのは、先程この体育館を出ていった人物───栄の恋人である村田智恵であった。

 どうやら智恵は、稜を保健室に連れて行った後で、すぐに体育館の方へ戻ってきたようだった。


「───智恵」

 栄が、そんな声を呟く。純介と裕翔の2人の2人の視線が、智恵の方へ向いてしまう。


 だが、裕翔に傷つけられて視覚を奪われている栄は、智恵の方を向くことなく耳で智恵の声を感じ取っていた。

 智恵の応援を受けた栄は、再度力を取り戻して、裕翔と純介の方へ走り出す。


「───ッ!見えてないのに、気持ち悪い!」

「───うがっ!」

 裕翔は純介の方を殴った後に、純介を人質にすることを諦めて、その場に投げ捨てるようにして手放す。

 純介は「うぅ...」などとうめき声をあげていたけれども、裕翔にはそんなこと関係ない。

 栄は、純介が殴られたことを声で理解して、裕翔に対して怒りを募らせる。


「じゅんじゅん、大丈夫?!」

 裕翔が、純介に背を向けて栄と距離を取ること画策しながら歩いていたその時、純介のところへ駆けつけてくるのは、先程裕翔が智恵と一緒に人質として捕らえていた斉藤紬であった。


 栄だけでなく、純介にまで友達が駆けつけてくることを見て、更に嫉妬をその胸に宿す。

 一方、智恵も自分の恋人である栄に今すぐにでも近付いて抱きしめてあげたいというのに、それが叶っていないため、紬と純介のカップル───否、両片想いの2人に嫉妬を抱く。そして、裕翔に対して栄と純介に怪我をさせて、自分達を人質にしたという怒りを抱く。すると───


「───ッ!んだ、これはッ!」

 その刹那、裕翔と智恵の嫉妬という感情が、七つの大罪の1つである嫉妬という悪徳が、また栄と智恵の憤怒という感情が、七つの大罪の1つである憤怒という悪徳が、共鳴する。そして───


『七つの大罪 第弐冠 嫉妬者』


『七つの大罪 第参冠 憤怒者』

次回、憤怒vs嫉妬───!!

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
友達バカ。 度が過ぎてる気もしますが、 主人公はこれくらいで良いかと! そして次回、憤怒vs嫉妬───!! これは見逃せない!
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