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6月24日 その④

 

 俺は、体育館へと全力疾走で向かいながら純介からの伝言を反芻する。

「体育館で待つから1人で来い」


 裕翔が、智恵と紬の2人を誘拐したようだった。

 きっと、図書室かどこかに智恵・紬・純介の3人でいるところに裕翔が乱入してきたのだろう。

 智恵と紬は仲が良いし、紬と純介は傍から見ても両片想いであることが滲み出ているから、この3人が一緒にいたとしても何一つとしておかしいところはない。


「智恵だけじゃなく、紬までも人質として用意するとはッ!」

 きっと、裕翔は智恵が「私はいいから来ないで」などと遠慮することを拒むためにも、紬を誘拐したのだろう。


 俺も智恵も紬も、己を犠牲にするから助けろ───などと言うことを考えられているが故に、裕翔は2人を人質にしたと考えられる。

 人質に取るなどという暴挙ではあるが、そんな行動を作戦立てて行動できるほどには冷静であった。

 これが感情で動いてくれていたのならば、少しは動きやすかったのだろうけれど、裕翔はあくまで冷静なのだ。


「───本当に、本当に嫌な敵だ...」

 クズでゲスなのに、俺よりも喧嘩が強くて、いくら怒っても冷静さは欠落させない。


 性格の悪さとデフォの強さが相俟って、俺は苛立ちを隠せない。


「───智恵を返せ、クソ野郎ッ!」

 体育館に着いて、真っ先に俺はそう叫ぶ。体育館の中央には、ロープで手足を縛られて逃げれないようにされている智恵と紬の姿と、その2人の上に座っている裕翔の姿があった。


「クソ野郎ッ!智恵と紬から離れろッ!」

「嫌だね。人質から離れるバカがいるかよ」

「───何が目的だッ!」

 ここで怒りに任せて行動し、智恵と紬の傷つけられてしまっては本末転倒だ。

 だから俺は、スッとその怒りをぶつけるのを我慢して、対話に応じる。


「目的?そうだな...お前を呼び出したのはいいものの、お前に何かしてもらう───ってことは考えてなかったぜ」

 裕翔はそう言うと、余裕そうにケラケラ笑う。そのふざけた乾いた笑いに、俺は苛立ってしまう。


 そう言えば、純介も智恵と紬が裕翔に連れてかれた事実と、「体育館で待つから1人で来い」っていう伝言だけを伝えられていない。教室に残した稜や愛香・皇斗には何の説明もなく出てしまった。


 だが、結局俺が1人で来ないとこれから行われる何か───人質を解放してもらう口約束をつけることすらも難しくなってしまうだろう。

 そのことは、焦っているとは言え皇斗も愛香もわかってくれるだろうから、ここに乱入してくる───とかは無さそうだった。


「よくも悪くも俺1人───ってことか...」

 俺は、小さな声でそう口にする。十メートル程先にいる裕翔には絶対に聞こえない声の大きさだった。


「───と、そうだな。目的、目的───あ、そうだ。こういうのはどうだ?オレが智恵とセックスするのをお前は見守るとか───」

「ふざけてんのか、クソ野郎ッ!」


 智恵のトラウマを思い出させるような、裕翔のセリフ。

 智恵の顔が、青くなっていくのがここからでも感じ取れる。


「おうおう、お怒りだ!どうやらオレのは名案だったみたいだな」

 紛うことなきクソ野郎。何を食べたらこんなクズは生まれるのだろうか、俺にはわからない。

 俺はすぐにでもコイツを殴ってやりたい。だけど、コイツに接近すると智恵や紬に危害が加わるのは見て取れる。


 だからこそ、どうにかして智恵と紬から裕翔を離さなければならない。どうにかして、距離を取らせなければならない。


「それじゃ、栄。お前は動くなよ?ここで、お前の彼女を───智恵を犯してやるからよ」

「───悪かった。俺の口が悪かったのは謝る。だから、それだけはしないでくれ、お願いだ」

 俺は、一度下に出て何とか智恵の安全を確保することを試みる。

 少なくとも、このままの話に流れで場が動いてしまうと、智恵のトラウマを掘り起こさせてしまうこととなる。俺も、智恵が裕翔とセックスしているところは見たくない。

 話を聴くだけでも、胸が圧迫されるような、泣いてしまいそうな、吐いてしまいそうな感覚になったのに、目の前で見せられたら、しかも裕翔なんかにヤられたら俺はどうなってしまうのかわからない。


「お願い?それが、人にものを乞う態度か?」

「───お願い...します」

「違う。動きで誠意を示せよ。こっちに来てしろよ、土下座」

「───ッ!」


 裕翔はニヤニヤしながら、俺に土下座を強要してくる。

 だけど、これで裕翔に───裕翔が椅子として踏んづけている智恵と紬に近付く口実ができた。


 このままなんとかして、裕翔を智恵と紬から引き剥がせれば───


「栄、来ちゃ駄目」

「───」


 その時。予想外にも、智恵が俺に対してそう口にする。

 何もかもを諦めたかのような───死を覚悟───否、死を甘受したかのような顔で、智恵は俺にそう声をかける。


 俺は、智恵のこの顔を知っている。

 絶望の味すらも忘れてしまった智恵は、絶望を求める時にこの顔をする。

 自分の身に何が起きても構わない、別に死んでも構わない、そんな時に智恵はこんな顔をするのだ。


「私は、我慢するから...私が我慢すれば助かるから...」

「よし、じゃあオレが智恵と一発ヤッたら紬を解放してやる」

 智恵の言葉を聞き、裕翔はそんな条件を付け足す。


 ───これは、智恵が「裕翔とセックスする意味」を生み出してしまうものだった。


 智恵は優しいから、自分を犠牲にして紬だけでも解放しようとするはずだった。

 どうせ、裕翔はそんな約束守るつもりもないのに。その言葉を信じることしかできないから、智恵は裕翔とのセックスを受け入れることしかできなくなってしまうのだ。



「智恵、やめろ...やめてくれ...」

 俺の弱々しい声。人質として連れられている以上、裕翔が武器を隠し持っているかもしれない以上、俺は智恵達に接近することができない。


 そして、裕翔が智恵と紬の上から退いて智恵のことを犯そうとしたその時───


「きゃあ!」

 智恵のことを、俺の方へ蹴り飛ばすのは紬。四肢を縛られながらも、器用に智恵を蹴って俺の方へ滑らせたのだ。


「つむは、栄と智恵ちゃんの心をボロボロにされてまで助けてもらおうとは思わない!」

「───ッ!」

「紬、ありがとうッ!」


 俺は、智恵を飛び越えて裕翔の方へ迫る。裕翔は、ポケットから家庭科室から手に入れたであろうナイフを手に持ったのが見えたものの、俺が裕翔にタックルしたことでそれは裕翔の手から落ち、体育館の上を滑っていく。


「───クソッ!ふざけんなッ!」

「裕翔、俺はお前を赦さない」


 ───紬の活躍により、俺は裕翔を智恵と紬の2人から離すことに成功した。


 ここからは、俺と裕翔の男と男の殴り合いだ。俺は裕翔を、何一つ思い悩むこと無く殴ることができる。

ちなみに智恵と紬を縛っているロープは、スマホのアプリでいつでも無料で買えます。

栄も第3ゲーム『パートナーガター』にて購入してます。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
裕翔、クズ過ぎる。 だがここまで来ると、いっそ清々しい。 そして紬のナイスフォロー。 これで最悪の状況は回避出来たが、 裕翔ならまた悪智恵を思いつくんだろうなあ。
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