6月23日 その⑥
第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』のルール
1.本ゲームは2人が立候補者となり、残る参加者は有権者となる。
2.有権者には1日の中で午前10時と午後13時の計6回に投票する権利が与えられる。
3.立候補者は投票することができないけれど、教室にて1日1回10分間の演説タイムが与えられる。演説タイムの際は、生存している有権者は全員集合しなければならない。
4.片方の立候補者が演説をしている場合は、もう片方の立候補者はそれを聴くことができない。
5.有権者は、指定の時刻から1時間の間に投票箱に正しいフルネームを紙に書いて1枚のみ投票することが可能。
6.投票は任意だけれど、初日の1回目と最終日の2回目の2回は必ず有効票で投票しなければならない。
7.投票数が多かった立候補者の方は生き残り、投票数が少ない立候補者は死亡する。
8.立候補者は有権者及び立候補者に暴力を振るうことができるが、有権者は立候補者及び有権者に暴力を振るうことはできない。
9.有権者は、投票の義務を守らなかったり、1度の投票で2枚以上投票したら死亡する。
智恵の頬にビンタをした裕翔に、俺は怒っていた。
いとも簡単に女性に暴力を振るうなどという卑劣な行動に、怒りを隠せなかった。
しかも、智恵は有権者であるから立候補者である裕翔に反撃できない。裕翔に反撃できるのは、俺だけだった。
だから、俺は裕翔に対して攻撃を仕掛ける。
「クソ野郎ッ!」
俺が、裕翔へと迫り拳を振ろうとするのと同時。裕翔はチラリとこちらを見て、俺の拳をスッと避ける。
そしてそのまま、俺の伸ばした手首を掴み、そのまま俺を白板に叩きつけた。
「───うぐっ!」
「怒っているところ悪いが、お前じゃオレに勝てない」
そう口にして、裕翔の拳が俺の腹部にめり込む。
「お前は強くなったって勘違いしているようだが、違う。お前は最初から何も変わってない!お前は強い奴を周りにおいて、強くなってる気になってるだけなんだよッ!」
裕翔は、その場に崩れ落ちる俺に対してそう口にする。そして、智恵の書いた「池本栄」という投票用紙をビリビリに破っては、下衆の笑みを浮かべて智恵の方を見た。
「ほら、投票用紙にオレの名前を書け」
「嫌───」
「───書かなかったら、お前のことも栄のことも殴る」
「───ッ!」
まさしくド屑。
俺と智恵の両方を殴る───などと言われてしまっては、俺は智恵に「俺の名前を書け」だなんて言えないし、智恵だって裕翔の名前を書かざるを得ない。
「わかったか?わかったなら早く書いてこい。1分以内に持ってこなくても、お前と栄の両方を殴る」
「───栄、ごめん...」
智恵はそう口にする。智恵だって、俺が殴られているところを見たくないようだった。急いで投票用紙を取って、そこに裕翔の名前を書く。
───俺は悔しかった。
これだけクズな裕翔に、勝てないのが悔しかった。
有権者は拳を振るえないのだから皇斗も愛香も俺のことを助けてくれない。助けることができない。
智恵は、すぐに投票用紙を持っていく。そして、裕翔によってその紙を検閲される。
そう、立候補者が「投票用紙を覗いてはいけない」などというルールはない。だから、今回はマスコット大先生から何も言われないのだ。
ズルいとも思ってしまうが、ルールに逆らっていないから、これはマスコット大先生が用意した勝ち方なのだ。
「さぁ、お前らも殴られたくなければオレの名前を書け!まさか馬鹿じゃないから漢字で書けないなんて言わせないぜ?もちろん、投票しないとも言わせない!」
裕翔がそう口にすると、皆殴られたくないようで裕翔の名前を書いてしまう。そして、その全てが裕翔によってチラッと見られるのだった。
このまま、21人全員が裕翔に投票してしまう。と思ったら───
「おい、愛香。お前、なんで栄の名前を書いてんだよ?」
「愚物が。妾の名前を呼ぶな。殺すぞ」
「あ?できるもんならやってみろ」
裕翔はそう口にすると、智恵にしたように愛香の頬にビンタをする。
「───愛香ッ!」
俺は愛香の名前を呼ぶ。愛香は怒りに任せて、反撃しそうだったからだ。
「───だからなんだと言うのだ。妾を打ったところで、妾は何も変わらんぞ」
「んだよ、クソがッ!」
そのまま、愛香の腹部にめり込む裕翔の拳。だけど、愛香は反撃に出ない。
「満足したか?下劣な人以下め」
そう口にして、愛香は投票用紙を裕翔からヒョイと奪い取り投票用紙に入れる。
「野郎───ッ!」
そのまま、愛香の方へ裕翔の拳が伸びるけれども、愛香はそれをスンナリと避けた。
「貴様、妾を殴っただけでいい気になっているのではないぞ。虎の威を借る狐は栄と貴様のどちらだ?」
そう口にする愛香。裕翔の視線は、愛香を睨むものになっていた。今なら、殴れる───。
俺は、すぐに体を動かして裕翔の腹部に蹴りをぶつける。裕翔は、横からの攻撃は想定外であったのか、少し後方によろけたものの、俺の方向を睨んだ。
「栄は狐ではない。栄は獅子であるから、余は栄の協力をしたいと思う。狐は貴様だ、渡邊裕翔」
そう口にして、「池本栄」と書かれた投票用紙を投票箱に入れる皇斗。どうやら、愛香だけでなく皇斗も殴られる覚悟で俺の味方をしてくれているようだった。
保健室からの投票であった歌穂も脅されて、結果的に裕翔に入れたために2回目の投票で俺に入ったのは2票だけであった。
これにより、出口調査の結果と合わせるとお互いに21票ずつと結果が並んだのであった。
投票が終わり、裕翔はイライラしながら教室を出ていった。皆、裕翔に不満を持っているようだったが、殴られたくないのも確かなので、裕翔に票を入れた。
「智恵、大丈夫だったか?」
「───うん。ちょっとほっぺたが痛いけど...大丈夫だよ」
「俺のせいでごめんな」
「栄は悪くないよ。栄だって殴られたんだから、悪いのは全部裕翔だよっ」
智恵はそうやって裕翔に怒る。怒っているの姿も、俺の目には愛しく思えた。
俺は、静かに智恵のことを抱きしめる。智恵は俺よりも温かく、抱きしめていて心地よかった。
───このまま、裕翔に拳を振るわれては、圧倒的な票数を付けられてしまうだろう。
どうにかして、明日は裕翔から票を勝ち取らなければならない。