6月23日 その④
第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』のルール
1.本ゲームは2人が立候補者となり、残る参加者は有権者となる。
2.有権者には1日の中で午前10時と午後13時の計6回に投票する権利が与えられる。
3.立候補者は投票することができないけれど、教室にて1日1回10分間の演説タイムが与えられる。演説タイムの際は、生存している有権者は全員集合しなければならない。
4.片方の立候補者が演説をしている場合は、もう片方の立候補者はそれを聴くことができない。
5.有権者は、指定の時刻から1時間の間に投票箱に正しいフルネームを紙に書いて1枚のみ投票することが可能。
6.投票は任意だけれど、初日の1回目と最終日の2回目の2回は必ず有効票で投票しなければならない。
7.投票数が多かった立候補者の方は生き残り、投票数が少ない立候補者は死亡する。
8.立候補者は有権者及び立候補者に暴力を振るうことができるが、有権者は立候補者及び有権者に暴力を振るうことはできない。
9.有権者は、投票の義務を守らなかったり、1度の投票で2枚以上投票したら死亡する。
俺は、マスコット大先生に呼ばれたので教室に戻ってくる。
裕翔は演説で何を話したのか、俺にはわからない。試しに本人に聞いてみることにした。
「裕翔、何を話したんだ?」
「は?お前に教えるわけねぇだろバーカ!」
「───」
まぁ、そうだろう。裕翔はこういうやつだ。一触即発程ではないけれど、犬猿の仲である俺と裕翔はこうして相手の求めるようなことはしないのである。
「教えてくれないのならいい」
「いいも悪いもお前が決めるもんじゃねぇ!」
「わかってる、投票が決めてくれるんだろ?」
「───ん、あぁ!そうだな、投票が決めてくれるだろう!」
そう口にして、シメシメなどと言わんばかりに笑みを浮かべる裕翔。何を企んでいるのかは知らないが、俺にとって得になりそうなものではなかった。
───と、教壇の上で、皆の前でそんな口喧嘩をしていると何かを皆に配布していたマスコット大先生が口を開く。
「はい。それでは皆さんに投票用紙として利用できる紙を配布しました。次からは、教室の白板の方の入口に投票用紙を用意しておくので、そこから取っておいてくださいね」
投票用紙として利用できる、手のひらサイズの白紙を配り終えたマスコット大先生は、大量に用意されたその紙を教室の入口辺りに置く。これだけあれば残る5回の投票でさえ足りるだろう。
「───さて、では早速1回目の投票の時間としましょう。1回目の投票は義務ですのでよろしくお願いしますね」
そうルールに「6.投票は任意だけれど、初日の1回目と最終日の2回目の2回は必ず有効票で投票しなければならない」という記載があるので、有権者は必ず投票する必要があるのだ。
皆は、黙々と名前を書いて教卓の上に置かれた直方体の投票箱へと投票していく。
最初にいれたのは、智恵であった。
「折角ですし、出口調査でもしていきますか。村田智恵さん、どちらに入れましたか?」
「え、えっと...」
「別に出口調査ですので、嘘をついてもらっても本当のことを言ってもらっても構いません。同じく出口調査ですので、本当のことを言ったとしてもペナルティはございません」
「もちろん栄。栄に入れた」
智恵は俺に入れてくれたようだった。まぁ、裕翔が相手だから俺に入れてくれるのは納得だ。
もしこれで相手が紬だったら、智恵はもしかしたら迷っていたかもしれない。
「裕翔、どうだ?最初の1票は俺に入ったが」
「逆に智恵がオレに入れてたらお前はどうすんだよ?彼女票なんかほぼほぼサクラみたいなもんだろ」
裕翔はどこか余裕そうだった。だが───
「栄」
「栄に入れたよ」
「ワタシも栄に」
「栄だ」
「答える義理はない」
「栄」
「栄にした」
「栄」
「皆と同じ」
「───」
「皆、俺に入れてくれてありがとう」
「クッソ...どうしてここまで俺に人気がない」
既に9票、俺に票が入っている。愛香は匿名を貫いていたけれども、きっと俺に入れてくれるはずだ。
「───中村康太君はどちらに?」
「俺は裕翔に入れたよ。裕翔は友達だし、一票も入らないのは可哀想だし...」
「っしゃ!」
康太は、どうやら裕翔に入れたようだった。でもまぁ、裕翔と同じ部屋である康太と蒼・誠の3人は裕翔に入れていたとしてもおかしくはない。
「───あ、僕は栄きゅんに入れたピョン!」
「蒼、テメェ!」
「キャー!裕翔きゅんが怖いピョーン!」
「俺も栄に入れた。渡邊よりも栄の方が信用できる...」
「誠、おい!」
「すまないな。死んで欲しい訳では無いが...選べと言われたらこうさせてもらう」
康太以外は、どうやら俺に入れてくれたようだった。と、その時───
「失礼。投票させてもらうわ」
「「「───ッ!」」」
そこに入ってきたのは、1人の女生徒───生徒会メンバーである茉裕であった。
茉裕も有権者であり、投票する義務があるのだ。死にたくはないだろうし、今回と最終回の時の投票はしにくるだろう。
「よく余の前に姿を現せたな!」
「当たり前じゃない。有権者同士で殺し合いはできない。ならば、私の安全は守られている」
「おいおい、まさか俺が赦すとでも?」
「栄と一緒なのは大層癪だが...茉裕。オレだってお前を───お前ら生徒会は大嫌いだ!」
裕翔も同じ気持ちなようだった。
「裕翔、私は貴方に投票する。だから、見逃して」
「───ッ!」
茉裕は、俺達に「渡邊裕翔」と書かれた紙を見せる。投票用紙を、しっかりと見せてきたのだ。
───が、「投票用紙を見せてはならない」などという文言は無いので、何も罰せられることはない。
「しょうがねぇな...」
裕翔がそう言うと、俺の手をガシッと掴む。
「栄を抑えてるから、今のうちに投稿しろや」
「はーい」
「クソッ!離せッ!」
やはり、裕翔はクソ野郎であった。自分が生き残るために、生徒会メンバーである茉裕を逃して俺を捉えているのだ。
そのまま、茉裕は「渡邊裕翔」と書かれた紙を投票箱に入れて、教室を出ていった。
「おい、逃げるなッ!」
そう口にして、俺は裕翔を振りほどき廊下の方へ走っていったものの、茉裕の姿はなかった。
───そして、その後も保健室に入院している歌穂の票を代わりに持ってきたマス美先生がやって来て、投票するなどした。
出口調査の結果は、最終的に俺が19票、裕翔が2票というものであった。
生徒会メンバーの茉裕や、保健室にいて現地に行けない歌穂は、例外的にルールの「立候補者は投票することができないけれど、教室にて1日1回10分間の演説タイムが与えられる。演説タイムの際は、生存している有権者は全員集合しなければならない」が適用されていません。
ですが、リアルタイムで配信されている演説をそれぞれ見せられています。