6月23日 その③
第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』のルール
1.本ゲームは2人が立候補者となり、残る参加者は有権者となる。
2.有権者には1日の中で午前10時と午後13時の計6回に投票する権利が与えられる。
3.立候補者は投票することができないけれど、教室にて1日1回10分間の演説タイムが与えられる。演説タイムの際は、生存している有権者は全員集合しなければならない。
4.片方の立候補者が演説をしている場合は、もう片方の立候補者はそれを聴くことができない。
5.有権者は、指定の時刻から1時間の間に投票箱に正しいフルネームを紙に書いて1枚のみ投票することが可能。
6.投票は任意だけれど、初日の1回目と最終日の2回目の2回は必ず有効票で投票しなればならない。
7.投票数が多かった立候補者の方は生き残り、投票数が少ない立候補者は死亡する。
8.立候補者は有権者及び立候補者に暴力を振るうことができるが、有権者は立候補者及び有権者に暴力を振るうことはできない。本ルールを破ったものは死亡する。
9.有権者は、投票の義務を守らなかったり、1度の投票で2枚以上投票したら死亡する。
ルーレットにより、立候補者に選ばれてしまった俺は、第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』に深く関わることが決定してしまった。第6ゲーム『件の爆弾』や、数日前に行ったEXゲーム『仮名奪取クイズ』などでもかなり深く関わっているのだから、今回のゲームは休みたかったのだけれど、ルーレットで決められたのだ。
仕組んだのではないか───などと文句を言いたいけれども、マスコット大先生にどんなことを口にしてものらりくらりと避けられるのは目に見えている。
だとすると、仕方ないけれどここは静かに立候補者であることを飲み込んだほうがマシなのだ。
幸い、対なす立候補者は裕翔だ。裕翔であれば、これまでに何度も敵対しているし、殺すのを惜しむような相手ではない。裕翔は、皆に迷惑をかけるから俺はあまり───というか、かなり好きではない。
「それでは、第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』の立候補者が決まりましたね。池本栄君と渡邊裕翔さん。今回の選挙で生き残ったら、とある権利を授けますので、楽しみに待っていてください」
「とある権利?」
「はい。でもまぁ、それが利用できるかどうかは2人次第───2人達次第、ですけどね?」
2人達次第。
マスコット大先生がそう言い直した理由がわからない。でも、深く考えても意味はないだろう。
デスゲームの運営が行うのは、いつだって俺達の思考を逸脱しているのだから。
「───それで、大体1時間後には最初の投票をするだろ?それなら、1回目の演説はどっちからにするんだよ?」
「演説は、投票が行われる前にしてくれると嬉しいです」
そう口を開くのは、すんなりと立候補者になることを受け入れていた裕翔。そして、後方を振り向いて俺の方を見た。そして、そんな裕翔の言葉にマスコット大先生が付け加える。
そうなると、午前と午後の演説の前に演説をすることになりそうだった。
「どっちから演説するよ?」
「別にどちらでも構わない。じゃんけんで勝ったほうが先にしよう」
「あぁ、じゃそうしよう。じゃんけんでな」
「最初はグー」
「じゃんけん」
「「ぽん」」
俺はグーを、裕翔はパーを出した。
「───よっしゃ、オレの勝ち!じゃあ、オレから先に演説させてもらう!」
午前の演説は裕翔が、午後の演説は俺が行うことになった。最後の投票の前に演説ができるのは利点だろうか。
裕翔はそう嬉しそうにしているが、最後の投票の時に演説をできるのはかなり大きいだろう。最初の投票は、皆わかっていないから安定を狙ってくるだろう。
俺達は投票10分前の9時50分まで、教室で何の意味もない駄弁をして待っていた。そして───
「はい。それでは、9時50分───投票10分前ですので、渡邊裕翔君に演説をお願いしたいです。池本栄君は、教室を出ていってもらえると嬉しいです」
ルールの中に、立候補者は敵対する立候補者の演説を聴けない───というものがあるから、俺は外に出ていかなければならない。
でも、有権者から又聞きするのは禁止されていないから、後で智恵や稜にでも教えてもらおう。
「わかりました」
俺はそう口にすると、教室から出る。そして、俺は裕翔の演説が終わるのを待っていたのだった。
***
「───えぇと、演説をしろって言われても話す内容がねぇし、別に生徒会長やクラス会長を決めるとかでもないからマニフェストもクソも無いんだけど...」
裕翔は、教壇の上に立ち、そんなことを口にする。実際、これは「何かを手にする」選挙ではなく「死から逃れる」ために行う選挙なのだ。話すこととなれば「死にたくありません」などと命乞いをするしか無くなってしまうだろう。
───が、裕翔はそんなみっともないところを人になんか見せたくないし、見せるつもりもないので、その口を別のことに使う。
「栄に投票しては行けない理由を羅列しようと思う。アイツを生かしておけない理由として大きいのは、アイツの父親がマスコット大先生ってことだ。それは皆もわかってるだろ?父親がデスゲームのマスコット的立ち位置をしてるってのに、安心できるかってわけだ」
「ちょっと」
「ちょっともそっともにっちもさっちも無い!俺の演説に声を出すな、野次を飛ばすな!」
栄のことを悪く言おうとしていることを止めようとした智恵が、裕翔に強い言葉で罵られてしまう。
智恵はその言葉にビクリと肩を動かして、小さくなってしまう。
「野次が入ったけど、話は続ける。デスゲームに関連してる人の息子がデスゲームに全く関与していない純正なプレイヤーだって信じられるか?信じられないよな?それに、これまで何度も奇跡だとも捉えられるような方法で勝ち抜いてきてる。実際、これまでの何度かのデスゲームで生き残れたのは栄の功績だ!栄を良く見る反面、これは逆に栄えがデスゲームに関与していたからクリアする方法を知っていた───とも考えられないか?」
裕翔はそうやって、栄にマイナスになるようなことを口にし続けて、10分の演説時間を使い始めた。
───そして、1回目の投票の時間がやってくる。