6月23日 その①
九条撫子と深海ケ原牡丹の襲撃から、早くも3日が経った。
智恵は、昨日一昨日と、学校が終わったら九条撫子と一緒に修行している。
俺も一昨日参加させてもらったけど、修行内容としては「何が起こっても動揺しない」ために座禅を組む───とかだったので、俺は初日で早々にリタイアした。
もう少し楽しい修行だったら良かったのだけれど、智恵は意欲的に取り組んでいるしそれでいいのだろう。
でもまぁ、自分が「世界を滅ぼす」とか言われたら、優しい智恵であればあぁやって修業をするだろう。
「───それにしても、何か変なのよね。深海ケ原牡丹から、智恵が昔何があったのか聴いたけど、その時よく世界が滅びなかった」
九条撫子は、初日の修行終わりに俺にだけそう話しかける。
どうやら、俺以外にも深海ケ原牡丹や柊紫陽花・今はもう亡き第4回デスゲーム生徒会メンバーは智恵の過去を聞いていたらしい。
第4ゲーム『分離戦択』で智恵が誘拐されている時に聞いたらしく、ほとんど俺とは同タイミングであると言える。
「そんなに奇跡なのか?」
「えぇ、奇跡も奇跡。大奇跡よ。多分、智恵は橋本隆貴と付き合っていた時、『色欲』のタガが外れていたはずなのよね。じゃないと、あんな悲惨な過去にはならないはずよ」
「そういうものなのか...」
でも、実際に智恵の過去は現実では考えられないほどに悲惨な過去であったから、そこに七つの大罪が絡んでいるのだと言われたら納得がいく。
「だから、不思議なのよね。どうして地球が壊れなかったのか。普通ならば、本来ならば壊れているはずなんだもの」
「そうなのか...」
智恵は、神に愛されているのか神に嫌われているのかわからない。そもそも、神なんかいないのかもしれない。
「───と、とりあえず。修行はこっちで色々と頑張ってみるわね。まずは、精神統一からさせて、その後一つずつ七つの大罪の器───昨日例えたコップを大きくしていくわ」
「あぁ、よろしく頼むぜ」
俺達は、そんな会話をした。ちなみに、九条撫子はいつでも智恵の異変に立ち会えるように、現在1部屋が空白になっている───というのも、住んでいるのは愛香と歌穂しかいないが、後1人柊紫陽花が住んでいるので、残る部屋は1つのチームHに居候させてもらうようだった。
救護室から退室した愛香は、少し嫌そうな顔をしていたけれどなんとか納得してもらった。歌穂は、まだ退院していないけど、納得してくれるだろう。
柊紫陽花も、同期と一緒に住めるとのことで少し嬉しそうだった。
───と、21日にはそんなことがあって、今日は23日。
週の中間、水曜日であった。
俺はまだ、岩田時尚が話しかけてこない朝に違和感を持っていた。
まだ、この学校には2ヶ月半くらいしかいない。だけど、もう岩田時尚が話しかけてくれるのが習慣になっていたのだ。
俺にとっては、興味のない軍艦の話だった。
一概に、聞いていて楽しい───とは言えなかった。
だけど、確かに時尚は俺のことを友達と認めてくれて、俺だって時尚のことを友達だと認めていたのだ。
それに、左横の席にも誰も着席していない。そう、俺の隣は鈴華であった。
死んだ。殺した、俺が殺した。
もう鈴華も時尚も学校には来ない、来れない。
前と左隣がいなくて、俺の心には違和感があった。
「───って、栄。どうした?暗い顔をして」
こうして話しかけてくれるのは、稜と健吾であった。一昨日目を覚まして、今ではもう普通に学校に来れている。
2人も、大きな怪我や記憶障害などは無かったようだ。2人が無事でよかった。
「いや別に。どうもしないよ。ちょっと、周囲の席に人が減ってきちゃったな───と思っただけだ」
「そうだね。時尚も死んじゃったし、鈴華も死んじゃったんだから」
「鈴華はそうするしか無かったとしても、時尚はなぁ...」
「理由、わからないんだろ?」
「あぁ。でも、死んだのは確からしい。まさか、時尚が生徒会側だとは思えないし、終わった時の教室には、茉裕もいたから、そもそも生徒会とか関係なさそうだしな」
「そうか...」
いつか、時尚の死因も解明してあげたい。
───と、死因の解明と言えば、4月3日に死亡が確認された平塚ここあもだろう。
結局、平塚ここあの死因もわからないままに、ここまで来ているのだ。生徒会がやった───という見解が
出ているが、それでもその生徒会が誰かはわかっていない。
───と、その時。教室に入ってくるのはマスコット大先生。
「はい、皆さんおはようございます!ホームルームを始めるので席に座ってくださいね!」
マスコット大先生が手をたたきながらそう指示を出すので、稜と健吾の2人は自分の席に戻っていた。
そして、全員が座ったのを確認すると───
「はい、皆さん座りました!本日から、25日までの3日間、第7ゲームを行おうと思っています!」
「───ッ!」
異様に長かった第6ゲーム『件の爆弾』が終わってまだ数日。マスコット大先生は、第7ゲームを行うことを口にしたのだ。
「皆さんに是非は問いません!第7ゲーム、その名も『ジグジググジュグジュ擬似選挙』を行おうと思っています!」
第7ゲーム『ジグジググジュグジュ擬似選挙』───そんな、嫌な擬音を並べられた選挙が今、開始されることが明かされた。