6月20日 その⑧
EXゲーム『仮名奪取クイズ』は引き分け───ということで幕を閉じた。
ゲームが終わったことにより、マスコット大先生は四次元へと戻っていき、俺達の寮に残ったのは九条撫子と深海ケ原牡丹の2人であった。
「なんとか生き残ったわ...智恵以前に、そもそも牡丹と共闘したらろくな事にならないの忘れてた」
「---- ・・ -・・・- ・-・-・」
「悪いわね。わざわざ協力してもらったのに、こんな言い草で」
3試合目、九条撫子は引き分けを狙って手札を出していた。
そうじゃないと、「生徒会」の「い」からわざわざ「遺影」で繋げる必要はないのだ。
純介にいろは唄を出させて、「ん」だけを余らせて引き分けに持っていくために「遺影」を出したのだった。
変に負けて死亡するくらいなら、初っ端から戦うことをやめて引き分けにまで持っていく───それが、狙いだったのだろう。
2試合目が終わってから3試合目が始まるまでの間に、それが思いつくことを評価するべきだろう。
発言から捉えるに、九条撫子は本気で勝ちに来ていたようだし、前々から用意されたものではなかっただろう。
「───栄...」
智恵が、俺の元に来てギュッと俺の裾を掴む。俺は、九条撫子から智恵を守るように立つと、九条撫子もこちらに───というか、真の目的である智恵のことに気付いたようだった。
「根本的な解決は───まぁ、要するに智恵の七つの大罪に関しては解決してないわね...」
「デスゲームは終わったんだ、帰ってくれ」
1人でブツブツ口にする九条撫子。
「-・- -・ --・-・ -・・・ ・-・・ -・--- -・--・ --・-」
「ん」
深海ケ原牡丹がそう口にすると、そのまま姿を消す。マスコット大先生と同じく四次元に戻っていったのだろう。
───が、深海ケ原牡丹は俺達からしてみればさして問題ではなかったし、なんだったら勝利への糸口ですらあった。
問題の九条撫子だけが残る。純介は非戦闘員であるから、智恵を守れるのは俺だけ。
どうにかして智恵を守らねば───
「───殺す以外に、解決法は無いんですか?」
九条撫子にそんなことを質問するのは、純介であった。
「そんなのあったら私が知りたい!どうせ、お前らは目の前の智恵という怪物の持つ恐ろしさをわかっていないんだろう!」
九条撫子は、純介にそう告げる。どうやら、殺す以外に七つの大罪を無くす方法は無いようだった。
「───じゃあ、無くさなくてもいい。七つの大罪を暴走させない方法とかはないんですか?」
「暴走させない───方法?」
暴走だか発動だかは知らないけれど、俺は九条撫子にそんなことを問う。智恵を殺されたくはないから、七つの大罪を無くすことは諦める。だだ、七つの大罪を発動させないことはできるかもしれない。
「暴走させないように抑えることはできなくもないが...」
九条撫子は、思案しているような顔でそう口にする。俺は、背中に隠れる、隠している智恵の方をチラリと見た。
「───智恵、どうだ?」
「死ぬのは嫌だから...それに、周りに迷惑かけたくないし、抑えられるのなら抑えたい」
俺が智恵に聴くと、智恵はそんなことを口にする。
「───だそうだ。九条撫子、智恵を殺さずに、支援してくれるか?三次元を守りたいのなら、協力してくれるよな?」
若干、脅しみたいになってしまった。でも、九条撫子だって「三次元を守る」ために智恵を殺そうとしていたのだ。智恵を殺したいからここに来たわけではない。
「───しょうがない、わね。わかったわよ、協力する。その代わり、一緒にいられる時間は減るけど文句は言わないでちょうだいね」
「「───え」」
「え?」
「ヤバいヤバい、どうしよう」
「滅ぼしちゃってもいいんじゃない?てか、滅ぼす?」
「「ストーップ!」」
俺と智恵の2人に対してそうツッコむのは九条撫子と純介。
「嘘嘘、冗談だよ。一緒にいられる時間は減る───って言ってるけど、別に死ぬわけじゃない。永遠に離れ離れにならないなら、それで文句は言わないよ」
「私も。栄も一緒に訓練してくれるだろうし。ね?」
「───うん。するよ。できるか知らないけど、似たようなことをしとく」
「はぁ...全く、バカップルめ」
純介はそう言ってため息をつくけれども、気にしない。純介だって第6ゲーム『件の爆弾』の中で紬とイチャイチャしてただろ、早く告白しろ。
「───それで、具体的に抑える訓練とか特訓とか修行とかは何をするんだ?」
「七つの大罪を暴走させないことにおいて大切なのは、あんまり大きな感情を持たないことよ。」
九条撫子曰く、七つの大罪とはコップに入った水のようなものだという。
例えば、この前智恵が暴走させた「憤怒」であれば「憤怒」という感情が入るコップがあるらしい。
智恵が怒れば、「憤怒」が増えてコップの中に水が入るように増えていく。そして、水が溢れたら暴走する───ということらしかった。
智恵の宿す七つの大罪───要するに水は絶対量が大きいから、少し何かあっただけで溢れちゃうということらしい。
ちなみに、誠はその七つの大罪が無い───全てのコップに水が全く入っていない状態らしかった。
コップそのものが無い───と表現していいのかもしれないが、それだと無機物に近くなってしまうから違和感があるのだと言う。
誠や智恵は例外中の例外らしいから、コップの例えも万能ではない。
「───んま、だからコップの水が溢れないようにコップを大きくするかコップの中の水を減らすかするしかないわ。あ、ちなみに殺すのはコップを叩き壊す───ってことね」
「じゃあ、それは則ち何をするんだ?」
「コップの水を減らす───ってのは、できない。それこそ、記憶をなくすとかになってしまうわ。だから、コップを大きくする───まぁ、多少怒ったりしても暴走しないように抑えることを目的にしていくわ」
そんな感じで、修行で習得することを理解した。今日は疲れたし、準備も少し必要らしいから、修行は明日から行われることになった。