6月20日 その⑤
EXゲーム『仮名奪取クイズ』のルール
1.参加者は両チーム2名ずつの全4人。
2.試合は2点先取の最高3試合とする。1試合目・2試合目は両チーム1名ずつの出場で、3試合目に続いた場合は全員が出場する。
3.本ゲームでは50音(46文字)と、濁点・半濁点・拗音・長音の書かれた計50枚のカードを使用する。
4.1試合目は、50枚のカードでカルタを行う。カードの枚数が多かった人に1勝。
5.2試合目は、取ったカードのみの文字が使える状態でお互いにクイズを出し合う。相手が答えられない・不正解となった場合1勝。
6.濁点・半濁点・拗音のカードは50音の文字に加えることが可能。例:「か」+「゛」=「が」、「や」+「拗音」=「ゃ」など
7.ゲーム性の為、「・(トン)」と「-(ツー)」を使用したモールス信号は禁止する。
8.3試合目は、50音のカード(46枚)を2セット用意し、計92枚でしりとりを行う。
9.お互いに手元にあるカードを出し合って、しりとりを続ける。先に手札が無くなったほうが勝利する。出されたカードは相手の手札になる。
10.言葉が繋げなくなったり、「ん」で終わったら相手が勝利する。
11.2点先取した方が勝利し、もう片方のチームは敗北となる。敗北となったチームは、死亡する。
九条撫子 49枚。
村田智恵 1枚。
大敗。圧倒的大敗。
EXゲーム『仮名奪取クイズ』の1試合目は、智恵の大敗北で幕を閉じた。
取れた文字は「ほ」の1枚のみ。
「ごめん、なさい...」
ボソリと、静かに智恵はそう謝る。そして、ボタリと大粒の涙が智恵の涙から溢れた。
「私の、私のせいで...純介も、純介もぉ...」
智恵の、そんな弱々しい声がチームCの寮の中に響く。
「大人気なかった───かしら、流石に...」
対戦相手であった九条撫子は、智恵から49枚のカードを奪い取る───という大人気ない行為をしてしまった為に、そう反省する。
「勝負にならない、これじゃ勝負にならないわよ。2試合目も」
そう、2試合目のクイズは1試合目で取った文字だけを使用してクイズを出し合う───というものだった。
きっと、想定では敗者側も少なくても15枚は取れていて、そこで文字をなんとか駆使して戦う───と言ったものだったのだろう。
だけど智恵は、たったの1枚しか取れなかった。しかも、取れたのは「ほ」だ。
取れたのが「ひ」とかであれば「非」で○×クイズはできたかもしれない。でも、「ほ」では勝負にならないのだ。
「ごめん、なさい!私が、私が弱いせいで!」
部屋に響く智恵の泣き声。
「マスコット大先生。この間は智恵に話しかけていいですよね?」
「はい。試合中に試合を行っているに関わらなければ構いません。西森純介君と作戦会議───というのは不平等になるのでやめてほしいですが、村田智恵さんならばもう終わりましたしいいですよ」
俺は、マスコット大先生に許可を取ると智恵に近付く。許可取りをしたのは、ルール違反をすると今すぐにでも智恵が殺される可能性があったからだ。
でも、「ほ」だけじゃクイズなんか問題を出すことも解答することもできないので、結局智恵は死ぬのだ。
智恵も純介も死ぬのだ。
「そんなの...そんなのアリかよ」
流石の純介でも「ほ」だけでは勝てない。俺は無理だ。勝てっこない。
相手がこれまでの人生の中で一度も「勝利」したことがない女である深海ケ原牡丹だとしても、流石にこればかりは負けてしまうだろう。
勝利したことがない───と、なれば。
「マスコット大先生。流石にこれは勝負になりません。ノーカウントでいけませんか?もう1試合、やり直すことはできませんか!」
俺は、泣きじゃくる智恵を抱きしめながらそう懇願する。
「やり直しなど致しません。西森純介君には『ほ』の1文字だけで戦ってもらいます」
「そんなの無茶だ!マスコット大先生だってそんなのわかるだろ!」
「はい、わかります。でも、勝負は始まってしまったのです。命をかけた殴り合いにリセットボタンはありません。これもそれと一緒。暴力禁止とは言え、これは殴り合いと大差ないのです。なにせ、デスゲームですから」
「───ッ!」
俺は、マスコット大先生の言い草に苛立ちを覚えてしまう。でも、マスコット大先生が「やり直しはしない」などと言ったら、絶対にやり直しなんか起こらないのだ。
───もう智恵は、死ぬしか無いのだ。
「嫌だ、嫌だ嫌だ!智恵を、智恵を見殺しにしたくない!マスコット大先生、どうにかチャンスをくれないか!俺にチャンスを!」
「へぇ...チャンス、ですか」
「あぁ!なんだってする、俺を代わりに殺すのだっていい!だから、なんとか純介と智恵の2人にチャンスを」
「却下ァァァァ!もう、決まったことなんです!ルールの変更も、チャンスの譲渡も致しません!正々堂々、『ほ』の1音だけで戦ってもらいます!」
「───ッ!この、マスコッ───」
「栄」
怒り狂いそうになる俺を呼び止めるのは純介であった。
「僕に任せて」
「でも───」
「無茶で無謀なのはわかってる。智恵と僕が死んだら、栄も死んでくれ」
「───」
俺は、俺はここで死ぬのか。
智恵と純介が死んだら、俺は死んだって構わない。
それほどに、それほどまでに俺にとって智恵は大きな存在だった。
───人生の打ち切り。
それでもいい。もう、それでもよかった。
全てが面倒だった。智恵が死んだら、全てを投げ出しても良かった。
それほどまでに、俺は智恵に対して狂ったように愛していた。腕の中で泣く智恵が死ぬのなら、俺も後を追うように死んだところで何も構わなかった。
───もう、俺の人生が終わるのなんか、どうでもよかった。
「───わかった。2人が負けたら、俺の人生も打ち切りだ。花々しく、完結させてくれ」
「───」
「───では、お互いに許可が出たところで続きに参りましょう!」
そう口にするのは、マスコット大先生。俺は、泣き続ける智恵を抱きしめて、絶望の2試合目を見ることにした。死ぬ準備はできていた。
いつだって、自分を殺すことはできた。稜や健吾には申し訳ないが、敵である2人にでも頼んで鈴華殺されたことにしてもらおうと思った。
「それでは、EXゲーム『仮名奪取クイズ』2試合目。開始しようと思います」
マスコット大先生はそう口にする。
───出場者は、『不勝の乙姫』深海ケ原牡丹と、『悪魔の申し子』西森純介。
───次回。