6月20日 その④
EXゲーム『仮名奪取クイズ』一試合目の開始。
デスゲーム参加者からは智恵が出場し、生徒会メンバーからは九条撫子が出場するようだった。
俺達の寮の床にばら撒かれたのは、合計50枚の正方形の紙。手のひらサイズのその紙は、まさしくカルタに相応しいだろう。
1試合目は、次の2試合目に大きく関わってくる。ルールに「2試合目は、取ったカードのみの文字が使える状態でお互いにクイズを出し合う」という文言がある以上、ここでどれだけカードを取れるかによって、純介のやりやすさが変わってくるのだ。
1試合目で大敗すれば、2試合目もほぼ確実に負けてしまう危険なゲーム。
逆に、1試合目でたくさんカードが取れれば、2試合目も勝ちやすくなるそんなゲーム。
これはきっとルール改良版で、初期段階───要するに、深海ケ原牡丹がルールを作った原案では、1人で戦うようなものだったと推測できる。
どんな思惑があったのかはわからないが、今回は智恵だけの戦いではない。純介であれば、手札が多少少なくてもしっかりと戦ってくれるはずだった。
───兎にも角にも、大事な1試合目。ここで智恵が勝利できれば、勝ち筋は見えてくる。
「では、1枚目。行きますよ」
マスコット大先生はそう口にする。読み札はない。マスコット大先生は全部内容を覚えているのだろうか。
「将棋の歩兵を一文字で略すと───」
「はいッ!」
智恵が動くよりも先に、九条撫子が「ふ」に手を伸ばしていた。そして、そのまま彼女が取る。
「ふ───正解です」
どうやら、1試合目はそのひらがな一文字に関する知識を問うカルタのようであった。
「ちなみにですが、お手つきしたらその文字は触れられない形で行きましょう。お互いがお手つきしたら、その文字は両者共に使えないことにします」
マスコット大先生の補足。従来のカルタと同じく、お手つきは駄目なようだ。
「危ない...将棋の『し』を探してたから助かった...」
どうやら、智恵は頭の文字を探していたようだった。結局「ふ」は取られてしまったのでお手つきしていてもほとんど変わらなかっただろうが、しないほうがよかっただろう。
ちなみに、1回休みではなくその文字だけの制限なのは、お手つきしたら強制的に2文字使用不可になってしまうから、マスコット大先生からの温情かもしれない。
先制点は九条撫子に取られてしまった。だが、次取れば1文字ずつで巻き返せる。
「では、2枚目」
マスコット大先生のその言葉で、両者が集中したモードにはいる。
「戦国の七雄の一つに数えられ、邲の───」
「はいッ!」
「早ッ!」
九条撫子が「そ」を取ったことにより、智恵が反応を示す。
「別に、早くないわよ。このくらい当然よ」
戦国の七雄の中で、一文字で表せるのは楚か魏。
そして、「魏」は「ぎ」であるから「き」と「濁点」の2つになってしまうので選択肢から引かれる。
そうなれば、残されるのは「そ」だけなのだ。
九条撫子は、「戦国の七雄」という単語を聞いたころには、「そ」の文字を探していたのだろう。
「純介なら今の取れた?」
俺は、2試合目に参加するため現在は見学している純介に対して、小声でそう聞いた。
「うん。邲の戦いだけじゃちょっと迷ってたかもしれないけど、戦国の七雄って単語が一番最初に来てたから、九条撫子より見つけられたら取れてたと思うよ」
「そうか...」
「この戦い、知識問題ばかりだと厳しいだろうね。20枚───いや、せめて15枚は取ってほしいところ...」
純介はそう口にする。純介も、15文字はないとクイズを出し合うのはキツいのだろう。
「2枚連続で貰っちゃうのは大人げないかしら?でも、こっちも命がかかってるから。文句は言わないでね」
「次こそ、取るッ!」
「では、3枚目」
九条撫子は、智恵に対して煽る。でも、智恵はそれに動じるようなことはなかった。
「臍帯とも呼ばれる母体───」
「はいッ!」
3枚目である「お」を取ったのは、やはり九条撫子。
「わかったのに、悔しいッ!」
智恵は、そんなことを口にする。臍帯とは、「へその緒」のこと。だから、答えは「お」なのだろう。
「───では、もうどんどん行きますよ。4枚目」
マスコット大先生は、そう口にしてどんどん読み札を読んでいく。いや、何も見ていないから暗唱している───が正しいのだろうか。
「船に付いている風により推進───」
「ほぉぉぉ!」
絶叫するかのようにして、智恵が九条撫子よりも早く手を伸ばすのは「ほ」であった。このカルタの答えは「ほ」であると、そう理解したのだろう。
実際、正解だ。
「───ッ!取られた!」
九条撫子は、若干悔しそうに口にする。
4枚目にて、智恵は始めてカードを手にする。「ほ」のカードは、しっかりと智恵の手の中に残ったのだ。
「でも、まだたったの一枚。次は私が取るんだから!」
「このまま、もう1枚私が取っちゃうよ!」
お互いに、そう宣言する智恵と撫子。そして、お互いに熱戦を繰り広げた後に───。
「さて、これにて50枚終了しました!九条撫子さん49枚、村田智恵さん1枚で九条撫子さんの圧勝です!」
EXゲーム『仮名奪取クイズ』1試合目は、智恵の大敗で幕を閉じたのだった。
そして、2試合目。純介は「ほ」だけで戦うしかない。
───無理だ。
どうせ結局生き残る───とか、思ってる人がいそうなのでここでちょっくら殺します。
智恵のことは大好きだけど、それでも物語を盛り上げるためなら仕方ない。
君のことはずっと書いていたかった。次回、栄と智恵の今生の別れ。お楽しみに。