6月20日 その①
───四次元。
「智恵が七つの大罪を暴走させたァ!?」
1日遅れのそんな報告に、驚いたような声をあげるのは第3回デスゲーム生徒会メンバーであり、パイロットゴーグルを付けている人生への挑戦者であり抵抗者である生粋の努力家───九条撫子であった。
マスコット大先生のその報告に机を叩いて身を乗り出して声を上げる九条撫子を、押し戻すようにして席に座らせるマスコット大先生は言葉を続ける。
「はい。でも、村田智恵さん本人は自覚症状がないみたいです。そして、他人に七つの大罪を譲渡───いや、違いますかね。他人の七つの大罪を共振させることも可能なようです」
「は、はぁ!?意味がわからないわよッ!他人の七つの大罪を共振?そんなの、私だって初めてよッ!」
そう口に出す九条撫子。彼女だって、自らの七つの大罪を覚醒し、己に纏わせることだけで精一杯なのに、九条撫子を無自覚に超えていく最も小さな純粋悪であり、最も人間らしい人間───智恵に嫌気が差した。
「・・- -・--・ -・-・- ・- --・-・ ---・- ・・ ・-・・ -・-・ --・-・ ・-・--」
同じ空間にいる深海ケ原牡丹にそう注意されるものの、九条撫子の耳にそんな忠告は届かない。
「おかしい...あの怪物───いや、人間はおかしい...」
「どうしますか?別に、自由に動く権利は授けているつもりですが」
自由に動く権利───それは則ち、智恵を好きにしてもいい権利ということだろう。
───が、九条撫子はラストバトル『ジ・エンド』で智恵と邂逅し、嘔吐しながら逃亡してきた事実がある。
そうであるからこそ、九条撫子は智恵への接近を躊躇っている。
ここで潰さなければ、智恵はどんどん進歩して七つの大罪を己のものへとしていくだろう。
七つの大罪を全て保有しているというだけでも、かなり異質であるのに、その力をより大きくさせていっては、どうなるかすらわからない。
だけど、七つの大罪の全てを常時覚醒させてしまっているようじゃ、大惨事が起こる───という想像だけは、九条撫子の脳内に明確に存在していたのだ。
「今、止めないと...」
九条撫子はそんなことを口走る。今止めなければ行けない。
智恵が暴走して、智恵が、いやデスゲームが、いや世界が、いや三次元が壊れてしまう前に、智恵の息の根を止めて人間を止めさせなければならない。
───が、九条撫子にとっては今の智恵さえも近寄りがたいほどの深淵。混沌。絶望。悪夢。
「どうにかして、どうにかして智恵を倒さないと...」
「---・ ・-・-・ ・-・ -・-・ -・ ・-・・・ ---・- ・・-- ・-・・ ・・ -・ ・- ・---・ ・--・?」
「───えぇ、そうよ。問題の芽は今のうちに摘んでおかないと。世界が壊れる」
九条撫子の憂慮。それが杞憂に終わればいいだろう。
───だけど、杞憂には終わらない。それは、彼女の中でほぼ確定だった。
なにせ、七つの大罪を全て持っているような人間だ。生きているだけで智恵は不幸な目に遭うだろう。
そんな彼女が、何かをしでかさないわけないのだ。智恵が起こした火種は、落ちるはずのないガソリンの上に落ち、全てを巻き込み爆発する。
運がないわけではない。絶望的なほどに人間なのだ。
「───牡丹」
「・-・ -・-・?」
「私と一緒に、智恵を殺すのに手伝って頂戴。智恵の人間味は、きっとアナタの敗北体質で打ち消せる」
「-・- -・ --・-・ -・・・ ・・-・ -・--- ・・-・・ ・-・-- -・-・・ -・ ・- --・-・ -・ ・・・- ・-・ ・- ・-・-・ -・ ・・ -・-- ・・-・・ ・・」
「そこをなんとか!」
「--・-・ ・・ --・-- -・- -・ --・-・ ・-・・ ・・・ -・・-・ --・・- ・・-・・ ・--・ --・-・ ・・ ・・- -・-- ・-・-・ ・-・・ ・・ --・-- -・--・」
「───何?」
「-・- -・ --・-・ -・-・ -・・-・ --・・- ・・-・・ --・ ---- ・-・- --・-・ -・ ・- --・-- ・・・- -・・- ・-・・ ・・ ・- -・--・」
「殺したい悪魔───誰のことよ?というかそもそも、第5回デスゲーム参加者の中で牡丹の知り合いがいるの?」
「-・-・ --・-・ -・・-・ --・ --・-・ ・・ ・-・-・ ---・- -・--」
「西森...純介」
「-・- -・ --・-・ -・・・ ・-・・ --- ・--- ---- ・-・- --・-・ -・ ・-」
「───わかったわ。協力する。アナタの敗北力...信じるから」
───こうして、第3回生徒会メンバーである九条撫子と深海ケ原牡丹は動き出す。
***
「はぁぁ...」
6月20日。
第6ゲーム『件の爆弾』を終えた俺と智恵・純介の3人はリビングでだらけていた。今日は日曜日だし、土曜日までデスゲームを行っていたから───という理由で、明日も代休となっていた。
デスゲーム運営なのに、こういうところだけは真面目なのだ。流石はマスコット大先生と言ったところだろうか。
「次のデスゲーム───第7ゲームまでは、まだまだ時間があるし。ちょっとは休めそう───」
その発言が、完全にフラグになったのだろう。一瞬にしてフラグは回収され、俺達の平和は折られる。
「村田智恵、西森純介。両名に、私達が勝利を申し込む!」
そこに現れたのは、2人の過去の生徒会メンバー。
九条撫子と深海ケ原牡丹であった。