閑話 綿野沙紀の過去
綿野沙紀───私は、綿野家に長女として生まれていた。
上には2歳年上の兄がおり、父親は街を歩く人にその会社の名前を聴けば10人に3人が知ってるほどの企業に就職している一般サラリーマンであり、母親は近くのスーパーにてレジ打ち係を担当しているパートであるという、一般的な家庭だった。
ごく普通の顔立ちで、ごく普通の生まれで、ごく普通の人生を過ごしてきた私にとって、1つだけ他の人とは違う部分があった。
───それは、私は思うように人を愛せない、というものだった。
誰もが認める美少女───というわけではない私は、手に取りやすい良心的な格安優良物件であったのか、色々な男と付き合うことができたし、他の女子からも嫉妬されることのない、ごく普通で平和なJC・JKライフを過ごしてきた。
10を超える男性と付き合い、20を超えるチンコを咥えてきた私であったが、それでも心の底から好きだ───などと言えるような男性には出会うことはできなかった。
それこそ、私が心の底から愛して、心酔していたのはデスゲームで出会った茉裕くらいであろう。
だけど、私はごく普通の人間であるから、鈴華のように狂信的に茉裕を愛することはできていなかったようだ。死んでから、そう理解できる。
───これは、そんな人を思うように愛せない私の、最低最悪な日常を描いた過去回想である。
***
「付き合ってください、お願いします」
当時、高校1年生であった私は、隣のクラスの男子───名をなんというのか忘れてしまったが、少年Aに、冬の寒い日の放課後の教室で告白された。
私は、断る理由が無いので、少年Aと付き合うことになった。だけど、私は彼のことを愛せないし、心の底から愛するつもりもないから、「委員会がある」───などと口にして、少年Aと同じクラスの男───これまた名前が思い出せないので、少年Bとしよう。
私は、少年Bと性行為を行った。
私にとっては、別に普通だった。愛のない人と付き合い、また別の愛のない人と男女の契を交わす。
結局のところ、あるのは「付き合っているか否か」という形式上のもので、別に結婚したわけでもないから性行為の1度や2度くらいしてもいいはずなのに───
「───なんで、なんで◯■となんかセックスしたんだよ!」
少年Aは、怒りに身を任せて私の首根っこを掴む。
「いや、助けて...」
などと、私は口にしてなんとか助けを求めた。意味がわからない、どうしてそんなにキレる筋合いがあるのか。 別に結婚するつもりはない。だから、誰とヤッたところで私の勝手なはずだ。
それだと言うのに、彼は私に殴りかかったのだ。流石に痛いのは嫌だから「ごめなさい、もうしません」などと嘘の謝罪をして、どうにか許してもらった。無論、怒られたその日も少年Cとヤッた。
「彼氏に殴られて、セックスできなくなっちゃうから、内緒にしててね」などと声をかければ、皆すぐに黙り込むのだ。
性欲に従順な男はなんともまぁ扱いやすい───などと、性欲に従順な私は心の底で男をそう嘲笑っていたのだ。
───と、その数日後。
私は見てしまったのだ。少年Aが、校舎を知らない女と歩いているところを。
その時は移動教室だったのだろうか、クラスが違うから授業も違う。だけど、彼は自分は「セックスなんかするな」などと私に脅して怒ってきたはずなのに彼自身は女と楽しそうに歩いているのだ。
───許せない。
私にだけ生きづらさを強制してくる。彼は自由気ままに生きているというのに、私にだけ不条理にルールを課してくる。
おかしい。おかしい。おかしい。おかしい。
「▲◎ッ!!!」
私は、人が多く歩く廊下の中で彼の名前を叫び掴みかかったことを覚えている。だけど、どうしても彼の名前だけは思い出せなかった。
「───沙紀ッ!」
彼が私の名前を呼び私の方を向くけれども、もう弁明の手段は残させない。私は、彼の頬に拳を振るったのだ。そのまま、彼は壁に頭をぶつけてそのまま地面にヘナリと座り込む。
「おかしいッ!おかしいよッ!▲◎だって女と話してんじゃん!嘘つき、嘘つき!」
私は、そう口にして彼の上に馬乗りになるようにして、彼の頬を打ち続ける。一緒に歩いていた女子生徒が叫び声を上げて、周囲で私と少年Aの動画を撮っている人を退けながら先生が私のことを止めに来るまで、彼の頬の打ち続けた。
「おかしいのは...お前だろ、沙紀」
彼は私にそう言う。私はおかしくない。私は普通だ。おかしいのは、お前だ。お前こそが、人の自由を制限する悪魔だ。
私はその時そう思ったけれども、数人の先生が私と少年Aを取り囲んでいたので、そんなことは言えなかった。
ただ、「ごめんなさい...女の人と一緒に歩いている▲◎が許せなくて...」と謝ることしかしなかった。別に、殴ったことに後悔も反省もしていない。
───私達カップルは、結局その1週間後には破局していた。
少年Aの親が、私と付き合うことに抗議したのだった。両親・先生と囲まれている中での別れ話は、別に苦ではなかった。別に私は少年Aのことなんか好きではなかったから。
これで、また何にも縛られずに性行為ができる───そうは思っていたかもしれない。
───これが、普通の私の人とは違う過去である。
私は、デスゲームにて茉裕と出会うことができて本当に幸運だっただろう。だって、彼女は私の最初で最後の心から愛した人間なのだから。
茉裕がいなかったら、沙紀の恋人云々で男の争いが起こってました。
裕翔と奏汰らへんで先を奪い合い、生徒会に利用されてたでしょう。