4月5日 その①
***
4月4日の深夜が近くなった頃。俺は、純介の口から「智恵が来た」と言う事を聞いた。俺は、智恵が部屋から出れたことに喜びを噛みしめながら玄関に向かった。
「どうしたの?智恵」
「あ...あの...栄!」
智恵は、顔を赤くしながら俺の名前を呼ぶ。そして。
「私に手伝って!」
そう言って、智恵は抱きついてきた。決して嫌だった訳じゃない。どちらかと言えば、嬉しかった。
智恵の膨らんだ胸が、俺の体に押し当たる。俺の頬が紅潮していくのを感じる。
「え、え、な、何?」
智恵は、俺の胸に顔を埋める。
「課題...だから...」
智恵の声からは、恥じらいが感じられた。きっと、智恵自身恥ずかしいながらにハグをしているのだろう。
そして、気付いた。
純介が出たのにも関わらず、わざわざ俺を呼ぶように指示した理由。
課題が「栄と抱擁しろ」のような感じか。それとも「異性と抱擁しろ」なのか。それとも「誰かと抱擁しろ」なのかで話が変わってくる。できれば、1つ目以外が嬉しいだろう。
俺は、智恵の気持ちに答えるかのように智恵の頭に手を置く。智恵の髪は柔らかかった。
「───ッ」
俺は、気付いた。智恵が泣いていることに。
「智恵、どうして...」
「うん、何が?」
「なんで泣いてるの?」
「泣いて...え?」
智恵自身、何も気付かずに泣いていたらしい。
「はは、ははは...なんで私、泣いてるんだろう...」
智恵は、顔をあげる。
「え、あ、ごめん。急に抱きついてごめん。栄も嫌だったよね...あは...はは。ごめんね」
智恵が、俺から離れそうになる。
”ガシッ”
「きゃ」
智恵の口から、小さな悲鳴。俺は、智恵を離さんとばかりに抱擁を交わす。きっと、離してはならなかった。
個室に何日も閉じ込められた智恵は、迫る締切───文字通りの「デッドライン」に怯えながら必死に部屋の暗号を解いていたのだ。
「栄...私、2日からお風呂入ってないから...臭いよ?」
俺は、何も答えずに首を横に振る。
「さか...え...」
智恵が、俺の名前呼ぶ。
「もう少しだけ、こうしてていい...かな?」
「あぁ」
俺は、智恵の願いを了承する。愛なんぞは囁かない。
───囁やけばきっと、その愛に溺れてしまうから。
***
とある暗室。マスコット先生が、生徒会室の窓から外を眺める。
「58...59...60」
そして、ニヤリと笑う。
「タイムオーバー。ただいま、4月5日を迎えました。課題を終了させたものは31名ですか...」
そう、呟いた。
「死んだ、平塚ここあさんもカウントされているので、課題を終了させた生存者は30名...ですね」
残りの5名は課題を終わらせていないことになる。
「本戦への出場権を獲得したのは30名...ですかね」
マスコット先生は、椅子に座る。そして、こう宣言した。
「開幕の悲鳴はなった。そろそろ始めようとするかな」
マスコット先生の手には、見つからなかった死んだ平塚ここあの腰部分があった。
***
智恵と抱擁を交わしたその後、俺らはお互いの個室に戻り至って健全な夜を過ごした。いかがわしいことは、何もしていない。
俺が、起床したのはいつもと同じ5時30分。
「結局、この時間に起きちまうのか」
「眠い」という気持ちや怠さはなかった。
「また、この時間に起きちまったか...」
俺は、そんな事を言って学校に行く7時45分までを朝の支度をして過ごした。
そして、7時45分に俺たち4人は学校に向かう。
A棟の教室にあった、平塚ここあの死体は残されたままだった。
そして、一つの疑問が生まれる。
「───どうして、片付けられないんだ?」
「そう言えば、そうだな。死体回収班がいたもんな」
教室のドアをあけると、腐臭で満ちていた。換気をしていなかったから、死体の匂いが部屋中に充満していたのだ。
「んだよ、これ!クッサ!」
そんな事を言っていたのは、俺らと同じ時間に来ていた渡邊裕翔だった。
「クッサ!マジクッサ!鼻がねじ曲がりそうだわ!」
そう言って、開けたドアを閉める。
「どうするよの、死体回収班も仕事してないんでしょ?」
「あ...もしかして...」
「純介、どうかした?」
「死体を回収していないのは、わざとだったりする?」
「と、言うと?」
「例えば、禁止行為とかで死んだとすれば、それは回収されたでしょ?でも、誰かが───例えば生徒会とかが殺して、それを元に別の誰かを犯人の扱いにするように先生から指示された───とかだったら...どう?」
「そんな手が?」
「───でも、犯人を決めつけるような行為は、誰も───いや、栄はしていたか!じゃあ、生徒会は栄?」
そんな突飛な妄想を渡邊裕翔は語る。
「違うよ!俺は生徒会じゃない!」
そんな、信じてもらえないような否定の仕方を俺はしてしまう。
「本当にぃ?でも、細田歌穂さんのこと疑ってたじゃんかよ?」
「それは...そうだけど...」
そんな会話をしていると、3階の方から全身を防護服に包んだ数人の人物が降りてくる。
そして、平塚ここあさんの死体を回収してどこかに行ってしまった。ドアを開いたままにして出ていったが、先程まで部屋を充満していた腐臭が無くなっていた。
「回収...していった...」
「純介の考察は間違っていた?」
「いや、オレは違うと思う」
先程まで、静かにしていた健吾が口を開く。
「どうして?」
「オレらが、純介の考察に気付いたからこそ回収したんだ。その真意は、誰かが知っていればいいだろう?」
「そう...だね...」
ならば、平塚ここあを殺した犯人は生徒会だと言うことになる。
「一先ず、教室に入ろうぜ」
そう言って、稜は教室に入っていく。稜は、先程まで自分の座る机に平塚ここあさんの右足が置いてあったこともあり、少し椅子に座りづらそうにしていた。
そして、朝の待ち時間を過ぎ去っていく。マスコット先生が教室に入ってきた。
「皆さんに、ご報告があります」
マスコット先生が、真面目な顔をしている。きっと、平塚ここあさんが死んだことの報告だろう。
「第2ゲーム『スクールダウト』の開幕が決定しました!」
平塚ここあさんが死が、第2ゲームスタートのトリガーとなった。
真実と嘘の混ざりあった1週間が、今始まる───。
個室の鍵の解錠←前座
土日の課題←予選参加条件
第2ゲーム予選←本戦参加条件
第2ゲーム本戦←ミニテスト
ミニテストまでの道のりが長すぎる!
でも、このミニテストでやりたいことがあるので。





