6月19日 その㊵
───帝国大学附属高校に所属し、鈴華だけの神に出会え。
これが、オレ宛に幸福教の絶対心であるコウフク様から与えられた天啓。
「───帝国大学附属高校?なんじゃそりゃ...」
預言者として、大金が入ってくるオレは、大学にいくつもりなどなかったが、コウフク様が「行け」と言うのであれば、オレはそれに従わない余地はない。
───そう。もうオレも立派な、幸福教の信徒に成り果てていたのだ。
だって、オレが知らない情報やワードが突如として頭の中に流れてきて、その通りに動かせば万事上手く行くのだ。誰だって、コウフク様がいる───そう信じてしまうだろう。
実際、今回だって「帝国大学附属高校」だなんてものは存在していなかったし、知らなかった。
だが、両親に「そんな天啓があった」と説明すると、「やっぱり、コウフク様は見ていてくれているのね」などと口にして、花浅葱色の封筒の中から、帝国大学附属高校の入学の勧誘が書かれた手紙を取り出した。
どうやら、帝国大学附属高校というものは来年度から行われる初の試みのようで、世間一般には流れていなさそうだった。実際、調べてもそれらしい情報は何もヒットしなかったし、それっぽい書き込みも見られなかった。
考えれば、怪しい手紙だったのだけれども、コウフク様の天啓に従うために、オレはその学校に入学することになった。
入学した。オレは、教室に入って一目で、園田茉裕を───神を見つけた。
それは、見た瞬間にわかった。園田茉裕の名を持つ神は、オレを一瞬で虜にするほどの強いオーラを放っていた。オレは、一瞬でそれに惚れ込み、コウフク様の言っている神であると理解した。
そして、オレは光復郷の絶対神であるコウフク様から天啓を授かりながら、オレにとっての唯一神である茉裕の使徒として動くようになった。
入学初日───4月1日に行われた寮のチーム決めの時、オレは真っ先に神を取り込んだ。
コウフク様から、「生徒会になるな」と「帰ったらすぐに寝ろ」などという天啓があったので、オレはその日、帰ってすぐに寝たし、生徒会にもならなかった。
また、4月16日に行われたクイズ大会では、答えをすべてコウフク様に教えてもらっていたし、第3ゲーム『パートナーガター』で廣井兄弟との戦いに参加したのも、第4ゲーム『分離戦択』第一回戦『リバーシブル・サッカー』に出場したのも、全部コウフク様のお告げのとおりであった。
最近───第5ゲーム及びラストバトル『ジ・エンド』の行われた5月14日を境に、コウフク様の声は聴こえなくなってしまったが、もう茉裕という唯一神を見つけたオレに、コウフク様の天啓など必要なかったから、茉裕の指示だけを頼りに暮らしていた。
茉裕と沙紀が身を隠すようになってからは、オレは他の生徒会メンバーなどと協力して、しっかりと茉裕に情報を流していた。茉裕のためになるのであれば、どんな仕事でもやりたかったが、茉裕が
「鈴華は私にとっての切り札なんだよ。だから、いざという時までは大人しくしてて」
だなんて言うから、オレはそれに従って大人しくしていたのだ。
───そして、いざという時は、ついに来た。
6月18日・19日に行われた第6ゲーム『件の爆弾』。その最後に、暴れる時間を用意してくれる───とのことだった。
だからオレは、その時を一日千秋の思いで待っていた。そして、ついに暴れるときが来た。
───オレは、沙紀が死んだ後に、戦場へと乗り込み、速攻で拓人を殺害した。
できれば、もう少し殺しておきたかったが、俺は覚醒した智恵と栄の2人に殺された。
───だが、後悔はない。
だって、茉裕のために死ねたのだから。茉裕の役に立てたのだから。
お金というものは、人間が作り出したものなのだから、神には必要ない。実際、コウフク様だって茉裕だってお金を必要だとは言っていなかった。
だけど、神は手助けを必要としているのだ。信徒に天啓を渡す───というのは、我々信徒に助けを求めているのだ。
茉裕に作戦があったように、コウフク様にもきっと人類全てを巻き込む大きな野望があり、それを実行するためにオレに天啓を渡していたのだろう。
別にコウフク様の野望なんかオレには関係ないしどうでもいいが、オレは茉裕の作戦に協力して、戦死したことを誇りに思う。
殺せたのは拓人1人であるが、それ以外に大打撃を与えることができただろう。
だからこそ、オレは心から満足していた。
[スズカ。よく頑張ったナ]
「───この声は」
オレの脳を刺激するように、声をかけてくるのは1人の───いや、一柱の神。
その聞き馴染みのある声で、オレはすぐに誰かわかった。コウフク様だ。
「コウフク様?」
[そうダ。ご苦労でアッタ。スズカだけの神を見つけらレタこと、快く思ウ]
コウフク様の姿が見えないのはいつも通りだ。オレは、途切れている意識の中で───いや、もう死んでいるので、どこかわからない場所で、もはや人間によって命名すらされていない異空間で、コウフク様と言葉をかわす。
「ありがとよ、天啓をくれて。コウフク様のお陰で、オレは神に───茉裕に出会えた」
「コウフク───だったカ?」
「あぁ、コウフクだった」
「ならばヨシ。コウフク界へ行く権利を授けヨウ」
その言葉と同時、オレの意識はまた別のところへ飛ばされる。
コウフク様と、その眷属達のいるとされているコウフク界へと連れて行ってもらえるのだろう。
───茉裕は神であるため、絶対神であるコウフク様の眷属という立ち位置だから、ここで待っていればいつか茉裕は来る。
80年くらい待つことなんか、タフなオレにとっては苦でもなかった。
もう一度茉裕に会えるその時まで、オレはコウフク界で生き続ける───いや、死に続けるのであった。
***
「いやー、いい話!ナミダ・ナミダ!」
マスコット大先生に向けて語られたわけでもない鈴華の走馬灯を覗き見て、マスコット大先生はそんなことを口にする。
「やっぱり、感動しますね〜。馬鹿が神に縋って報われる話は」
マスコット大先生はそう口にして、その被り物の口角を上げる。
「神なんて、人間が作った創造物。存在しないんですよ」
人の信仰心を蔑むマスコット大先生。その一言は、鈴華の人生を否定するものであった。
だが、そんなことマスコット大先生には関係ない。何故なら───
「安土鈴華さんはもう何も話せない。なにせ、死んだ人間ですから!」