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6月19日 その㊴

 

 安土鈴華───オレは、喉の上顎の消失を、熱さで感じ取りながら、オレは死を察した。


 ───もう、俺は死ぬ。


 助けてくれ、茉裕。

「あ、ひろ...」

 オレは、オレにとっての神である茉裕の名前を呼ぶものの、助けに来ることはない。


 いや、最初からわかっていた。神は無慈悲であることを。オレは、神が助けに来ないことくらい、最初から覚悟していた。

 神は民のために動いてるのではなく、神は神自身のために動いているのだから。


 ───だが、後悔はない。


 オレの人生は、神がいてくれたからこそ、成り立っていたのだ。オレのこれまでの人生は、神に役立つためにあったのだ。


 ***


 ───オレの家は、荒んでいた。


 オレがヤンキーになったのも、家庭の影響が大きいだろう。オレが、茉裕を───神を崇拝するようになったのも、家庭の影響が大きいだろう。


 オレの両親は、「幸福教」と呼ばれる宗教の熱狂的な信者であった。

 オレが産まれるよりも前から、両親は幸福教の信者であったし、オレが「なんで信じてるんだ?」などと問うても、


「なんでって、そりゃあコウフク様が鈴華の出産の手助けをしてくれたのよ。コウフク様のご加護が無ければ、鈴華は産まれてなかったのよ」

 などと、オレが求める答えとは全く無関係な、頓珍漢で洗脳されたかのような答えしか帰ってこなかった。


 ───と、幸福教についてもう少し説明した方が良いだろう。


 幸福教は、オレの住んでいる兵庫近辺───近畿地方に約25000人程の信仰者のいる宗教であった。

 創設者が誰───だとかは知らないが、幸福教は「コウフク様」と呼ばれる神だけを信仰する一神教であった。


 だが、コウフク様は「アナタの信じる神が神です」などと、コウフク様自身に拘らないような発言をしている───とのことだった。

 コウフク様は神様で、実在の人物ではないのでそんな発言は「コウフク様が言った」となされているだけなのだが。


 世界観としては、数多の神の上にコウフク様の存在がある───といった感じであった。

 だからこそ、オレは茉裕という神を見つけることができたし、茉裕に付き従うこともできた。


 ───そう、オレも幸福教の信仰を強制させられていたのだ。


 もっとも、オレの家には両親の影響で幸福教の影響が根強くあり、強制されなくともそれに付き従っていたとは思うけれども。


 ───と、オレが産まれてから中学生にあがるまでは、胡散臭さは残れども、正統な宗教として成り立っていた幸福教であったが、その代表が変化した時期から、色々と変わっていった。


「安土さん。これは、コウフク様の祈りが詰まった壺です。これを所有するだけで、安土さんの家には幸せが舞い込むことでしょう」

「安土さん。これは、コウフク様の願いが込められたネックレスです。これを身に着けているだけで、安土さんの願いは叶うでしょう!」

「安土さん!これは、コウフク様がアナタの身を守ってくれるブレスレットです!これを身に着けているだけで、安土さんは安心安全に生きていけるでしょう!」


 ───詐欺。


 傍から見れば、疑うまでもなくすぐにそう理解できる内容であったのだが、オレの両親はそれが「本物」であると信じて疑わなかった。


「お袋!どっからどう見てもおかしいだろ、詐欺だろ!」

「鈴華は黙ってなさい!アナタはコウフク様に力を借りて産んでもらったのよ!そんな態度をとってもいいと思ってるの?幸せになれないわよ!」

 両親ほど幸福教に狂っていなかった───茉裕という神を見つけることができていなかったオレは、それが詐欺であると見極められていたけれども、両親は心の底からそう信じているようだった。


 そして、両親は幸福教から売られるボッタクリのような商品を、借金をしてまでも買い漁り、3億を超える買い物を行った。

 オレには、そこまで没頭する理由がわからなかったし、日に日に狂ってやつれていく両親のことが不気味に思えてきたがために、次第に両親に反発するようになり、ヤンキーとなっていった。


 そして、喧嘩で右目の怪我をした。

 治療すれば治る怪我だった。だけど、両親はオレのことなんかよりもコウフク様への献金を優先して、オレの目の治療代を支払わなかった。


 だから、オレの目はグジュグジュと痛み腐っていき───。


 オレの右目は失明した。日に日に見えなくなる右目に恐怖感があったので、完全に見えなくなる前に眼帯を使用して、その右目を塞いだ。

 眼帯は、コウフク様が用意してくれた───などというものであり、その時から、オレはコウフク様の声が聴こえるようになっていった。


 そう、オレはコウフク様の声が聴こえていたのだ。右目の視力を失った代わりに、コウフク様から天啓を受け取ることができるようになっていたのだ。


 オレは、両親にそのことを話した。すると、すぐに幸福教から祀りたてあげられて、これまでの借金が嘘だと思えるほどに大金持ちになった。

 その代わり、オレには幸福教を信仰する皆へ、コウフク様の天啓を伝える役目を与えられたのであった。


 ───もちろん、オレにも天啓が与えられた。


 その天啓の内容。それは、「帝国大学附属高校に所属し、鈴華だけの神に出会え」という内容であった。


 ───そしてこの瞬間から、オレの人生は素晴らしい方向へと動き出すのであった。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
[良い点] 鈴華、このパターンか。 これはこれでかなり悲惨ですよね。 某物語の某戦場ヶ原さんを少し思い出した。 まあこの状況なら、 何かにすがりたくなるのも無理ない。
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